放課後の廊下は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。
プリントを出しに行こうとして、音楽室前で足を止めた元貴は、隣の音楽準備室から漏れる物音に、思わず扉に目をやる。
——ガタン。
誰かが棚にでもぶつかったような音。
(あれ……まだ誰かいる?)
と気になり、少しだけ開いた隙間から中を覗く。
そして——
「……っ、やめろ……っ!」
「ん? そう言うわりに、こんなに……懐かしいでしょ? こういうの」
その一言で、全身の血の気が引いた。
ロッカーの影、シャツを乱され、壁際に追い詰められている若井先生。
その身体を押さえつけるように覆いかぶさっているのは、藤澤先生だった。
「や、やだって……こんなとこで……!」
「でもさ……久しぶりだし。若井センセが悪いんだよ? 俺と再会しても、何もなかったみたいな顔して」
「……っ、それは……」
若井先生のシャツははだけ、肌が露わになっている。
その首筋に顔を埋め、執拗に舌を這わせる藤澤先生。
片手で腰を押さえつけ、もう片方で器用にベルトを外していく。
「ほら、忘れたの? あの高校の音楽準備室で、泣いて俺にしがみついてきたの……」
「っ……言うなよ……!」
「まだ覚えてるよ、あの時のお前の声。あれから、何年ぶりだっけ?」
(……え?)
元貴の胸がざわつく。
“あの高校” “再会” “久しぶり”。
——先生たち、前から知り合いだった……?
「っ、だからって……こんなところで……!」
「関係ない。俺はまた、お前のそういう顔が見たかっただけ。……ほら、滉斗のここ、もう熱くなってるよ?」
「あ、や、そこ……くっ……!」
藤澤が腰を抱えたまま、静かに座らせるように床に押し倒すと、若井のシャツが乱れ、薄い腹筋が震えを見せた。
「やめ……藤澤……っ、誰か来たら……っ」
「誰も来ないよ。だって滉斗はもう、ここでしか果てられない体になってるもんね?」
「っ……バカにすんな……っ」
「バカにしてない。惚れてるって、こういうことじゃないの?」
会話はあまりに生々しく、でもどこか切なく、狂おしかった。
(……あの先生が……あんな声、出すんだ……)
舌が、耳を舐め、胸元を執拗に責め立ててくる。
そして藤澤が若井の奥へと侵入してくる。
水音と共に、ぐちゅ、と濡れた音が響く。
彼はビクンと反応して背を反らせた。
「あっ、あ、く……っ、奥まで……っ、やばい……っ」
「相変わらず可愛い声……俺以外に聞かせたこと、ないよね?」
若井の指が藤澤の背に食い込む。
汗ばむ肌が赤く染まり、息遣いが早くなる。
涙すら滲んでいるその顔を、藤澤は優しく手で包む。
それでも動きを緩めることはなく、むしろ深く、激しく。
「あっ、あぁ……だめ、イく、イっちゃう……っ」
「…滉斗…俺の名前、呼んで…っ」
「……涼…ちゃん…っ!」
「滉斗……っ!!」
果てる瞬間、2人が互いの下の名前を呼び合った。
まるで禁忌を肯定するような響き。
その名を口にしただけで、快楽の頂点がさらに引き上げられていくようだった。
その一部始終を、元貴は動けないまま見届けていた。
⸻
逃げるように校舎を後にした元貴は、自転車をこぎながら何度も深呼吸をした。
(……なんで俺、全部見てたんだろ)
家に着く頃には、制服が汗で背中に張り付いていた。
部屋に入り、玄関の鍵をかけた瞬間——
「……っ、は……」
膝から崩れ落ちそうになる。
頭の中では、若井先生のあの顔が焼き付いて離れない。
制服のままベッドに倒れ、目を閉じる。
若井の潤んだ目、果てる瞬間のあの呼び声。
それを思い出すだけで、熱がこみあげてくる。
(……俺にも……あんな顔、見せてくれたら……)
手が、制服の下へと忍び込む。
熱く膨らんだ欲望を握ると、全身が震えた。
「……若井先生……」
浅く息を吐きながら、腰が浮いていく。
「……せんせ、……ああ、ダメ……っ」
何度も想像する。
藤澤先生に押し倒される先生。
果てる瞬間の名前。
そのすべてが、元貴を突き動かす。
片手で口を塞ぎながら、もう片方の手が早まる。
理性が溶けて、ただ“あの顔”が見たくて、感じたくて。
「……先生……あ、ああ……っ!」
快感が頂点に達し、指先が白く染まる。
自分が何をしてしまったのか、理解しながらも、身体の熱は収まらなかった。
(俺……先生の、あんな顔……もっと見たいって思ってる……)
それはもう、ただの好意じゃなかった。
もっと深く、もっと強く。
自分のものにしたい——そう思ってしまった。
コメント
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めっちゃイイ…… もうなんか……言葉に表せないですこの気持ち……最高です💓