テラーノベル
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翌日、時間ぴったりに若井の家に行くとインターホンを鳴らす前にドアが開いた。
「久しぶり、待ってた」
本当に久しぶりに会う若井は変わらずカッコよくて、ドキッとしてしまう。
いけない、まずは謝らなきゃ。
「ごめん···ずっと、無視してて」
「いいよ、俺のせいだし···ほら、寒いから入って」
こんな時だって若井は俺をあっさりと許してくれる。 そんなところが凄く好きだった。
「お邪魔します、あれ···おばさんたちは?」
「テーマパーク行くんだって、泊まりで···クリスマスだからね」
じゃあ若井は今日彼女とここでひと晩を過ごすんだろうか···2人きりで。
「いいね···クリスマス、だもんね」
「うん···コーラでいい?適当に座ってて」
久しぶりの若井の部屋は綺麗に片付いていたばかりか、所々クリスマスの飾り付けがしてあってそんなところにも心が痛くなった。
「ありがとう···いきなりだけど、俺から話してもいい?」
コーラを受け取って向かい合って床に座った若井にそう告げた。
決心が揺らぐ前に、若井から切り出される前に話してしまわないと、と昨日からずっと思っていた。
「うん···いいよ」
「ありがとう···。まずは、ずっと無視してごめん。」
「うん···けど、今日来てくれたから」
若井の優しい声に泣きそうになる、その俺を宥めるような慈しむような声も大好きだった。
「俺がこんな風に返事が出来なくなったのは···若井のせいじゃなくて、若井が彼女とデートしてたって聞いて···それが辛くて。けど昨日ね、若井が彼女とジュエリーショップにいるの見ちゃって、ちゃんと若井から聞かなきゃいけないってやっと思えた」
「···昨日、元貴いたの?あそこに?」
「ちょっと買い物してて···偶然ね。
あ、先に渡しておく。これクリスマスプレゼント」
告白したあとにこんなの欲しくないって言われたら辛いから···先に渡しておく、若井はそんなこと言わないと思うけど、念の為に。
「これを買いに?ありがとう···」
大事に受け取ってくれるのを見ながら俺は話を続ける。
「若井、俺いっこだけ嘘ついてた。夏に花火した時···好きな人は居ないって言ったけどあれは嘘で本当はいたんだ。ずっとずっと大好きだった人」
「誰···?」
ふぅ、と軽く息を吐いて すぐ帰れるように巻いたままのマフラーの端を握った、部屋は暖かいのに指先は緊張して冷たくてふわふわな感触を感じることも出来なかった。
「俺は若井のことが好きでした。ずっと···中学から好きだった。若井の優しいところ、頼れてカッコいいところ、面白いところも甘やかしてくれるところも···たくさんあり過ぎて言えないくらい、全部大好きでした、今までありがとう。俺、凄く幸せだった···全然若井にお礼とか出来ないまま甘えてばっかりでなんか迷惑かけてばっかりで、最後にこんな事言われても困るよね。けどちゃんと言えて良かった、本当にありがとう」
最後の方は少し声が震えたけど、ちゃんと言えた。
若井は一言も喋らずに俺の話を聞いてくれて、やっぱりいい奴だなぁって思った。
「以上!俺の話は終わり。次は若井の話ちゃんと聞くから」
はい、どうぞって笑って言ったつもりなのに、上手く笑えてたかはわからない。けど若井の方が泣きそうで俺、やっぱり嫌なこといったかなって申し訳なくなった。
「···なんで、過去形なんだよ。好きだったとか幸せだったとか」
「なんでって···そんなの···」
報われないから、終わったことにしたかった、 過去のことにしてしまいたかった。
「もう元貴は俺のことを好きじゃない?」
「···そんなの聞いてどうするの」
「聞きたいから、ちゃんと今の気持ちを」
「ひどいなぁ···こんなに頑張ったのに、これ以上言ったら泣いちゃいそうになるから···我慢してたのに···」
ふふ、と無理して笑ったのにポツリと涙が手に落ちた。かっこ悪いな、俺。
「好きだよ、大好き。若井のことが好きで好きで仕方なくて···もう俺、どうしたらいいかわかんないくらいに。だってずっと好きだったんだよ···」
何百回言ったって伝わらないくらい好きなんだよ、本当に。
これ以上涙が出ないように手でギュッと目を押さえた。
「俺も、どうしたらいいのかわからない。」
そうだろうね、こんなこと突然言われても困るよね。謝ろうと目を開けると若井は泣き笑いみたいな表情で身体を寄せて近くで俺のことを見ていた。
「ごめんね···こんな事言って」
「違う、そうじゃなくて···けどなんて言ったら元貴がわかってくれるかわかんなくて」
前髪をくしゃっとかきあげて若井は後ろから小さな白い綺麗な箱を取り出した。
「俺が今日伝えたかったことを言うね。これは元貴が何を言っても言おうって決めてたことだからちゃんと聞いて」
こくこくと首を縦に振る。
何を言われても若井の話をちゃんと聞こうって決めてたから。
「···元貴は俺にとってかけがえのない存在です。 元貴のことが大好き。俺と付き合ってもらえませんか」
「は、ぇ···えっ?」
若井の言葉があまり理解出来ないまま驚く俺の前で箱を開けた。
そこにはシンプルなマットゴールドの指輪が入っていた。
「元貴のことが大好き。受け取ってください」
「俺···?なんで、俺なの?彼女は···? 」
「彼女なんていない。あの人は俺の従姉妹で···指輪を選ぶのに付き合ってもらっただけ。それをあいつらに見られて、けど元貴にプレゼントする為に指輪を見に行ったなんて言えないから」
「昨日のは?2人でいたのは?」
「サイズとかデザインを見に行って、冬休みアルバイトしてようやく昨日買いに行けた。まさか見られてるとは思わなかったよ」
「じゃあ本当に彼女じゃないってこと···?」
「最初からそう言ってる」
へたり、と身体から力が抜ける。
俺、本当に勘違いしてたんだ···。
「元貴、返事をきかせて。ずっとずっと大好きでした···俺と付き合ってくれますか?」
若井の耳が赤くなっているのに気づく。これは本当に現実なんだろうか、俺に都合のいい夢みたいだ。けど夢でもいいや、若井から好きって言われるなんてめちゃくちゃ幸せなことだから。
「俺も若井のことが大好き···俺で良かったらよろしくお願いします···」
「良かったぁ···元貴、左手貸して」
左手を差し出すと指輪が薬指に通されて、それはぴったりとそこに収まった。
「···なに、これ···夢見てるの?」
「夢じゃないよ···夢だったら、困る」
指輪と嬉しそうな若井の顔を何度か見比べる。
「俺···うれしすぎて···ごめん···」
まだまだ信じられないけど、じわじわと若井の言葉が心に染みて泣きたくないのに涙が溢れる。
「俺も、嬉しい···振られたらどうしようってそればっかり考えてたから···」
「俺は若井に彼女ができたと思って···失恋したけど、想いだけは伝えようって思ってた···」
若井の腕が俺の背中に回されて、優しく抱きしめられて、耳元で若井が囁いた。
「···今日、泊まって行くよね?」
コメント
8件
好き!ハッピーエンドっていいね(*´ω`*)ニパアァッ
うわぁ🥺良かったねぇ ちゃんと想いが伝わって… この後、どうなっちゃうの はるかぜさんに期待✨️💓
やっとやっと2人が‥!!! 最高に幸せな気分です‥!! 言葉で言い表せないのですが‥情景が思い浮かんで泣きそうになりました🥺✨