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「こんなにもらっていいんですか?」
オークの買取価格、金貨4枚と銀貨8枚が並べられている。
「言ったろ? この辺じゃ珍しいって。他所じゃもうちょっと安くなるかもしれんがな。ちゃんと解体費用も差し引いてる。適正価格だよ」
「こんな金額になるなんて、採れる素材が多いんですか?」
「まぁな、それに食える部位が多い」
あっ、食うんだ……まぁ二足歩行ってことを除けば、豚っぽいもんね。
「だいぶ懐が温かくなったな、久々に贅沢して湯屋に行くのもアリだな」
湯屋……? リズさん、いま湯屋って言いました?
「お風呂が……お風呂があるんですか?」
「知らなかったのか? 陽だまり亭とは反対方向だし、ちょっと高いが疲れが取れるぞ」
「是非行きましょう!」
◇ ◇ ◇ ◇
「さぁ、ここがそうだ」
湯屋は、入口が二つある大き目の建物だった。
「男女で入口が分かれてるんですね、じゃあ僕はこっちで」
「何をしている、そっちは男湯だぞ」
「だから男だって言ったじゃないですか」
「……あれは冗談ではなかったのか」
昨晩、宿の女将とリズさんには男だと言ったのだが、信じてもらえてなかったようだ。
やれやれと思いながら男湯側の入口に入る。
「おわっ! お客さん、女湯の受付はこっちじゃないよ」
中に入ると驚かれた。
「良い湯だったなぁ」
中は銭湯といっていい作りで、時間的にもうちょっとしたら人が増え始めるそうだが、この時間は貸し切り状態だった。
でもお風呂入るだけで青銅貨3枚、これは安めの宿と同じ金額なので、やはり贅沢なのだそうだ。
「すまん待たせたな」
「いえ、僕もさっき出たばかりですし」
外で合流し宿に向かう。
今日の夕飯はなんだろうね。
◇ ◇ ◇ ◇
「幸せそうなとこ悪いが、ちょっと相談があるんだ」
食事中にリズさんから相談を持ち掛けられた。
「もっと大きな街に行ってみないか?」
「大きな街……ですか、この街でも十分大きい気はしますけど」
辺境の村と、師匠の家しか知らない僕にとっては、十分都会だね。
「ハハッ、何を言っている。この街は小さいほうだろう」
いやいやそんなばかな。
「これを見てくれ」
リズさんがテーブルに地図を広げる。
「世界地図……にしては小さいですね」
「これはエルラド公国の地図だ、そして私たちが今いるミストの街がここだ」
リズさんが地図の下のほうを指差した。
「ふーん、けっこう南のほうなんですね……エルラド公国?」
おかしい、僕がいた孤児院と師匠の家が、オルフェン王国の辺境だったはず。
変なとこに飛ばされたと思ってはいたけど、国すら違うじゃないか師匠ぉ……。
「どうかしたか?」
「いえ……続けてください」
「……? ならいいが。この街から北に行くと、ダイカサという街がある。冒険者が移動の際、立ち寄る者が多いので非常に屋台が多いことで有名だ」
「ほう、屋台ですか……」
「あぁ、私も聞いただけで行ったことはないがな」
そういえば、リズさんはどこから来て、なぜ冒険者になったんだろう。
Cランク冒険者が討伐するオークをワンパンなんだし、絶対新人冒険者の強さじゃないよね。
冒険者になる前か……、僕も別に秘密するほどのことじゃないし、お互いのことをいつか話せたらいいな。
「でだ、目的地はさらに北の中央都市エルヴィン。ここなら大抵の物は揃うし、未踏破の遺跡なんかもある」
「遺跡……ですか?」
「あぁ、私もそれほどくわしいわけではないが、中は異空間に繋がっていたり、不思議な魔道具が見つかったりと謎が多いようだな」
「なるほど、不思議な魔道具で一攫千金を夢見る人とか多そうですね」
「そういうことだ」
遺跡か……魔物も出るのかな?
冒険者ギルドの依頼に、遺跡関連があったりとかもするのかな?
リズさんもくわしいわけじゃないみたいだし、一度行ってみるのもいいかもしれない。
「行くとしたら馬車の移動とかですかね?」
「基本は徒歩になるが……ダイカサまでの護衛依頼でもあればちょうどいいんだがな」
「Eランクに護衛依頼なんてありますかね?」
「明日探してみよう」
……あれ? お試しパーティだったはずだよね?
もうずっとパーティ組むかのような話の流れだ……。
いまさらそんなこと話題に出すのは、空気読めないみたいでちょっとアレだけど。
正式に組むならこういうのはキッチリしておかないと。
「じゃあお試しじゃなくて、正式にローズクォーツ結成ということでよろしくお願いします」
「ん? お試し……? あっ、あぁ! こちらこそよろしく頼む」
……忘れてたな?
◇ ◇ ◇ ◇
「あんたら今日この街を出るんだろ、ほれ持って行きな」
翌朝、宿に鍵を返すと、女将さんが包みを渡してくれた。
ホカホカで美味そうな匂いがする。
「ありがとうございます」
「すまない、恩に着る」
二人で宿を後にする。
さよならは言わないよ、絶対またご飯食べに来るから!
「さて、私はギルドで護衛依頼がないか見てくる。エルは旅に必要なもの買っておいてくれ」
「必要なものですか。水とか食料とか?」
「そうだな、あと火を起こす道具もほしいところだ。私のお金も半分預けておく」
「じゃあ準備が終わったら街の中央で落合いましょう」
リズさんと別れ、まずはパンを買いにいく。
通常は日持ちする黒パンとかだろうが、僕にはマジックポーチがあるからね。
ここはできるだけ良いパンを。
あとは燻製肉と……チーズも買っちゃっていいかな。
それと水も大量に、水袋も買っておこう。
ちょっと欲張って塩と胡椒も少々……高ッ! ホント少しだけにしておこう……
火を起こす道具は道具屋かな。
テントと雨避け用の外套と……風避け用もあれば寝る時にも使えるかな。
合計で金貨2枚を少々オーバー……使いすぎてないよね?
リズさんと合流するため街の中央へ行くと、馬車が止まっていた。
そしてリズさんは馬車の荷台に積み荷を運んでいた。
「おぉエル、喜べ、格安だが護衛依頼があったぞ」
「あなたがエルさんですねぇ、私は行商人のチロルと言いますぅ」
行商人? こんな……僕と大して歳も変わら無さそうな女の子が?
ミドルボブの女の子と握手を交わす。
「いやぁ、あの金額じゃ誰も受けてくれないと思ったんですけどぉ。受けてもらった上に荷造りまで手伝ってもらっちゃってぇ、助かりますぅ」
「あの、金額っていくらだったんです?」
「ダイカサ経由の目的地エルヴィンまでで金貨1枚だ」
わぉ、大赤字だよ。
「ホントならぁ、最低でもDランク冒険者が良かったんですけどぉ、この金額じゃ無理みたいですねぇ」
なんか話し方がおっとりしてるな。
「でもぉ、この荷物を軽々持てる方ならぁ、Eランクでも大歓迎ですぅ」
「これそんな重いんですか?」
荷台の木箱を試しに持ち上げて――――ビクともしなかった。
(えっ? 荷台の底抜けないよね?)
「じゃあ出発しましょうかぁ、荷台の後ろ部分にならぁ、座っててもらっていいですよぉ。格安ですからねぇ」
馬車が動き出す。
あぁ……ついにこの街を出るんだ。
「ダイカサまでは3日ほどかかる。そこでチロル殿が2日ほど商いをする予定で、そしてエルヴィンまでまた3日ということだ」
「けっこうな長旅ですね」
ひとまずダイカサまで3日は、この馬車に揺られることになるのか……耐えられるだろうか……。