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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第56話 海翔視点〚 “この誤解は危険だ”と気づく回〛
バスが走り出してから、
海翔はずっと落ち着かなかった。
騒がしくもない。
特別なことも起きていない。
なのに。
(……噛み合ってない)
言葉にすると、
それが一番近かった。
後ろの席から、
時々、視線を感じる。
振り返らなくても、
分かる。
(真壁)
さっきから、
“様子をうかがう”というより、
“機会を待っている”目。
(……違う)
それだけじゃない。
海翔は、
澪の背中を見る。
肩の力は抜けている。
表情も、いつも通り。
でも。
(澪、
何か感じてる)
不安、というほど強くない。
警戒、というほど鋭くもない。
ただ、
“距離を測ってる”感じ。
(……あ)
その瞬間、
海翔の中で
一本の線がつながった。
(真壁、
勘違いしてる)
“受け入れられた”
“許された”
“特別扱いされた”
——その全部を、
都合よく。
しかも、
誰にも止められていない、
と思っている。
(……まずい)
海翔は、
歯を食いしばった。
これまでの恒一なら、
距離を詰めて、
空気を壊して、
周りに止められて終わりだった。
でも、今回は違う。
(修学旅行)
(班)
(同じ部屋)
(逃げ場が、少ない)
しかも、
恒一は“悪気がない”。
——だからこそ、
止まらない。
(このタイプの誤解は、
本人が一番信じ込む)
視線が、
また動く。
澪の方を見て、
小さく息を吸う仕草。
(……話しかける気だ)
海翔は、
自然に体をずらして、
澪と視線が重ならない位置に入った。
露骨じゃない。
でも、
“間に入る”距離。
澪が、
一瞬だけこちらを見る。
(……大丈夫)
声に出さず、
目で伝える。
澪は、
小さくうなずいた。
それを見た瞬間、
海翔の中で
覚悟が固まった。
(これは、
偶然じゃない)
(誤解が、
放置されてる状態だ)
先生も、
気づいている。
でも。
(大人は、
「何か起きてから」動く)
(でも俺は、
起きる前に止める)
“守る”じゃない。
“排除”でもない。
(境界線を、
はっきりさせる)
海翔は、
そう決めた。
バスが揺れて、
次の休憩所の案内が流れる。
その音が、
やけに現実的に聞こえた。
(……ここからだ)
真壁恒一は、
まだ気づいていない。
自分の誤解が、
もう“危険域”に入っていることを。
そして。
それに
最初に気づいてしまったのが
自分だということを。
海翔は、
もう一度だけ澪を見て、
視線を前に戻した。
(絶対に、
巻き込ませない)
そう心の中で言い切った瞬間、
バスは
休憩所へと減速し始めた。