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「どうしよう……」
新鮮な場所に一人残されてしまった真波は,しばらくの間その場所から動けなかった。その時にあたりを見渡してみると自分の今いる場所が他よりも少し高い位置にある丘にいることが分かった。
勇気を出して少し前へ出てみると,先程死神と見ていた街全体が見渡せた。昼の時間体であろう空の色に負けないぐらい建物はライトアップされていた。その中の高層ビルのような高い建物の周りを妖怪たちが飛んでいたりもする。
彼女がそんな街をボーッと眺めていると,いきなり街の左奥の方で遠くからでも分かるような強い光を放った。どうやら街の妖怪たちは気づいていないようだった。ここに立っていても仕方がない,それに何か手掛かりがあるかもしれない,そう思った彼女は,直感的にその光の放たれた方へ行くことにした。
しばらくまちの中を歩いていると木々の生い茂った森がありその少し進んだ先に木がないところがあるのが分かった。
先ほどの光の正体かもしれないと思った彼女はその森の中へと走っていた。
たどり着いた先にあったのは多数の傷を負った狐だった。死んではいないようで気絶しているようだった。
真波はその狐を抱き抱え近くの木の木陰へと連れて行き,近くの川の水を持っていたハンカチに浸し,狐の額にある傷を優しく拭いた。
しばらくして,狐が動き出した。どうやら意識が戻ったみたいだ。
「大丈夫?」と彼女が狐に聞くと,
「助けてくれてありがとう,君にお礼がしたい」と声が返ってきた。
その声にびっくりして真波がキョロキョロとあたりを見渡すがそこには誰もいない。
「僕だよ僕」
また声が聞こえた。よく耳をすますと狐が喋っている。
彼女がその喋る狐を見ているのもつかのま,目の前で人間の姿に変わり出したのだ。
「驚かしてすまなかったね。僕はキュウビ,九尾のしっぽを持つ狐の妖怪さ」
キュウビと名乗るその妖怪はふわふわとした白い九つのしっぽと可愛らしい狐の耳を持ち,人間らしい身体で髪の毛もしっかりはえていた。
「君は人間だね,ふふっ心配しないで僕は悪い妖怪ではないから」
「どうしてこんなところにいるんだい?」
悪い妖怪ではないことに安心した真波は彼にここに至るまでの出来事を全て話した。
「なるほど,死神が連れてきた……か」
「これは妙な事件だ。死神は嘘はつかないがとても厄介な奴だ,そういえば君の名前を聞いていなかったね名前は?」
名前を聞かれて,こんなにすぐに出てこないことはない,というか出てこない真波は焦りを感じていた。
「名前……思い出せない」
「ん〜記憶が消え始めているな,一刻も早く帰る方法を探さなければいけないね」
(一度全ての記憶を失えば二度と元の世界に戻ることはできないよ)この時が少しずつ近づいてきている。記憶を失う前に兄に会い元の世界へと戻るため彼女はキュウビにお願いした。
「私この世界にいるお兄ちゃんに会いたいんです。一緒に探してくれませんか?」
「別に良いけど,あまり時間はない。その件は必ず達成できるかは分からない。だけど,できる限りのことはしてあげるよ」
「ありがとう」
そんな会話を交え向かった先はキュウビの家だった。中はとても綺麗に片付いていて,沢山の衣装が並べられていた。部屋もそこそこに広い。
「それはコンサートに使う衣装だよ。人間たちと同じで僕たちもそういったイベントがあるんだ」
「しばらくの間ここで寝泊まりしてくれよ,自由に使って良いから」
と設けられた真波の部屋は布団と机だけの使われていない様子の部屋だった。
「あなたは一人なの?」
「あぁ,そうだよ」
と言いながらは彼は夕食の支度を始めた。
「君はお兄ちゃんが好きかい?」
「うん,大好きだよ」
「そうか,その気持ち大事にするんだよ」
どこか悲しげな表情で彼は真波に伝えた。
たわいのない会話をしていると夕食ができた。
「えっ……」
彼女の目の前に広がるご飯は見たことのないものばかりだった。
「あのキュウビこれは……」
そう彼に問うと丁寧に説明してくれた。
カエルの卵かけご飯,コオロギの煮付け,ありのスープとどれも美味しそうには見えないものばかりだった。
引き気味の彼女に彼は笑いながら答えた。
「流石に君には食べさせないよ,君はこれでいいかい?」
と手渡したのはカップラーメンだった。
妖怪の間でも人間が食べるカップラーメンは美味しいらしい。
「ありがとう」
そして,二人は夕食を食べ始める。会話はほとんどなくただひたすらに食べ物を喉に流し込むだけだった。
夕食が終わりその日の夜,キュウビは,明日用事があるらしく早く寝ると言い,直ぐに寝てしまった。一人で起きていても何もすることのなかった真波は,貸された自分の部屋に布団を敷き眠れない夜を過ごした。
翌日,何時かもわからない朝の時間帯に起きた彼女は洗面所へ行き顔を洗い,キュウビが置いてってくれたであろうおにぎりを食べ,暇をしていた。手元にはスマホが一つ,どこかも分からないこの場所で情報を手に入れるのは時間がかかりそうだ。
あれから何時間たっただろうか。ガチャとドアの開く音がしてキュウビが帰ってきた。
「ただいま」
「お帰り」
ごく普通の会話でさえ彼女にとってはぎこちなく感じていた。
「今から出かけよう」
「君が帰る方法とお兄さんに会う方法を探さなくてはいけないからね」
その会話でまず二人が向かった先は,妖魔界の中心にある宮殿だった——