試合後のインタビュールーム。熱と歓声の余韻がまだ壁に残っているのに、角名倫太郎だけはいつもと同じ──
ゆったりした空気と落ち着いた目。
ハイブロックを何度も決め、相手エースを完封した後でも、
彼は少し前髪をかき上げながら、淡々と質疑応答に答えていた。
スロースターターの彼が、試合後だけは少しだけギアが上がる。
だが、冷静さは変わらない。
「今日のブロックの判断についてですが──」
「んー、まあ。相手が簡単な攻めしてきてくれたんで、合わせやすかったですね」
淡々、マイペース。
記者たちは慣れている。
しかし。
「角名選手、最近ご結婚された奥さまについてですが──」
“奥さま”の一言で、角名の指がピタッと止まった。
スマホを触ろうとしていた手が空中で固まる。
……ほんの数ミリ、口元が緩んだ。
「結婚生活はどうですか?癒しになる存在だと伺いましたが」
角名は瞬きを一つ。
ゆるい声で答える。
「……今は癒し以上っすね」
だけど、目は全然落ち着いていない。
普段冷静な男の、珍しい“照れ”がじんわりにじむ。
「家帰ったら……まあ、嬉しいんすよね。あの人おるだけで」
記者が微笑む。
「どんなところが?」
角名は、不意に俯いて笑った。
声は小さいくせに、言葉はどこか本音が漏れる。
「んー……全部かわいいっすよ」
「全部?」
「全部」
淡々としているようで、耳の先がほんのり赤い。
「寝顔も、怒ってる顔も、拗ねてるやつも……
写真撮りたくなるくらい、かわいい」
「撮られてること、ご本人ご存じなんですか?」
「内緒っす」
悪い顔で笑った。
完全に“奥さんの話でスイッチ入ってる角名”だ。
「……まあ、俺けっこう無気力って言われるんすけど、
あの人にはちゃんとやる気出るんで」
それを言った瞬間、記者たちがざわめく。
角名は頬をかきながら続ける。
「今日も、勝ったら……帰って抱きつこって思ってやってました」
「甘えたいタイプなんですね?」
角名「……奥さん限定で」
静かな声なのに、破壊力が高すぎる。
記者がさらに追い打ちをかける。
「奥さまに一言ありますか?」
角名は少しだけ、珍しく考えた。
その後で、ごく自然に、本気の声で言う。
「……好きっすよ。ずっと」
淡々としてるのに、あまりにも重い愛情。
彼を知らない人が聞けば分からないほど、じわっと熱がにじむ言い方だった。
「もういいですか?照れるんで」
そう言って角名はインタビューを終えて、控室へ戻る。
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え、好き