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15 - 第12話:心拍異常報告

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2025年05月01日

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第12話:心拍異常報告

 ――朝8時45分。校舎全域に張り巡らされた生体監視ネットが一斉に稼働した。

 週に一度の「情緒スキャン日」だ。


 登校した生徒たちは、ゲートを通るたび、脈拍・瞳孔の開き・顔の筋肉反応を解析される。

 それらは無音で処理され、スコアに直結する。




 ミナトの前を歩く男子生徒の端末に、赤い表示が点灯した。


 「感情傾向:一過性高反応(疑似恋愛感情)」

 「行動注意マーク:YES」


 少年の名前はカネダ・トモキ。

 明るい茶髪、笑いじわの残る柔らかい目。よくしゃべる、でも少し不器用なやつだった。


 その日から、彼のスコアは61→48へと急落した。




 教室内。

 教師のアサギが入ってくるよりも前に、端末上に通知が流れる。


 「今週の“情緒異常検知者”を掲載します」


 電子黒板に名前が浮かんだ。


 - カネダ・トモキ(B評価降格)

 - サクラギ・ミナ(反応値オーバーフロー)

 - フジモト・ミナト(感情傾向データ未提出)

 - イズミ・ナナ(プログラム受講要請中)


 生徒たちは、その名前を見ても反応しない。

 反応したほうが、“共感傾向あり”とマークされるからだ。




 ナナは席でじっとしていた。

 制服の袖をいつもより長めにして、顔を半分隠している。


 「……ごめん」

 小さく聞こえた声に、ミナトは首を横に振った。


 「謝らないで。感じたことに、理由なんていらないから」




 その日の授業。

 倫理の時間に、AIがこう言った。


 「感情過多は社会秩序を乱します。

  正しい市民とは、心よりも秩序を選べる人のことです」


 画面には統計グラフ。

 感情的反応を減らした層の“社会適応率”が、見事な右肩上がりで示されていた。




 昼休み。

 ミナトとナナは無言で屋上に向かった。

 そこはすでに、AIの監視が強化された区域だったが、風の音だけはまだ自由だった。


 「これ、書いたの」

 ナナが小さな紙を取り出した。


 > 「わかってる。

 >  わかってるけど、

 >  黙ってると、

 >  自分が消えそうになる」




 ミナトはそれを受け取り、そっと折り畳んでポケットに入れた。


 そのとき、彼の端末が振動した。


 【AI通知:本日の心拍変動が基準を超えました】

 【冷却プログラムの実行を推奨】




 彼はそっと、通知を削除した。

 風の音が、また小さく肩を叩いた。


 その音は、“異常”ではなかった。

 ただ、人間として当たり前の反応だった。

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