テラーノベル
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イギリス×ドイツ
ドイツも最後に出てきますが、”ドイツ自体”よりかは”人間”がメインです。
改行が多いのもあるかもですが、7000文字(四捨五入して8000)あります。
一気に最初から最後まで読んでほしいので、少し時間に余裕があるときに読むことを推奨します。
衝動書きなので誤字脱字や変な文があるかもしれません。
地雷の方はブラウザバック推奨!
僕のお父さんは凄い人だった。
大英帝国なんて呼ばれていた。
広大な領土と権力を持ち、太陽の沈まない国なんて呼ばれるほど偉大な人だった。
お父さんはそれだけ何もかもを持っているというのに、息子である僕を優遇だとかそういうのは全然しなかった。
いや、優遇くらいはされていたかもしれないけど、僕はそれを幸せに感じなかった。
一緒に遊んでくれ、と頼んでも軽くあしらわれたり、「失せろ」などという言葉を掛けられたり、暴力を振るわれたりもした。豪華で決して貧相ではない暮らしをお父さんにくれたが、僕は毎日お父さんにびくびくしながら暮らしていた。
いつだっただろうか。僕が、…人間の年齢に換算すると、小学2年生ほどの時か。
「ブリテン、紹介する者がいるからついて来い」
僕はお父さんに連れられて、とある部屋に連れていかれた。
無駄に重い扉を開けてその先には、とある真面目そうな男が一人、スーツを着込んで上品に立っていた。
男は軽く僕とお父さんに礼をした。お父さんが口を開いた。
「私はこれから忙しくなるから、…お前に構えなくなる。
これから彼がお前の世話係だ。長く世話になるだろうから挨拶しておけ」
僕はあまり頭に入ってこなかった。
お父さんが僕のもとから消える。家族なのになんでこんなにも遠いのだろう。いつもそうだ。家族の、実の息子である僕よりも、堅苦しい男の人たちとばかりつまらないお話を延々としている。なんで僕と沢山お話してくれないんだろう。僕と同い年の他の国はもっと愛情を注いでもらっているのに、なんで僕だけ独りなんだろう。僕の頭はそればっかりで、目の前の男に話しかけられるまで、意識がそちらに向かなかった。
「…初めまして。大英帝国氏の、…息子様ですよね。」
「あっ、あぁ、…そう、です」
僕はぎこちない返事をした。でも男は笑いも怒りもしなかった。スン、とそのよくわからない表情のない真顔を続けていた。
愛想が無いな。
僕は贅沢ながらもそう思った。
正直、僕はこの男をあまりよく思っていない。お父様の召使美人な女のメイドがいることへの嫉妬かもしれないが、この無愛想な男と長くやっていくなんて。僕はすこし希望を失ったような気分になった。
「…▮▮、と申します。これからよろしくお願いします。」
僕はこく、と小さく頷いただけだった。
それから何週間がたった。僕は▮▮がクソ真面目人間であることだけしっかりと学んだ。
「▮▮、疲れた。少し休憩したい」
「駄目です、12時まで勉強してお昼の時間帯に休憩する、とルールを設けましたよね。あと30分あります。」
自分は大体の目安として軽くそう設定したつもりなのだが、彼は規則人間らしく時間などにえらく厳しい。5分程度休憩してくれてもいいだろうに。僕はそうやって心の中で愚痴を吐きながらまた鉛筆を取った。僕は紳士なので口にはしないが、相当のストレスが僕の中には溜まっていた。
5分だけ。5分だけいいだろ。そう言いだしたいが、毎回「駄目です」とあしらわれるばかりだった。あと30分やれば休憩なんですから。って。その30分が長いんだよ。僕はそんな▮▮と驚くほど解けない数学の問題に対して、心の中で「いつか絶対罰ゲームでメイド服着せてその醜態晒してやる」と妙に具体的な愚痴をただただ吐き続けていた。
「っ12時だっ、!」
僕は時計の針が12の文字を指しているのを見て、無駄に高く大きい声でそう言った。呼吸の出来ず苦しい水の中からあがってやっと綺麗な空気を思い切り吸えたときのような爽快感。
「頑張りましたね。…それでは昼食を用意しますので、しばしお待ちを。」
▮▮は僕をぐしゃっと不器用に撫でてから立ち上がり、厨房の方へ消えていった。
僕は▮▮にストレスを抱きながらも、その不器用な撫でを愛らしく思っていた。撫でられて少し乱れた髪を手で軽く整えると、僕は彼が赤ペンで書いた可愛らしい花丸で出来たライオンを見ては、ふっと無意識に笑った。
そしてまた、僕は、男の作る素朴な料理が好きだった。決して豪華とは言えないが、なんかこう、…かつてより、…「家庭の味」と言うのだろうか。”家族”という感じがして、好きだった。
それから3年が経った。
僕は以前よりも少しだけ、本当に少しだけ大人になった。人は1年でだいぶ変化するものだと思うが、国は本当に長い期間生きるので3年でも殆ど変わらない。10年変わらないことだってある。そんな”国”である僕でさえ大人になったというのに、▮▮は、▮▮のままだった。
自由時間の時、本を読むのにも飽き、気分転換に邸宅を散歩していた時だった。
男や女の混じった、やけに楽しげな声が聞こえてきた。僕はなんとなく身を壁に隠しながら、その声のもとを盗み見することにした。
「…本当におめでたいね。何歳だっけ、27?」
「そうだな、…うん、27歳。俺も大分老けて来たな」
「そんなこと無い!まだまだ若いイイ男だよ~、」
▮▮の声と、その他数人の声。どうやら今日は▮▮の誕生日らしかった。そういえば、3年経ったが、僕は▮▮の誕生日を祝ったことがなかった。▮▮が自分のことをあまり自分から語らないので祝えていなかったのだが、…そうか、今日なのか。
5月23日。
僕は今日の日付を心の中で何度も唱えた。僕はばれないようにそっとその場から抜け出して自分の部屋に入りぱたんと扉を閉めた。
「….誕生日、おめでとう、…▮▮」
勉強の時間になって、僕は▮▮にそう言った。
▮▮は珍しく驚いたような表情をして、僕を見つめた。
「…どこから、聞いたんですか?」
「祝われてるのを偶然見たんだ。」
僕は机からプレゼントを取り出して▮▮にぶっきらぼうに渡した。
「…これは、?」
「…プレゼント。」
それは問題集のノートとちょっと不格好なピンバッジだった。
これから終わらすはずだった問題集のノートはもう全部解き終わっていた。さっき、死ぬ気で終わらせたんだ。そして、ピンバッジについては、紙に手書きで大英帝国の国章を描いてそれを切り取り板に貼り付け、それをさらにピンにくっつけた明らか手作りの様子がうかがえる。時間があまりなかったので少し適当になってしまったが、これが僕の精一杯だった。
▮▮はそのプレゼントを黙って見つめていた。その目にはいつもよりも光が入っているようだった。
「…すみません、こんなに良いものを貰えるとは思っていなくて」
「手作りですか、これ、…息子様の?
…手作りの、プレゼントなんて、…初めてで。すいません、反応に困ってしまう」
▮▮は落ち着かない様子で目をぱちくりさせながら、
初めて、ぱぁっと僕に笑顔を見せた。
「……本当にありがとうございます、息子様」
僕はその笑顔に、胸があつくなった。
心を奪われた、なんて表現を使えるかな。
「…誕生日にこっちから願いを言うのもなんだけど、…一つ、聞いてくれ」
「…あの時、他の召使に使っていたような、…ため口で喋って欲しいんだ。僕に対して」
僕が少し躊躇しながらそう言うと、▮▮はきょとんとする様子もなく言った。
「…どうして?」
まさか理由を聞かれるとは思っていなかったので、少し謎の間が開いてしまったが、僕は言った。
「…もっと、家族みたいな存在で居てほしい、…から?」
▮▮は笑みを少し柔らかくしてから、少しだけ目を逸らした後、言った。
「わかった。…えぇと、……ブリテン、この呼び方でいいか?
よろしくな、…これからも。」
僕は昔みたいな子供っぽい笑い方をして、「うん」と返事をした。
僕はなんだかすごいいい気分になった。ずっと独りだったから、これからも一緒にいるであろう人ともっと近い身分になって孤独から解放された気分になって、すごく、本当にすごく、良い。
僕が問題集を終わらせてしまったから、今日の勉強の時間はただのお茶会みたいになってしまった。…いや、お誕生日パーティー、かな。僕は▮▮と沢山お話をした。
それから3年後。
僕はあまり変わらなかった。▮▮もあまり変わりはなかったが、▮▮は30歳になった。これは人間界では変化?であるらしい。僕は▮▮の30歳を祝った。
その時に、▮▮に言われた。
「…そろそろ、俺も結婚しないとやばいんだよな」
僕はすぐに返した。
「どうして?」
▮▮は表情を崩さないままだ。
「普通は26歳くらいにに人間は結婚するんだ。そうして、子供を産んで、…子孫を残すんだ。」
僕は思った。なんでそんな必要があるのか、と。これは僕のほんとに身勝手な願いであったが、▮▮に”実の息子”ができるのが嫌だった。そうしたら、僕に構ってくれる時間も少なくなって、僕へ対する思いも薄くなってしまうのじゃないかった。僕はそれが怖いって言うか、…心配だった。
「俺は今十分お金を貰えてて、そのおかげで親も生きていけてるんだ。…でも、国と接する仕事って命の危機があるだろ。
明日死んでもおかしくない。そんなとき、子供がいないと両親が心配だ。両親の暮らしを支えるのは誰になる、って」
僕は食い気味に言った。
「そんなことしなくても、僕がいくらでも▮▮の両親に豪華な暮らしをさせてやる、…だから、だから」
僕はそれ以上の言葉が出なかった。
「…駄目だ。お前はまだ大英帝国の跡を継いでいないだろ?それに、僕の両親だけ優遇するなんて、駄目だ。所詮”国民”なのだから、支援するなら国民全体を支援しろ。国が私情を挟むな」
少し真剣な表情をして言うので、僕は完全に黙ってしまった。でも僕は▮▮が結婚するのが、嫌だった。
「今しなくてもっ、僕が▮▮くらいの見た目になったらっ…!!」
僕は勢いでそう言った。
「ブリテンが結婚してくれるのか?」
▮▮は冷静にそう返した。
~~~~~ッ、
僕の顔が、なぜだか熱くなるのを感じた。
▮▮はそんな僕を見てハテナを浮かべている。このクソ真面目が。心の中でそう唱えた。
僕は何も言い返せなかった。僕は、▮▮にそんな感情を向けていたのか。僕がパクパクと口を開閉しなんとか頭をぐるぐるさせている頃にも、▮▮は表情を変わらせないまままた爆弾発言を落とす。
「そうか、ブリテンが。…
ブリテンが結婚してくれるのか、…はは、それは嬉しいな」
僕の顔は爆発した。比喩じゃなくてマジで爆発しそうだった。どんだけ真面目で、というか…天然?というか。それはどうでもいい。ただただ、本当にっ、…表す言葉が見つからない。
「…じゃあ待たないと、な」
彼の顔は笑っていなかった。だけど、心の中では笑っているのを、僕は知っている。もう何年も一緒にいるからわかるんだ。僕は、いっそう早く大人になることを望んだ。
▮▮が60歳を超えた。
もう、あれから30年も経ったのか。でも僕の体感ではほんの一瞬にしか感じなかった。国というのはそういうものなのだろう。
それでも僕はまだ中学生というか高校生というか、まだまだ子供っぽい身なりだった。いつのまにか老けてしまった▮▮を見て、僕は感傷に浸っていた。それでもまだ、僕は▮▮へ30年前と同じあの想いを抱いていた。
▮▮は、いろいろな人たちに「すごく長生きだね」と話しかけられていた。▮▮が27歳の時▮▮を祝っていた召使も、もうとっくにみんな死んでいた。
「…俺は、…もっと、耐えないと。
大好きな人を待たせてるからな」
見た目が変わっても▮▮の中身にブレはなかった。そのまっすぐとした意思を見つめるたび、僕は胸がきゅうっとした。それは、”嬉しい”という感情とも、”なんだか申し訳ない”という感情にも読み取れた。
僕が▮▮をこの年まで縛り付けているんじゃないかって、そんな気がした。そうだ、僕の所為で▮▮は結婚も出来ていないんだ。僕は30年前のあの言葉を恨んだ。
私が大人の身なりになって、▮▮を迎えに行ったとき、
▮▮は、もう天からの迎えを受け取っていた。
私は▮▮の手を握った。恐ろしく冷たい。
「…▮▮?」
返事はない。
▮▮はいつもみたいに表情を崩さなかった。▮▮はいつもそうだよな。表情筋が無いんじゃないか、って言うくらいだった。昔っから変わらないな。
「…▮▮、やっと、大人になりましたよ、
見てください、ほら、…立派でしょう?」
「外交の勉強もして、お父様と一緒に国のパーティーにも行きました。もう数十年後には、立派な国としてお父様の跡を継いでいることでしょう。」
返事はない。
「…こんなに待たせてすみません、あれから40年も経ってしまいました。」
私は、…いや、僕は、息をのんだ。
いつのまにか部屋には僕と▮▮だけになっていた。
「…▮▮、」
「ずっと、好きだった。…結婚してくれ。」
僕は▮▮にキスをした。
世界一冷たいキスだった。
僕は彼の指に指輪をはめた。僕の指にはもう既にはまっていた。
でも、数日後、
君と指輪は燃えてしまうのだけれど。
土の下で結婚生活が出来たら。
僕は頭のおかしいことを思った。
それから、幾年が経った。
私はww1が始まる少し前、大英帝国の後を継いで国になった。
そうして、第一次世界大戦と、つい最近、第二次世界大戦も終わった。▮▮の墓は、第二次世界大戦の空襲で燃えてしまった。
私は、アメリカに連れられて、フランスらと一緒にとある部屋に案内された。
無駄に重い扉を開けてその先には、とある真面目そうな男が一人、スーツを着込んで少し緊張した様子で立っていた。
男は軽く僕とフランス、その他西側諸国に礼をした。アメリカが口を開いた。
「こいつは今日成立したんだ。今日から西側諸国の仲間入りだから、ちゃんと自己紹介聞いとけよ」
私は妙に既視感があった。
私は黙って男を見つめた。…妙な既視感と、少しずつ込み上げてくる感動?が私を包んだ。
「…初めまして。西側諸国の、…方々ですよね。」
私は黙ってそれを聞いていた。男は愛想笑いをしなかった。緊張したのか少し目を逸らした後、スン、と真面目な顔を作ってみんなの顔を覚えよと丁寧に私達を見た。
「…西ドイツ、正式には、…ドイツ連邦共和国。と、申します。これからよろしくお願いします。」
私はぶわっ、と、今すぐにでも泣きそうな気分になった。
…まるで、想い続けていたのにどこかへ消えてしまった人が、目の前にぱっと現れたときみたいな感覚が私の脳や身体を駆け巡った。私は今すぐにでも彼に抱きつきたい気持ちになったが、ぐっとこらえた。私は依然として、紳士の佇まいを守りたかった。
西ドイツは部屋の端から諸国に一人ずつ挨拶を交わしている。口調が、声が、表情や癖が、”彼”に似ていて私は落ち着かなかった。西ドイツがこちらへ近づいてくるたび、私の心臓はばっくんばっくんと波打った。
「…えぇと、…」
「敬語を使わないでください。それと、名前も呼び捨てで構いません。」
西ドイツは少し戸惑ったように間を開けた後、真面目でまっすぐな表情を崩さず、すぐ対応した。
「そうか。…イギリス。…これからよろしく頼む」
…あぁ、全部、全部似ている。
私のずっと会いたかった人に、似ている。
「…えぇ、…西ドイツ。……いや、▮▮。」
久しぶりにその名を呼んだ。
「誕生日、おめでとう」
西ドイツは私のそれに、ハテナを浮かべた。なんで誕生日?
そりゃあそうだろう。赤ちゃんが生まれても、誰も、その赤ちゃんに「生まれたね!誕生日おめでとう!」なんて言わない。そんなの分かっている。でも、私はそう言った。
何故なら、今日が、…..。
横のフランスが私に”何言ってんの”という視線を向ける。だけど今それは微塵も気にならなかった。
西ドイツは「あ、あぁ」と少し困惑の混じった返事をした。
私が「次の人へ行っていいぞ」と手招きをすると、それを感じ取ったのか西ドイツは横のフランスへの挨拶にうつった。
「…イギリス、なんでさっき変なこと言ったの?」
フランスがそう聞いてくる。私はフランスに顔を向けず言った。
「知らなくていいですよ。貴方が知っていいほど価値の低い話じゃないのでね」
「はぁ?このフランスが低価値って言いたいわけ?」
「事実でしょう。ナチに真っ先にやられたくせに」
「ッ~~~、このブリカスッ….」
そう、知っているのは私だけでいい。
生まれ変わり。
ふと、そんなことが頭によぎった。
あぁ、きっと、君が▮▮の生まれ変わりなんだな。私は確信した。
人間が産まれて、死ぬまで。
それは、国にとってはとても短い期間である。私は特に他の国より長く続いているので、余計短く感じる。だから、国と人間の恋愛は不可能なのだ。一緒にいられる時間が短すぎるから。国と人間の恋愛は、悲しい結末になることが保証されているから、してはいけない。人間が死んだから国も後追い、なんてことも許されないのだ。
だけど、君は、次は国として産まれてきてくれた。
これで、私と君は、やっと恋愛が出来る。
…本当に、ずっと、いられるんだ。
私は深く感動した。
100年以上も、君を待っていた。
今度こそ離さないから。
愛してる、▮▮。
今度こそ、私は君と――――
1949年 5月23日
ドイツ連邦共和国(西ドイツ)成立。
コメント
4件
ああああああああああああああああ〜〜〜😭😭😭😭神がここにいる......神が...(語彙力が無い...)
わ…苦しい…、、泣きました(涙腺弱い人) イギが「5月23日」を覚えようと繰り返すところが国という悠久の時を生きる者として絶対に忘れたく無いものの一つだったのだろうなぁ…、と。 特に手作りのプレゼントがね、本当にあったかくて…。子供ながらに色々考えたんだなぁ…、、と。 素敵なお話をありがとうございます😭
泣いちゃう〜〜!!!😭😭こんなにも人を感動させる事ができるのは本当に天才です…!!!✨💖😻一途で純粋な愛が綺麗で最高すぎます…!!😭💖改めて実感したんですが、表されている言葉があまり余計なものがなく真っ直ぐな気持ちが書かれていてしっかりまとめられているけれど、感情が十分に読み取れて、その分言葉一つ一つに重みがあるえんそ様の小説の書き方が好き過ぎます…!!😭💕