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振り向くと、至近距離に政宗医師の整った面差しがあって、
「……今夜、私の家に来なさい」
命令口調で冷ややかに言われた。
「い…行かないです…」
今さら、どうしてまた……とも思いつつ、返事を戻す。
「行かない? ……この一ヶ月間、私からの誘いを待っていたのではないですか?」
そう思わせぶりに話して、政宗医師は薄く笑った。
「待ってなんか……」
「本当に……?」
耳のそばで囁きかけられ、淡く吐息が吹きかかる。
「本当です……もう、忘れようと……」
艶のある甘い声が、否応もなく耳の奥へと入り込んでくる。
「忘れようとして、忘れられたのですか? 共に過ごした、あの夜のことを……」
耳のそば近くで、彼がさらに低く声をひそめて語りかける。
「もう、忘れたいんです……」
今にも虜まれてしまいそうで、首を何度も横に振って抗うと、
「忘れたい? 忘れられないのに、無理に忘れようとしているんですか?」
今度は、真正面から私に顔を迫らせると、
「……それは、良くないですね。無理になど、忘れなくてもいいんですよ……」
キスをしそうなくらいに、その薄い唇を近づけて、
「……私は、あなたに忘れさせるためではなく、もっと気持ちをつのらせてもらうために、
あえて、放置をしていただけですから……」
そう言い放った──。