テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#ロマンスファンタジー
百はな🍑
4,871
眠狂四郎
500
287
こはる
1,321
毒の製造に成功するか、もしくは失敗に終わればドックはもう不要。どの道、口封じの目的でレンティに殺される運命だった。
「ゼンティお願い、ドックさんを助けて!」
仕事上、レンティに毒の製造を強要されていただけのドックに罪はない。レンティに弱みを握られていた可能性もある。
まだ息絶えてはいないドックを、リィラは助けたいと願う。彼は悪い人ではない。それは普段の彼との会話だけでも分かっていた。
「……分かった。リィラちゃんの願いだからね」
魔物を毒殺するための毒を製造していたドックを助ける考えなんてゼンティにはない。
それでも、今にも泣き出しそうなリィラの懇願なら必ず叶える。それがリィラに対するゼンティの愛だった。
だが、いくらゼンティでも致死量の毒を注入された人間を解毒して助ける事は不可能だった。だから別の方法を取るしかない。
「アレン!!」
ゼンティが振り向きもせずに呼びかけると、いつの間にか後ろに控えていた武装姿のアレンが前に出てきた。
「彼を運んで」
「承知しました」
ゼンティの短い言葉で全てを察したアレンは、ドックを抱き上げて城の外へと歩いていく。
しばらくすると馬車が発車する音が聞こえた。アレンが馬車でドックをどこかに運ぶようだった。
リィラは不安に瞳を揺らしながら遠ざかっていく馬車の音に耳を澄ませていた。
「ドックさんを病院に運んだの?」
「うーん……ちょっと違うかな。彼とはまたベスティア国で再会できるよ」
その遠回しなゼンティの説明でリィラも全てを察した。
ドックはこれから森の中で獣魔に捕食される。
毒による瀕死のドックを助ける方法は、これしかない。生きているうちに獣魔に食わせて、獣魔の体となって生きる。
人間の体を得た獣魔は、捕食した人間の記憶もそのまま保有している。ある意味、人間が獣魔に『生まれ変わる』のだ。
以前のリィラなら拒んでいただろう捕食行為だが、今は不思議とその再生に希望を感じられる。それは獣魔と人間の共存の形なのかもしれない。
幸い、獣魔は毒が好物。ドックは長く苦しむ事なく獣魔の餌食となるだろう。
リィラは遥か遠くの空を見つめてベスティア国を思い出していた。
「……はやくベスティア国にも帰りたいな」
ベスティア国にはゼンティの両親もいる。あの明るく仲の良い夫婦は相変わらず甘い日々を過ごしているのだろうか。
故郷であるポワゾンを失ったリィラだが、気付けばベスティア国が新たな故郷になっていた。
ドックを森に置いて城に戻ったアレンは、その足でまずレンティの部屋へと行く。
気が高ぶっていたせいかノックを忘れたが、レンティはいつでもアレンだけは快く部屋に迎え入れる。
「あら、アレン。どちらにに行かれてましたの?」
人を殺めておきながら、レンティはいつものようにテーブルに着席してティーカップを片手に微笑んでいる。
アレンは感情を殺しながら普段通りの表情と口調でレンティと向かい合う。
「……毒の製造の担当者。始末したのですね」
「えぇ。あの男はダメですわ。使えませんわね。リィラさんと仲良くしすぎですし、いつ裏切るか分かりませんもの」
これから最愛の恋人に裏切られるとも知らずに、レンティは呑気に悪魔の言葉を語り続ける。
「結婚式の日、お兄様とリィラさんのお食事には毒を盛りますわ」
「……お二人とも始末されるのですか」
「そうですわね。お二人とも死ねば、それでよいですわ。もしリィラさんが毒の種族なら毒は効かないでしょう。その時は毒の原材料として使いますわ」
どの道、センティはその日に毒殺する。リィラに関しては普通の人間ならそのまま毒で死ぬし、毒の種族なら利用すればいい。
そしてセンティとリィラの結婚式と戴冠式を、そのままレンティとアレンの式に変えてしまう。
これが、レンティの18歳の誕生日に実行される計画の全て。
「……承知しました。必ず仕留めましょう」
「ふふ。もうすぐ私たちの時代になりますわ。一緒に幸せになりましょうね」
アレンの言う『仕留める』相手とは、レンティの事であるとも知らずに。
叶うはずもない野望を夢見て、レンティの運命の日は近付いていく。
コメント
1件
リィラの“助けたい”に応えるため、致死の毒じゃなく“生まれ変わり”という形を選んだゼンティ、憎いけど実は哀れなレンティ、そして静かに牙を研ぐアレン……全員の思惑が交差しててゾクゾクした。特に「彼とはまたベスティア国で再会できるよ」の言葉が切なくも優しくて、リィラの成長も感じられた。結婚式がどうなるか、続きが気になりすぎる…!