コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「俺をすぐに環奈が着いてる席の側へ案内して欲しい。それと指名するから俺に環奈を付けてくれ」
「おいおい、一体どうしたっていうんだ? この前からやけに環奈を気にするじゃねぇか」
「アイツ、危機感無さ過ぎで放っておけねぇんだよ。頼むよ、明石さん」
「…………はあ、分かったよ。すぐ席を用意させる」
こうして俺が明石さんに頼み込んで環奈が接客をしてるすぐ横の席に通されて座ると、やはりあの時話していたクズな男が環奈のすぐ横を陣取っていた。
(やっぱり、アイツの女なのかよ……)
一体あんなクズのどこが良くて付き合っているのか分からねぇ俺は終始イラついていた。
そんな中、ボーイが環奈に耳打ちをすると彼女が俺の方に視線を向けてきた。
どうやら指名が入った事が伝えられたようだ。
環奈は彼氏と思しき男に何かを伝えると席を立って、俺の席にやって来た。
「芹さん、どうしたんですか?」
そう尋ねる環奈に俺は、
「お前に会いに来た。カナ、来いよ」
驚く彼女の腕を掴み強引に引き寄せて隣に座らせた俺は、環奈の肩を抱いた。
あのクズ男に見せつけるように。
アイツは一瞬俺らの方に視線を向けるとムッとした表情を浮かべたものの、すぐに逸らしてヘルプで入ったキャストの女を口説き始めた。
一応、意識はしているようだが、こんなモンはまだ序の口だ。
「せ、芹……さん?」
彼氏が見ている事を気にしているのか、俺の腕から逃れようとする環奈の耳元に口を近付け、
「俺を見ろよ。今、お前は俺のモノだろ? よそ見なんてしてんじゃねぇよ」
吐息混じりにそう囁くと、
「……っ」
それが擽ったかったのか、環奈の身体がピクリと反応した。
たったそれだけで、俺の身体は熱を帯び、感情が高まっていく。
そんな俺の行動に周りは勿論、環奈の男もこちらを注視する。
自分の女を取られて苛立っているのがよく分かる。
(ざまあみろ)
そう嘲笑うように男を見てやると、俺の挑発に気付いたらしいソイツは突然席を立ち「会計!」と叫ぶように言い放つ。
その声に慌ててボーイがやって来ると、苛立ちながら金を支払い、連れの男が慌てている中、一人早々に店を出て行った。
「あ……」
突然の事態に環奈は小さく反応したものの、まさかアイツが自分の男と言う訳にいかないからか、寂しげで、どこか悲しそうな表情を浮かべたまま、その場に留まっている。
「どうした? あの男、環奈の知り合いか?」
俺は知ってて、わざと問う。
「……は、はい……その……知り合い……なんです」
「ふーん? それじゃあ、悪い事したな。あいつの方が先にお前を指名していたのに」
「い、いえ、そんな事は……。大丈夫です……」
俺の問いに答える環奈はどこか気まずそうだ。
(何でだよ? 何であんな男の事……。そんなに、アイツがいいのかよ?)
分かってる。そんな事思ったって、仕方の無い事だと。
あんなクズでも、もしかしたら、環奈の前でだけは【良い人】なのかもしれねぇから。
かく言う俺だって、『芹』としてreposで働いている間は、【良い人】の仮面を被ってるから、人の事をとやかく言えた義理じゃねぇんだと。
けど、俺は大切な事を思い出す。
環奈の身体に痣があったり、少し前も顔を腫らしていた事を。
(あれがもし、殴られた痕だとしたら……環奈はアイツに?)
環奈の事をぞんざいに扱っているだけではなく、手を出しているとなれば話は大いに変わってくる。
(アイツのあの怒りよう……もしかしたら環奈に当たる可能性もある……そうなると、一人には出来ねぇ……よな)
未だ落ち込み気味の環奈を前にした俺は、
「なぁカナ、今日この後、アフター良いか? 話したい事があるんだ」
アイツの元に帰したくないのと、二人きりで会いたい事もあって、アフターの誘いをする。
「…………えっと……その……」
けど環奈は迷っているようで、即答しない。
「頼むよ、カナ」
俺は狡い事をしてると思う。
こうして強く言えば環奈は決して断らない。
それを分かっていてわざとしつこく誘っているんだから。
結局、そんな俺に根負けした形で環奈はアフターを了承してくれて、勤務時間外でも一緒に居られる事になった俺は営業時間終了と共に事務所へ足を運び、明石さんに改めて礼を言った後、着替えを終えた環奈と共に夜の街へ繰り出す事になった。