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静かな午後だった。蝉の声がどこか遠くで響いている。
風に揺れるカーテンの隙間から、真夏の光が差し込んでいた。
あれから、もう何度も同じ夢を見た。
何度も、前世の二人に会った。
涙ながらに手を伸ばし、交わした約束。
“来世では幸せになろう”
その言葉が、ようやく私たちの中で現実になった。
『真美。』
誠也が私の名前を呼ぶ声は、もう痛みも、迷いもない。
その瞳に映るのは、ただ“今”を生きる私だった。
『ホンマに、ありがとうな。……また会ってくれて』
「こっちの台詞だよ。……また、見つけてくれて、ありがとう。」
二人は笑い合う。
こんなにも穏やかに笑える日がくるなんて、あの時の私たちは、きっと想像もしていなかった。
喉の傷跡は、もう痛まないという。
けれど、そこに指を当てると、微かに鼓動が感じられた。
前世で果たせなかった未来。
伝えられなかった想い。
守れなかった命。
全てが、この胸の中で“生き直し”をしている。
誠也がそっと私の手を取り、指を絡める。
『この人生で、もう一度、ちゃんと光……いや、真美を愛する。』
「うん……。私も、ちゃんと瑛士……いや、誠也を愛していく。」
それは、誓いだった。
指切りでも、契約でもない。
もっと強くて、もっと優しい、二人だけの“確かなもの”。
たとえまた、生まれ変わったとしても。
きっと私はまた、この人を探すだろう。
そして、何度でも恋に落ちる。
運命じゃない。
これは、私たち自身が選び取った“愛”だ。
小さな約束を胸に、二人は手を繋いだまま、窓の外に広がる夏空を見上げた。
『行こか、真美。二人で始めよ、この人生を。』
「うん。最初から、二人でね。」
そして私は、彼と共に歩き出した。
もう、迷わない。