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やがて一ヶ月が過ぎた頃には、政宗医師とのことは頭から完全に忘れ去られようとしていた──。
彼とは性行為の寸前までは及んだものの、実際には体の関係を持ったわけでもなかったし、遊びだろうとなんだろうと、もうどうでもいい気にもなっていた。
そんな折り、「使っているボールペンのインクが切れたので、持ってきてください」という内線が受付に入って、備品からボールペンを持って行くことになった。
診療ルームへ入ると、
「ありがとうございます」
と、政宗医師が右手で受け取り、
「この使えなくなったペンを、捨てておいてもらえますか?」
左手に持ったボールペンを、私へ差し出した。
「はい……」と返して、取ろうとした、その目の前で、
明らかなわざとらしさで、ペンが床に落とされた。
「あっ……」
コツン……と渇いた音が響いて、ペンが床をコロコロと転がっていき、
患者さんが深いリラックスを得るために置いてある、革張りのリクライニングチェアーの下へと潜り込んだ。
仕方なく床に屈んで、ペンに手を伸ばそうとすると、
「……永瀬さん?」
不意に、耳元で密やかに呼ばれた。