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『うそつきの傘』
朝、父がニュースを見ながら言ってきた。
「今日は夕方から雨らしいよ。傘持っていきな」
寝ぼけた私は「うん」と返しただけで、傘を持たずに登校してしまった。
五時間目のあたりで雨が降り出す。かなり強い。
(あ、傘……忘れた)
どうしようもないので雨宿り。けれど30分経っても止む気配はない。
少し弱まったのを見て、走って帰ろうと昇降口へと向かった。
その時、後ろから同じクラスの男子から声をかけられる。
「傘、ないのか?」
「うん。朝、お父さんが言ってくれたのに…」
「これ、使いなよ。俺は自転車だし、カッパもあるから」
彼は折りたたみ傘を差し出した。
「悪いよ。あなたが使って」
「平気。じゃあな、気をつけて帰れよ」
彼は走り去った。
私は彼の傘で家に帰った。
翌日の昼休み。彼の友人の会話が耳に入る。
「昨日さ、アイツびしょ濡れで帰ってったんだよ」
「え?傘持ってたんじゃないの?」
「いや、あれ貸したんだって。カッパも持ってなかったらしい」
私は思わず顔を上げた。
(……嘘だったんだ。あのときの)
思い出すのは彼の笑顔。
(うそつき。でも優しすぎるよ…)
私は小さく呟いた。
「ありがとう」