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「透ー、透?おい、透!!」


「わっ!なんだよ、大河。急に大声出さないでよ」


「急じゃないっつーの!何度も声かけたわ」


夏のミュージアムの準備も佳境に入ったオフィスで。


いつものやり取りが始まった、と思いきや、ん?と吾郎と洋平は顔を見合わせた。


「なんか、いつもと逆だな?」


「ああ」


どうしたのかと、二人で大河と透の様子をうかがう。


「透、お前なんでおやつ食べないんだ?」


「は?大河、何言ってんの?」


「だって、いつもならチョコ1箱食べ終える頃なのに、今日は全然食べてる気配ないし」


「別にいいだろ?チョコの進捗なんて」


「いや、気になる。透がチョコ食べないなんて、天変地異の前触れかも知れん」


「そんな訳あるかよ!」


「それくらい珍しいっつーの!どうしたんだよ、何かあったのか?」


すると透は、黙ってうつむく。


大河は、いよいよ深刻に透の顔を覗き込んだ。


「と、透?あの、その…。何か俺に出来ることはあるか?」


「はあ?何それ」


「いや、だって。お調子者のお前がそんな真面目な顔してるなんて、不気味で仕方なくて…」


「ちょっと、大河。ケンカ売ってるの?」


「まさか!全然!めちゃくちゃ心配してる」


真剣に訴える大河に、透も真顔になる。


「大丈夫だよ、何でもない。仕事はちゃんとするから」


「それはいいんだ。けど、何かあるならいつでも相談してくれ」


「うん、分かった。ありがとう、大河」


話を締めくくられ、大河はそれ以上何も言えずに、ただひたすら透の様子を気にしながら仕事をしていた。





「ただいま」


「お帰りなさい!大河さん」


玄関を開けると、瞳子が笑顔で出迎えてくれる。


それだけで大河の心は、ふわっと軽くなった。


「ただいま、瞳子」


優しく抱き寄せて額にキスをする。


瞳子はにっこり微笑んだあと、ん?と視線を落とした。


「大河さん、すごい荷物ね。何かお買い物してきたの?」


「え?ああ、これね」


そう言って、手にしていた袋を開けてみせる。


「なあに?わっ、お菓子がいっぱい!」


中には、ありとあらゆるスナック菓子やチョコレートが入っていた。


「どうしたの?ハロウィンで配るにはまだ早いし」


「うん。これ、透に買ったんだ」


「透さんに?」


「ああ。最近あいつ、ちょっと元気がなくて。チョコも食べないし」


「えっ?あの透さんが?」


「そう。あの透が」


「そうなんですね。それは心配…」


うつむく瞳子を見て、大河は急にハッとした。


(もしかしてあいつ、瞳子のことを想って?)


いつもなら

「そろそろアリシアの顔が見たいー。エネルギーが切れるー」

と騒ぎ出す頃なのに、最近はアリシアのアの字も言わない。


(もしや、今頃になって失恋の痛手がジワジワと?)


一度考え出すと、そうに違いないと思えてくる。


「大河さん?大丈夫?」


瞳子が心配そうに顔を覗き込んできた。


可愛くて優しくて、世界でたった一人の愛する人。


瞳子を手放すことなど、絶対にあり得ない。


たとえ透の為でも。


「瞳子…」


たまらず大河は瞳子を抱きしめた。


「大河さん…。あの、透さんのことは心配だけど、大河さんまで思い詰めないで。私に出来ることなら何でもするから。ね?」


瞳を潤ませながら見上げてくる瞳子に、大河は切なさが込み上げる。


「瞳子…。ずっとそばにいて欲しい。俺の望みは、ただそれだけだ」


「もちろんよ。ずっと大河さんのそばにいさせてね」


「ああ。瞳子、ありがとう」


玄関にも関わらず、二人はしばらく互いを抱きしめ合っていた。





「はあ…」


次の日も、オフィスの水槽を見ながら、カウンターでパソコン作業をしていた透がため息をつく。


じっと魚を見ている透に、大河はまた焦り始めた。


(やっぱりそうか。この間は、水槽越しに瞳子を見てはしゃいでたもんな)


「ひときわ可愛いお魚がいる…と思ったら、アリシアの綺麗な瞳だった。あはは!」

と笑っていた透を思い出す。


透も今、その時のことを思い出しているのかもしれない。


「あー、えっと、透。その、良かったら、これ…」


大河は立ち上がると、カウンターにお菓子のたくさん詰まった袋を置いた。


「ん?どうしたの?これ」


「いや、透が好きそうかなと思って」


「わざわざ買ってきてくれたの?なんで?」


「それは、その。元気になって欲しくて」


「ええー?!俺に?大河、どうしたんだよ。なんか変だぞ?」


「いや、変なのはお前だっつーの!」


二人のやり取りに、吾郎と洋平は眉間にしわを寄せて顔を見合わせる。


いつもの不毛な言い争いが戻ってきたのはいいが、どうにも調子が狂う。


「透、何でもいいから話してくれ。今考えてること、そのまましゃべってくれればいいからさ。俺はなんだって受け止める。うん。どんなお前の気持ちも受け止めるから。な?」


「うげ、なんか気持ち悪っ」


「なんだと?!」


「ええ?!考えてることそのまましゃべれって言うからしゃべったのに」


「あ、そうか。うん、分かった。俺の気持ち悪さも受け止める。他には何かあるか?」


「他にー?うーん、そうだな。傷ついた心を癒やすには、どうすればいいと思う?」


…………は?と、大河はしばらく固まったあと、あたふたとお菓子の袋を探る。


「透、チョコじゃだめか?やっぱりチョコなんかじゃ、癒やされないか?」


「ん?何言ってんの。傷ついてるのは俺じゃないよ」


「へ?じゃあ、誰なんだ?」


「まだ若い18歳の女の子」


「ええー?」


「あ、違った。22だった。また怒られちゃう。あはは!」


「あはは?」


大河はもう、何が何やら訳が分からない。


「あ!ミュージアムの内装業者と打ち合わせがあるんだった。行ってくる」


透は手早く準備をすると、

「行ってきまーす」

とオフィスを出て行った。

極上の彼女と最愛の彼 Vol.2~Special episode~

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