ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。ファイル島の港長タロスさんと話が付いて、それと同時に先に上陸していたリンデマンさんが戻って来ました。
「リンデマン、首尾は?」
「悪い知らせだ、船長。前回取引した奴だが、イカサマがバレてな。生きたまま魚のエサにされたんだとさ」
それは刺激的ですね。試してみましょうか。
「ああ、なるほど。バカだね」
「ああ、バカだ。海賊相手に舐めた真似するんだからな」
どうやらバカの一言で済む話みたいです。
「となると、バザーの件に賭けるしかないねぇ」
「なんだ?バザー?」
「さっきタロスの野郎と話を付けてね。バザーにある屋敷があるだろ?彼処の主を紹介してくれたのさ」
「へぇ、あの屋敷か。確かに羽振りが良さそうだよな」
「だろ?そこの主とシャーリィちゃんを会わせるつもりだ」
「……危険じゃないか?先ずは俺が行くが」
「それには及びません。私が直接お話をしてこそ、誠意を示せると思うんです」
「……分かった。誰が行くんだ?」
「私が案内をするつもりだよ。リンデマンは留守を任せた」
「おう」
「あとはどうする?」
「ベルとルイを連れていきます。アスカは……」
「……行く」
「ではアスカも連れて行きます」
「お嬢に従うさ。何があっても守るからな。ルイはお嬢の側を離れるなよ」
「当然だ」
こうして私達五人は桟橋に降りて島へと足を踏み入れました。
荒くれ者達が行き交う海賊の町は危険な香りがプンプンしていますが、それとは別に活気も感じます。
「てめえ何処に目をつけてやがる!?」
「なんだコラァ!?やんのか!?」
「やれやれーっ!」
おっと、乱闘騒ぎですね。
「あんなのは日常茶飯事さ。大抵は死人が出る」
「まるでシェルドハーフェンだな」
「だから居心地が良いのさ」
なるほど。
「あら、可愛いわね。どう?お姉さんと遊んでいかない?サービスするわよ?」
おっと、目を離した隙にルイが魅惑的なお姉さんに誘惑されていますね。
……見るかに娼婦さん。色気がすごい。
「悪いな、姉さん。先約が居るんだよ」
「あら?隅に置けないわね?けど、たまには遊んでみるのも悪くないわよ?貴方こんなに格好いいんだもの。彼女さんだって許してくれるわ」
「ありがとよ」
……。
なんだか面白くない。
「ん?……はは。悪いな、姉さん。やっぱり止めとくよ」
「ふふっ、そうみたいね。可愛いわ」
……むぅ、大人の余裕ですね。ついついルイの袖を掴んでしまったのは私なんですけど。
「心配すんなよ、遊んだりはしないからさ」
ルイが小声で囁いてくれて、それで機嫌が直る自分に呆れます。私って所謂チョロい女なのでしょうね。
しばらく通りを歩いていると、開けた土地に出ました。そこはたくさんの出店と人々でごった返した場所でした。
「ここがバザー、この島の商売の中心地さ。ここに無いのは清く正しい心だけだって言われてるね」
「そりゃ良い、全員悪党だってことだな」
「海賊の島だからねぇ」
おっと。
「駄目ですよ?」
「……ん」
フラフラっと離れようとしたアスカの手を掴んで止めます。確かに興味深いものはたくさんありますが、それは交渉を終わらせてからです。
私達は雑踏を掻き分けながらバザーの奥にある大きな屋敷を目指します。
「これだけ活気があるなら、金回りも良いだろうな」
「『黄昏』だって負けてねぇよ。いや、ここ以上にデカい町にしてみせるさ」
「まっ、お嬢なら出来るだろうな。帝国一の町にしてやろう」
……帝国一の町ですか。随分と大きく出ましたが、大貴族を相手にするつもりならそれだけの基盤は必要になるかな。
必要なのは、たくさんの人、物、そしてお金。町の噂が広がれば人も集まる。統治には細心の注意を払っていかないといけませんね。
そんな話をしているベルとルイを見ながらしばらく進むと、大きな屋敷の前に辿り着きました。
「待て、この先は立ち入り禁止だ。立ち去れ」
屈強な門番が何人も居て威嚇してきました。
……なんだろう。彼らからは、他の海賊みたいな荒くれ者とは違う感じがする。
「港長のタロスから紹介されてね。もっと大きな商売をしたいんだ。ここの主に取り次いでくれないかい?」
エレノアさんはタロスさんから受け取った十字架を見せながら門番に話しかけました。
「……本物みたいだな。分かった、中に……」
「待てや」
私達の後ろから声が響き、振り向くと如何にも柄の悪そうな人が八人集まっていました。
「俺達は『闇鴉』の者だ。こんな奴らより、俺達にこそ会う資格があると思わねぇか?譲れや」
先頭に居るスキンヘッドの男性が威圧的に話し掛けてきました。
……『闇鴉』、ですか。
「おいおい、紹介を貰ったのは俺達だ。お前らもタロスに頼めば良いじゃねぇか」
ベルが然り気無く私やアスカを背に隠しながら割り込みます。
「ふんっ、その様な手を使うまでもない。我々『闇鴉』との取引を行えば莫大な利益を得られる。選択の余地などあるまい?」
「タロスに払う金を惜しむような奴にそんな取引が出来るとは思わないけどねぇ?」
エレノアさんも参戦。でもここで戦うのは……。
「紹介されたのは彼らだ。例外は認めん。正式に紹介されたものしか通すつもりはない。立ち去れ」
ここで門番さんが間に入りました。
「なんだと?……後悔するぞ」
「もう一度言う。屋敷に入りたければ正式な紹介を受けるのだ。誰だろうと例外はない」
「……ふんっ、その吠え面覚えたぞ。後悔しても知らんからな」
『闇鴉』の男達は捨て台詞を残して立ち去りました。
……『闇鴉』、こんな場所にも来るなんて。
「悪いな、騒がせちまった」
「構わん。主には伝達するから、中に入れ。ただし、中で見聞きしたことは他言しないこと。それを誓って貰う」
それを聞いたベルが私を見たので、頷いておきました。利益が出るならお安いご用です。
「分かった、誓うよ。契約書とかがあるなら用意してくれ」
「では、中に入れ」
屋敷の中に通された私達は、応接室で待機することになりました。
ですが、この内装は……。
「まるで貴族様の屋敷だな」
ルイの言う通り、調度品は高級品ばかり。シャンデリアまであるし、暖炉もありますね。ソファーもふかふか、床に敷かれた絨毯も質の良いものですね。
「……お屋敷と同じ?」
「そうですね、アスカ」
『黄昏』の領主の館と似たような部屋。ロザリア式?アルカディア帝国で?
「良かったね、シャーリィちゃん。これは大層な大物と会えるかもよ?」
「今から楽しみです」
そう、遊びに来たわけではありません。私達は屋敷の主との交渉に向けて気合いを入れ直すのでした。
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