テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
その日の放課後。
「……」
いるまは、
ひとりで教室に残っていた。
夕焼けが、
窓から差し込んでいる。
オレンジ色の光が、
空っぽの席を照らしていた。
らんの席。
誰もいない。
それなのに、
そこから目が離せなかった。
「……いるんだろ」
小さく言う。
「……らん」
返事は、ない。
カーテンが揺れる音だけが、
静かに響いた。
ゆっくりと、
らんの席に近づく。
机に手を伸ばす。
触れる。
冷たい。
ただの机。
……のはずだった。
「……?」
指先に、
なにかが触れた。
机の横。
フックの部分。
なにかが、
引っかかっている。
「……これ」
小さな、
キーホルダーだった。
黒と青の、
見慣れた色。
「……!」
息が止まる。
それは、
らんがいつもカバンにつけていたものだった。
前に、
「それ、気に入ってんの?」
って聞いたことがある。
そのとき、
らんは笑って、
『うん。大事だから』
って言っていた。
「……なんで」
手が震える。
みんなは、
らんを忘れているのに。
先生も、
覚えていないのに。
なのに、
これは、
ここにある。
消えていない。
「……らん」
強く、
握りしめた。
そのとき。
ガラッ。
教室のドアが開いた。
「……いるま?」
すちだった。
「まだ帰ってなかったのか」
「……すち」
いるまは、
キーホルダーを見せた。
「これ」
「……?」
すちは、
近づいて、
それを見た。
「……キーホルダー?」
「らんのだ」
すちは、
一瞬、
止まった。
「……らん?」
やっぱり、
わからない顔をしている。
でも、
キーホルダーを見つめたまま、
すちは言った。
「……なんでだろ」
「え」
「これ」
すちは、
少しだけ、
眉をひそめた。
「……見たことある気がする」
心臓が、
大きく鳴った。
「……ほんとか」
「……うん」
すちは、
ゆっくりうなずいた。
「誰のかは、わからないけど」
「……」
それでも、
よかった。
完全に、
消えたわけじゃない。
まだ、
残っている。
証拠が。
記憶が。
「……らんは」
いるまは言った。
「ちゃんと、いたんだ」
すちは、
少しだけ、
真剣な顔をして、
うなずいた。
その夜。
いるまは、
キーホルダーを、
自分の机の上に置いた。
「……絶対」
小さく、
つぶやく。
「見つけるからな」
窓の外。
夜の風が、
静かに吹いていた。
まるで、
どこかで、
誰かが、
待っているみたいに。
コメント
1件
マジでずっと見れるかも!続き楽しみすぎる!