テラーノベル
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火曜日。
文化祭まで、あと二週間。
放課後の教室では、今日も準備が続いていた。
「玲くん、これ終わった?」
「ああ」
「早い!」
「普通だろ」
「私なんてまだ半分……」
星羅の机には、色紙やハサミが散らばっている。
「貸して」
「え?」
玲が星羅の作業を手伝う。
「ありがとう……」
「別に」
「……優しいね」
「そうでもない」
「私には優しいよ」
「……そうか?」
「うん♪」
二人で作業を続ける。
しかし――。
「……これ、今日中に終わらないな」
「だね」
「家でやるか」
「じゃあ――」
星羅が手を挙げる。
「私、玲くんの家行っていい?」
「……え?」
「文化祭の準備、一緒にやろ?」
「俺の家?」
「うん」
玲は少し考える。
「……まあ、いいけど」
「ほんと!?」
「ただし、散らかってるぞ」
「大丈夫!」
星羅は嬉しそうに笑った。
――玲くんの家。
玲くんが普段過ごしている場所。
玲くんが一人でいる場所。
そこに自分が行ける。
それだけで胸が高鳴った。
放課後。
二人で玲の家へ向かう。
「ここ?」
「ああ」
玄関を開ける。
「お邪魔します!」
「そんなに緊張しなくていい」
「だって初めてだもん」
部屋に入る。
星羅は辺りを見渡す。
ベッド。
机。
本棚。
ゲーム機。
そして――。
「……」
机の上に置かれた一つのものに目が止まる。
「これ……」
星乃セラのグッズ。
小さなアクリルスタンドだった。
「……」
星羅の心臓が大きく跳ねる。
「セラちゃん?」
「ああ」
「好きなんだね」
「まあ」
玲は少し照れくさそうに答える。
星羅はグッズを見つめる。
自分の姿。
自分の名前。
自分が玲くんの部屋にいる。
不思議な気持ちだった。
「……嬉しい」
「何が?」
「なんでもない」
二人は机を並べて作業を始める。
しばらくして。
「……疲れた」
星羅が机に突っ伏す。
「休憩するか?」
「うん」
玲が飲み物を持ってくる。
「はい」
「ありがとう」
星羅は一口飲む。
「玲くん」
「ん?」
「玲くんって、家ではどんな感じなの?」
「普通」
「もっと知りたい」
「ゲームして、動画見て……寝る」
「ふふっ」
「何?」
「なんか安心した」
「……そう?」
「うん」
星羅は部屋を見回す。
「玲くんのこと、少し分かった気がする」
「そうか?」
「うん」
そして。
棚に並んだ本を見る。
「これ全部読んだの?」
「ああ」
「すごい」
ゲーム。
本。
イヤホン。
小さなぬいぐるみ。
一つ一つを見ながら、星羅は玲の日常を想像する。
――ここで玲くんがゲームして。
――ここで配信を見て。
――ここで寝て。
そんな想像をするだけで、嬉しくなる。
「……ねえ、玲くん」
「何?」
「私がここにいても、嫌じゃない?」
「別に」
「……そっか」
星羅は微笑んだ。
「じゃあ、また来てもいい?」
「ああ」
「……約束?」
「約束」
夕方。
作業が終わる。
「今日はありがとう」
「こっちこそ」
星羅が玄関で靴を履く。
そして、ふと振り返る。
「玲くん」
「ん?」
「……また来るね」
「ああ」
「絶対だよ?」
「分かった」
星羅は満足そうに笑った。
「じゃあ、また明日!」
「また明日」
扉が閉まる。
玲は部屋に戻る。
「……賑やかだったな」
一方。
帰り道の星羅。
「……」
スマホを取り出す。
今日撮った写真は――。
玲の部屋で撮った文化祭の材料。
玲の机。
そして。
机の上にあった星乃セラのグッズ。
星羅はその写真を見つめる。
「……私のこと、こんなに大切にしてくれてるんだ」
嬉しい。
胸がいっぱいになる。
でも。
同時に、一つの欲が生まれた。
「……いつか」
玲くんの部屋に。
「私のものを置きたい」
グッズじゃない。
写真でもない。
もっと――。
自分自身を。
玲くんの日常の中に。
ずっと残したい。
その夜。
星羅は配信の準備をしていた。
配信開始直前。
鏡を見る。
「今日も頑張ろう」
そして、ふと思い出す。
玲の部屋。
玲の笑顔。
玲の「また来てもいい」という言葉。
「……ふふっ」
マイクを入れる。
『みんなー! こんばんはー!』
いつもの星乃セラが始まる。
けれど。
今日の彼女の心の中には――。
一人の男子高校生しかいなかった。
#恋愛
まり
40
奇蹟あい
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#一次創作
コメント
1件
わあ、第12話「君の部屋」、読み終わりました……! 玲くんの部屋に初めて入る星羅ちゃんの緊張と、そばにある一つ一つのものから玲くんの日常を想像する感じ、すごく丁寧で可愛かったです。特に、机の上にあった星乃セラのアクリルスタンドに気づくシーン、心臓が跳ねるような気持ち、すごく分かります。自分がグッズとしてそこにあるっていう感覚、不思議で嬉しいですよね。最後の「私のものを置きたい」っていう欲、切なくて好きです。星羅ちゃんの気持ちが少しずつ深まっていくのが伝わってきて、次の話が待ち遠しいです🌸