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数日後。


オフィスでメールをチェックしていた透は、見慣れないアドレスに目を留めた。


件名に『由良です』とあり、ああ!と頷いてすぐにメッセージを開く。


『こんにちは。オフィス フォーシーズンズの由良です。

昨日、瞳子さんからDVDを受け取りました。とっても素敵な編集で、あの日の感動が蘇り、うっとりしてしまいました。

しかも私の為に特別に編集してくださったのでしょうか?嬉しかったです。本当にありがとうございました。

何かお礼の品を、と考えています。

オフィスの住所に送らせていただいても構いませんか?

よろしければ、お返事お待ちしております。

由良』


大人びた文面に、透は驚く。


(ええ?!これってほんとにあの由良ちゃん?)


だが以前、バーで由良が「私、こういう仕事してるせいか、どうも軽く見られがちで」と話していた言葉を思い出した。


(そっか。由良ちゃんって、幼く見えるけどちゃんとしてる子だったな)


そう思い、早速返信する。


『こんにちは。メールをご丁寧にありがとう。

DVD、気に入ってくれたのなら良かったです。

お礼なんてお気遣いなく。勝手にこちらが君に贈りたかっただけなので。

それでは、また』


ビジネス用の署名を添えて送信すると、しばらくして返事が来た。


『返信ありがとうございます。

ブーケトスのシーンに添えられた、透さんのお言葉が嬉しかったです。

May the goddess of happiness smile on you.

私も透さんに同じ言葉を贈ります。

優しい透さんに、幸せの女神が微笑みますように。

追伸

お礼の品がご迷惑なら、せめてお食事をごちそうさせてもらえませんか?』


へえ、とまた透は感心する。


由良に贈ったDVDは、瞳子や大河に渡したものとは違い、ブーケトスのシーンをノーカットで編集してあった。


ブーケを受け取って笑顔になる由良をアップのスローで捉え、下に英文を浮かび上がらせていた。


それに対して自分にも言葉を返してくれ、更にはお礼はいらないと断っても、こうしてせめてもの気持ちを示してくれる。


文面だけ読んでいると、どんなに大人の振る舞いが出来る素敵な女性だろうかと思わされた。


(そう言ってくれるなら、カフェでコーヒーでもごちそうになろうかな)


そんな気持ちが湧いてきて、透はまたメールを送る。


『ありがとう。それならお言葉に甘えて、君の仕事がオフの時に、お茶でもつき合ってもらえるかな?』


するとすぐに返信が来た。


『はい!もちろんです。よろしくお願いします。透さんは土日休みですか?私の次のオフは今週の日曜なのですが、いかがでしょうか?』


『今週の日曜ね。大丈夫です』


詳しいことは前日に連絡することにして、その日のやり取りは終わった。





「透さん、おはようございます」


「おはよう。ごめん、待たせたかな?」


「ううん、私も今来たところです」


「そっか、それなら良かった」


日曜日。

透は由良と待ち合わせをした駅の改札前で落ち合う。


今日の由良は、軽い素材のエメラルドグリーンのワンピースに、薄手のパフスリーブのデニムジャケット、足元は白いサンダルで爽やかな装いだった。


「由良ちゃん、何を着ても可愛いね」


「え?ありがとうございます。透さんって、アメリカンタイプですね」


「は?何それ」


もしや、アメリカンハイスクールもどきの自分がばれているのかと、透は一瞬面食らう。


「どういう意味なの?アメリカンタイプって」


「だって、照れもせずに女性を褒めるでしょう?そんなにサラッと褒めてくれる男性、日本人にはなかなかいませんよ」


「そうかな?俺は思ったままを口にしてるだけだよ?」


「うわ、やっぱりアメリカンだ」


「だから違うったら!」


あはは!と由良は楽しそうに笑いながら歩き出す。


「ね、透さん。まずはお食事をごちそうさせてください」


「ああ、そうだったね。でもまだ時間も早いし、その前にそこのカフェに入ってもいい?」


「はい。じゃあ、ドリンクも私がごちそうしますね」


「ありがとう!お言葉に甘えて」


二人は駅前のコーヒーショップに入った。


「えっと、アメリカンをショートサイズで」


透がそう注文すると、由良が笑い出す。


「ほら!やっぱりアメリカンだ」


「違うってば!」


由良は笑いを残したまま、自分にはカフェモカを注文した。


「由良ちゃん、ごちそうさま。ありがとうね」


会計を済ませた由良に、透がお礼を言う。


「え?いえいえ。これからまだお食事をごちそうしますよ?」


「これで充分だよ。ありがとう!」


透はにっこり笑うと、アメリカンコーヒーとカフェモカのカップを手にして、店内を振り返った。


「あそこのソファ席でいい?」


「はい」


由良が頷くと、透はさり気なく由良に寄り添って歩く。


「どうぞ」


席に着くと、いつの間に持っていたのか、透は紙ナフキンやマドラーを添えて由良の前にカップを置いた。


「ありがとうございます。すごいなあ、さすがはアメリカン」


「まだ言ってる。何のことなの?」


「ひとり言です。どうぞお気になさらず」


由良はカップを手に、ふふっと小さく笑いを堪えていた。


ランチは由良をどこかオシャレなレストランに連れて行って、自分がごちそうしようと考えていた透は、どこがいいか、さり気なく由良に聞こうと顔を上げた。


すると先に由良が、ねえ、と透に声をかける。


「ん?何?」


「あそこに女の子が立ってるでしょ?ほら、さっき私達が待ち合わせした場所」


「ああ。あのピンクのスカートの子?」


「そう。さっきから髪を整えたり、胸に手を当てて深呼吸したりして、なんだか可愛いの!きっと彼を待ってるんだと思う」


へえ、と透も女の子に目を向ける。


確かにソワソワと落ち着かない様子で、見ているこちらまでドキドキしてきた。


すると視線を上げた女の子が、パッと明るい笑顔になる。


「おっ、彼が来たみたい」


女の子に軽く手を挙げて近づく男の子に、由良まで嬉しそうな顔になる。


「彼女、嬉しそう!初デートかな?」


「そうかもね、初々しいな。やあ、待たせたかい?ごめんね」


急に声色を変えて男の子のフリをする透に、由良もプッと笑ってから可愛らしい声で言う。


「ううん、ちっとも。私も今来たところよ」


「そうかい?良かった。君を一人で待たせたら、他の男に取られやしないかと心配だったんだ」


由良はまた吹き出してから、女の子の芝居をする。


「まあ、そんな。私はあなたしか目に入らないわ」


「俺もだよ、ハニー。さあ、行こうか」


「ププッ…、ええ、行きましょ、ダーリン」


ちょうどその時、男の子が女の子の手を繋ぎ、二人は仲良く歩き出した。


「今日は君をどこへご招待しようかな」


「あなたとなら、どこへでも」


「じゃあ、二人だけの夢の国はどうだい?」


「ブッ!ええ、いいわね。私を連れて行ってくれる?夢の国の王子様」


「もちろんさ、俺のプリンセス」


するとまたセリフに合わせたように、男の子と女の子は顔を見合わせて微笑んだ。


「やだ!ほんとにそんな会話してるみたい」


「あはは!そうだね。案外、同じセリフ言ってたりして?」


「言ってませんよ、こんなアメリカンなセリフ」


「ええー?またアメリカン?」


「そう、またアメリカン!」


由良は声を上げて楽しそうに笑う。


こんなお馬鹿な自分につき合ってくれる子、いるんだな、と、透は由良を見ながら妙に感心していた。





「由良ちゃん、サンダルだからあんまり歩かない方がいいよね?近くにいいレストランあるかな?」


カフェを出ると、透は由良の足元を気にする。


綺麗な素足に華奢なサンダルの由良を、あまり歩かせたくなかった。


だが由良は全く気にならないようで、透の手を引いて近くの大きな公園に向かった。


「わあ、広い芝生!気持ちいい!」


両手を広げて青空を仰ぐと、由良は透を振り返る。


「透さん、フリスビーしよ!」


「え?」


戸惑う透をよそに、由良は売店に並んでいたフリスビーを買って戻ってくる。


そしていきなりサンダルを脱いで裸足になった。


「透さん、行くよー!」


「え、ちょ、待って!」


離れたところまで駆けていくと、由良は透に向かって思い切りフリスビーを投げる。


「うわっ!」


予想以上のスピードで飛んできたフリスビーを、透はかろうじてキャッチした。


「ナイスキャッチ!よーし、来い!」


遠くで由良が両手を広げて構える。


「行くぞー!」


透も由良に向かって思い切り投げた。


「きゃー!」


由良ははしゃいだ声を上げて、両手でパシッとキャッチした。


「やったー!取れた!」


「ナイスキャッチ!」


その後も二人は、まるで子どものように芝生を駆け回り、フリスビーを楽しんだ。


「あー、楽しかった!お腹ペコペコ」


「そうだね。ランチにしようか」


ひとしきり遊んだあと、ようやく二人はランチを食べることにした。


今度こそオシャレなレストランを探そうとする透に、またしても由良が先に声かける。


「あ、キッチンカーがある!透さん、見に行こう!」


「え?あ、うん」


由良は透の手を引くと、人差し指を口元に当てて、じっとメニューを選び始めた。


「メキシカンか、美味しそう。んーと、チキンブリトーにしようかな?あ、ジャンバラヤもある!透さん、二つ頼んでシェアしてもいい?」


「え、うん、いいけど…」


オシャレなレストランは…?と呟く透を尻目に、由良は、チキンブリトーとジャンバラヤください!と元気良くオーダーする。


肩に掛けたバッグから財布を取り出そうとする由良に、透は慌てて横から手を伸ばし、会計を済ませた。


「んー、美味しい!外で食べると美味しさ二倍!」


由良は満面の笑みでパクパクと美味しそうに食べる。


食後に冷たいレモネードを買って、二人でぼんやりと空を眺めた。


言葉はなく、黙っていても、不思議と沈黙が心地良い。


ポカポカと暖かい日差しの下でそよ風に吹かれていると、透はだんだん眠気に襲われた。


(う、眠い…)


重くなるまぶたに必死に抵抗する。


するとふいに、トンと肩に何かが触れた。


ん?と顔を向けると、隣に座る由良が透の肩に寄りかかって眠っている。


(ははっ、先を越されたな)


透は笑みを洩らすと、由良を起こさないよう、ひたすらじっとしていた。





「わあ、綺麗な夜景…」


ホテルの最上階のレストランに入ると、由良は窓の外に広がる景色にうっとりと見とれる。


公園でお昼寝から目覚めたあと、近くのショッピングモールをぶらぶらしてから、透はタクシーで由良を都心のホテルに連れて来た。


「由良ちゃん、苦手な食べ物ある?コース料理でいいかな?」


「はい、何でも食べます!」


「あはは!そんな気がしてた」


料理の他にも、透は由良に、飲みやすく綺麗な色のカクテルをオーダーする。


「可愛い!女の子のお酒って感じ」


「ははっ、何それ?」


「ほら、20歳の誕生日に、彼が彼女にオーダーするの。大人への第一歩の初めてのカクテル、みたいな」


「確かに。まさに今の由良ちゃんのイメージにぴったりだね」


「またー?透さん、私、22ですけど?」


「あ、そっか」


「そっかって!忘れてたんですか?」


「だって昼間、芝生を駆け回ってたからさ。やっぱり若い子は元気だなーって思ってた」


「もう!高校生通り越して、小学生扱い?」


むくれる由良に、透は、あはは!とおかしそうに笑う。


「では、元気で可愛い由良ちゃんに。乾杯!」


「むー!若く見えるけど実は三十路の透さんにも、乾杯!」


「あはは!言うねえ」


賑やかに乾杯するが、カクテルにそっと口をつける由良は、大人っぽくて美しい。


(やっぱりモデルさんだけあるな。綺麗だし、華やかだ)


上品にナイフとフォークを使う伏し目がちな由良に、透はふと「遊びでいいからつき合ってと言われる」とバーで嘆いていたことを思い出す。


(こんなに魅力的な子に、遊びでいいから、なんて酷いこと言うな。由良ちゃんにはいつか、心から彼女を大切にして守ってくれる人と幸せになって欲しい)


そう願いながら、透は由良を優しく見つめていた。




「透さん、今日は本当にありがとうございました。私がお礼にごちそうするはずが、結局ランチもディナーもごちそうになってしまって、すみません」

「とんでもない。俺も由良ちゃんにコーヒーごちそうしてもらったよ」


「ふふっ、アメリカンコーヒー?」


「そう、アメリカンね…って、だからなんでそんなにアメリカンにこだわるの?」


「だって、透さんがアメリカンなんだもん」


「なんだよ、それ…」


「あはは!」


楽しそうに笑う由良に、ま、いいかと透は頬を緩める。


レストランを出る頃には、21時を過ぎていた。


「すっかり遅くなっちゃったね。1日振り回しちゃってごめん。疲れたでしょ?」


「ううん、とっても楽しかったです。それにちゃんとお昼寝もしたし」


「そうだったね。えらいえらい」


「透さん?!私、幼稚園児じゃありません!」


「ごめんごめん。あはは!」


「もう!謝まりながら笑うって?!」


もはやお決まりになりつつあるやり取りをしながら、二人はホテルのロビーに下りた。


「じゃあ、気をつけて帰ってね。今日はありがとう」


そう言って透は、エントランスの外に止まっていたタクシーの運転手にチケットを渡してから、由良を促す。

「透さん、どうして一緒にタクシー乗らないんですか?」


「ん?だって、女の子は住んでる場所をそう簡単に男に知られちゃいけないからさ」


すると由良は、へえーと感心する。


「なるほど。さすがはアメリカンジェントルマン」


「お?なんか格が上がった?」


「ふふ、透さんは最初からジェントルマンでしたよ」


「そうかな?」


「そうです。前に私、軽く見られがちってお話したでしょ?もっと酷いと、つき合ってしばらくしてから、遊びのつもりだったんだって振られたりするんです」


「ええー?!なんて酷いことを…」


透は思わず絶句する。


「だから私、透さんの優しさがすごく嬉しかったんです。今まで、下心ある人にしか優しくされたことなかったから」


そう言って微笑む由良は儚げで、透は思わず手を伸ばしそうになった。


「楽しい1日をありがとうございました。おやすみなさい、透さん」


にっこり笑ってから、由良はタクシーに乗り込む。


透は声をかけそびれ、小さくなるタクシーを呆然と見送っていた。

極上の彼女と最愛の彼 Vol.2~Special episode~

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