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「博貴、夕食の準備しているところ申し訳ないけれど、話があるから座ってくれる?」

「今日は、亜香里の好きなビーフストロガノフを作ったよ。ちょうど、飯島からドイツのお土産のワインもあるし一緒に飲もう」

飯島とはまだ商社で働いている彼の同期だ。

彼はエースと呼ばれていた要領の良い博貴の影に隠れたような存在だった。

しかし、今は立場が完全に逆転している。


博貴の起業がうまくいってないと、ドライな商社の元同期は離れていったが飯島翔太は違った。

起業した会社が上手くいっていないのはバレバレなのに、昔のように偉そうにする博貴の良き話し相手になってくれている。


そして、私は前回宝くじの当選を告白した夕食の場で彼に離婚を切り出すことにした。


「赤ワインなんて、飲む気分じゃないの。博貴、離婚してくれる? 理由は性格の不一致よ。今のあなたは私の好きだったあなたじゃないの」

私は敢えて自分が言われて一番傷ついた言葉を言った。


人なんて外見も内面も変化するものだ。

その変化を認め合い寄り添い合うのが夫婦なのに、彼は前回それを放棄した。

だから、今度は私から彼を捨ててやるつもりだ。


「確かに、商社で君の先輩をやっていた頃とは違うよな。自分でも情けなく思ってるんだ」

博貴は私の急な離婚宣告に顔を覆って声を振るわせている。

私はそれをとても冷めた目で見ていた。


「そう、あなたのこと尊敬できなくなったの。夫婦って尊敬し合える関係じゃないと続かないわよね」

これも、博貴から言われた離婚理由の1つだった。

私は浮気相手に子供ができたと聞いても、彼と別れる未来を想像できず彼に縋った。

そんな私に「男に縋るような女だったなんて、君のプライドの高いところは鬱陶しく感じることもあったが尊敬していた。でも今の君の姿には幻滅したよ」と彼は言い放った。


「俺もっと頑張るよ。また、亜香里から尊敬される男になるように。しわくちゃになるまで一緒にいたいと思えた女は亜香里だけなんだ。俺が変わるから、離婚は考え直して欲しい」

涙声で懇願するように縋ってくる彼に私は怒りを必死で抑えた。

前回「一生添い遂げたいと思ってたのに、なぜ浮気したの?」と問い掛ける私を彼は冷たく切り捨てた。


「一生一緒にいたいと思っていたのは、あなただけだから。私はもう随分前からあなたが嫌いだった」

私は前回博貴から言われてショックだった言葉をまた吐いた。

まだ浮気して私を裏切ってもない彼に復讐するのは間違っているかもしれない。

でも、彼の言葉全てが嘘くさく演技くさく聞こえて私の怒りを誘う。


「酷いこと言うな。俺の知らない亜香里みたいだ」

彼の言う通りかもしれない、私は2年後、彼に裏切られ殺された記憶のある亜香里だ。


「博貴だって、私の知らない博貴が存在するでしょ。とにかく、早く離婚届にサインして!」

私は今にもブチギレそうな怒りを抑えながら、彼の手にペンを握らせようとする。

彼の顔を覆ってた手を振り解くと、彼は全く泣いていなかった。

それどころか、何を考えているか分からない表情のない顔をしていた。

(やっぱり、泣いている演技じゃない⋯⋯)


「分かった。そこまで言うならサインするよ。その前に、せっかく作ったからビーフストロガノフを食べよう」

博貴は意を決したような顔をして食卓の準備をする。

(良かった。無事に離婚できる)


ビーフストロガノフの美味しそうな匂いにお腹が空いてきた。

私の中に裏切り行為をまだしていない博貴への未練が流れ込んでくる。

私はその気持ちを自分を殺した彼の冷たい表情を思い出し振り払った。


「じゃあ、俺たちの3年間の結婚生活に乾杯!」

飯島さんから頂いたドイツ土産のワインが注がれると、一瞬殺された時の恐怖が蘇った。

でもすぐ後から、私は自分の運命を変えたことに高揚感が込み上げてきた。


「乾杯!」

笑顔でグラスを合わせて、ワインを一気に飲み干す。

「ガ、ガハ! ウグゥ!」

私はまたその場で血のようなワインを一気に吐いた。


(毒?なんで、このワインに入ってるの?)

私は遠のく意識の中で覚めたように私を見下す博貴を見た。


♢♢♢


「できるだけ生活は変えず、周囲の人にも当選の事実は伝えないことをおすすめします」

目を開けると、私はヒカリ銀行の応接室にいた。


私は確かに死んだはずなのに、明らかに宝くじを当選した28歳時点に戻っている。

(また、時が戻ったの?)


「もちろんです。絶対に、誰にも言いません」

私はまた時を戻ったようだ。


願わくば博貴と結婚する前に戻りたい。

飯島さんから頂いたワインに毒が入っていたと言うことだ。

しかし、彼が毒を入れる理由はないから博貴が入れたのだろう。


私がいなくなると経済的に行き詰まると思って絶望し殺人を強行したのかもしれない。


私はこの後、家に帰ると博貴に殺される運命を思い帰らないことにした。

離婚届など郵送で送って、サインをして貰えば問題ない。


7億円入ったのだから、贅沢ホテル生活をすれば良い。


私は区役所に向かうと離婚届をもらい、自宅に速達で郵送した。

博貴には、「もう顔を合わすのも吐き気がするから離婚して欲しい」と書いて手紙として添えた。



その後、私は大帝国ホテルに向かった。

「スイートが空いているなら、そちらでお願いします」

1泊100万円以上もするスイートは空室の日も多いのかすんなりと泊まれた。

7億円も当たったのだから、100万円なんて小銭と変わらないように感じる。


私は無駄に広いスイートのベッドに横たわってこれからのことを考えた。

スマホにひっきりなしに博貴から着信が届く。

私は彼の電話番号を着信拒否に設定した。


「飯島翔太?」

着信画面に博貴以外の名前が出る。

もしかしたら、博貴が着信拒否されているからと友人の彼に頼んで電話させたのかもしれない。

そのリスクを感じながらも私は着信に出ることにした。

飯島翔太は、信用できない人間ばかりの世の中で唯一私に安心をくれる人だった。


「亜香里ちゃん? 今日、博貴にお土産に赤ワインを渡したんだけど、もう飲んだ? 実は、前にワイナリー持つのが夢だって言ってたでしょ。そのワイン俺のワイナリーで作ったやつなんだ」

飯島さんの言葉に私は前回彼のワインで命を落としたことを思い出した。

しかし、彼が犯人なわけはない。

私は飯島さんのことだけは、なぜだか無条件に信用できた。

おそらく博貴が彼の赤ワインに毒を入れたのだろう。


この電話を受けたのは初めてだ。

あの夜は飯島さんからの着信を受けていた気がする。

でも、宝くじに当たったことに博貴と盛り上がっていてカバンに入れていたスマホの着信音に気が付かなかった。


「飯島さん。私、博貴と離婚しようと思ってます。彼が怖くて今避難してるんです」

「そっか、ずっと心配だったんだ。博貴の亜香里ちゃんへの接し方は異常だったし」

思わぬことを飯島さんから言われ私は呼吸が止まったような気がした。

私は自分が博貴から異常な対応をされていると思ったことはなかった。


ピンポーン

その時、ホテルの部屋のインターホンが鳴った。

(なんだろう、ルームサービスなんて頼んでないけど)


「あの、飯島さんちょっと待っててください」

私は電話を保留にして、部屋の扉を開けた。


グス!

瞬間、言いようのない痛みが腹部を走る。

私はナイフで刺されていた。


目の前を見るとホテルマンの帽子を目ぶかに被った男がいた。

口元がほくそ笑んでいるが、それが見慣れた博貴のもののように見える。


私はまた死んだのだろうか。

戻れるならば、博貴と結婚する前に戻りたい。

宝くじが当たったら、夫に殺されました。

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