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#鳴海弦
( ᐛ )
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<鳴海視点>
訓練はその後も滞りなく進んだ。
隊員は和気あいあいと技術を磨きあって、亜白は軽く長谷川に怒られて。
変わり映えしない、普通の光景。
…ただ、一点を除いて。
ボクは訓練場を見渡した。
どこにもいない。
さっきまで確かにそこにいたはずの、保科が。
<保科視点>
…気づかれたかもしれない。
人気のない階段。
上る途中で足が止まった。
階段を上っただけでなるはずのない激しい息切れ。
階段に虚しく響くのは、自分の荒い呼吸だけだった。
目に入る蛍光灯の光さえ煩わしい。
さすがに無視できない異常なまでの体温。
踊り場までは耐える、とあと数段を乗り越える。
壁に手をついて体を持たせる。
自分の体調なんかより、鳴海に気づかれたかどうかの方が重要だった。
迷惑をかけるのだけは回避したい。
ずるずると、壁を背に座り込む。
あと5分。
あと5分だけ、止まっていたい。
そうしたら…もう立川に、帰ろう。
<鳴海視点>
放って置くつもりはない。
あいつと同じように訓練場をするりと抜け出した。
どこに行った…?
保科が有明に来ること自体稀だ。
よく知らない場所で、そんな入り組んだところへは行かないはず。
いや…
あり得るか?
ただでさえ判断力が落ちているようだった。
普段ならしないことをやらかしても不思議じゃない。
人目につくところは除外だな。
もしそこに居たとしたら、とっくにボクに連絡が来てる。
人気がない棟に足を向けた。
あいつなら一体、どこを選ぶ。
座り込んだままだった保科はそろそろ5分経ったか、と動きだす。
鈍った聴覚にかすかな足音が届いた。
(うそ、やろ)
上手く取り繕える自信はない。
だんだん上ってくる足音。
諦めて言い訳する覚悟を決めた時。
「…いた」
わずかな声をこぼした鳴海と目が合った。
よりによってごまかしにくそうな人が…とため息をつく。
鳴海の完璧に据わった目は保科の顔色と息遣いを見ていた。
「…お前、今日おかしいぞ」
紛れもない事実を述べる。
「…そうですか…?」
あくまでしらばっくれるつもりの保科。
「とぼけんな」
熱でまわらない頭で必死に言い訳を探す。
いつもならすらりとでてくるはずの言葉が喉につかえて出てこなかった。
「気の所為…やと」
苦し紛れに出したのは、ありきたりな言い訳。
鳴海の目がさらに据わる。
一歩距離を詰めた。
「ほう?自力で立ち上げれないくせにか?」
ド正論。
普段なら言い返せたはずなのに今日に限って何も思いつかない。
答えに迷う保科にさらに一歩近づく。
保科は反射的に身を引こうとするが、いかんせん体が言う事を聞かなかった。
「なぁ」
閉口せざるを得ない保科と反対に、鳴海が口を開く。
これは聞いてはいけない。
きっと答えられない。
なのに遮る言葉さえ出ないまま。
「なんで、隠す?」
言われてしまった。
言わせちゃいけなかったのに。
いつの間にか、2人の間にあった物理的な距離はあってないものになっていた。
知られたくない。
知ってほしくもないし、知られて余計な気遣いをされるのも嫌だ。
故に、その質問には無言を貫く。
「もう…僕に構わんとって…」
思ったよりもずいぶん弱々しい声。
情けない。
誰ならいいなんて区分はないけれど。
この人には特に見せたくなかった、僕の弱いところ。
「ふぅん」
鳴海は目を細めて保科を見た。
特別な、電気信号を読む目なんて必要ない。
見れば分かる。
保科は弱っていた。
それでもレティーナ越しに映る情報は、その予想をさらに裏付けた。
「立て」
たった二文字が冷たく響く。
「はい」
立ち上がろうとしてふらついた保科の手をつかんで引き上げる。
想定外の軽さ。
識別怪獣兵器一号の発動中、濃い桃色に光る瞳がわずかな動揺でゆらりと揺れた。
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