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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第57話 〚担任視点〛
「海翔の行動が“防衛”だと理解する回」
バスの通路を見渡しながら、
担任は小さく息を吐いた。
(……静かすぎる)
修学旅行の朝にしては、
妙に落ち着いている。
騒ぎがない。
トラブルもない。
それなのに。
(緊張が、
均一じゃない)
担任の視線は、
自然と一つの場所に止まる。
海翔の座る席。
彼は、
前を向いている。
スマホも触らず、
友達とも話さず、
ただ、姿勢を崩さずに座っている。
(……見張ってる?)
いや、
違う。
担任は、
その一つ前の席を見る。
澪。
背もたれに寄り、
静かに座っている。
表情は、
穏やかだ。
怖がっている様子も、
困っている様子もない。
(……でも)
担任は、
視線をずらす。
後ろの方。
真壁恒一。
落ち着かない。
前を気にしている。
何かを探すような目。
(……あ)
その瞬間、
担任の中で
一つの言葉が浮かんだ。
(防衛だ)
海翔は、
誰かを威圧しているわけじゃない。
注意しているわけでも、
制止しているわけでもない。
——ただ、
“境界線を作っている”。
澪の前に、
自然に立つような位置。
話しかける隙を、
静かに消す距離感。
(……これは)
(子どもが、
子どもを守ろうとしてる)
それに気づいた瞬間、
担任の胸が
少しだけ重くなった。
(本来なら、
私たち大人がやるべきことだ)
でも、
現実は違う。
澪は、
何も訴えていない。
真壁も、
“問題行動”と呼べることは
まだ何もしていない。
——だから、
大人は動けない。
(……それでも)
海翔は、
もう動いている。
“何かが起きる前”に。
(この子は、
危険を予測してる)
それは、
経験か。
直感か。
それとも——。
担任は、
一度だけ目を閉じて、
深く息を吸った。
(見ていよう)
(でも、
全部を任せてはいけない)
この防衛は、
一人で背負うには
重すぎる。
担任は、
さりげなく
座席表を見直す。
休憩所。
班行動。
自由時間。
(どこで、
線を引くべきか)
(どこから、
大人が出るべきか)
その判断を、
間違えてはいけない。
ふと、
澪が
窓の外を見ているのが見えた。
何も起きていない顔。
だからこそ。
(……起こさない)
担任は、
心の中でそう決めた。
バスが、
休憩所に到着する。
ドアが開く音がして、
生徒たちが立ち上がり始めた。
その中で。
海翔は、
誰よりも早く立ち、
自然に澪の近くに立った。
それを見て、
担任は確信する。
(これは、
“過剰”じゃない)
(必要な、防衛だ)
——そして。
(次は、
大人の番だ)
担任は、
静かに一歩、
前へ出た。