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「おい、お前」
「お、来たな。金玉握り潰し太郎」
「変なあだ名つけんな言うたやろ。あれはただの事故やろがい」
「俺からの誕生日プレゼントだろ、謹んで受け取っとけ」
「あんこら? やるんか」
しゅうとから「金玉襲撃」を受けて約二ヶ月。
仲間内での誕生日パーティーを経て、今ではこうして軽口を叩き合える仲になった。
けれど、あいつが一人でいる時に俺に話しかけてくるのは珍しい。
なんとなくの雰囲気で、しゅうととゆうたが付き合いだしたのは察している。けれど、誰も深くは追求しない。……というか、怖くて聞けない空気だったから、とうとう本人から報告でもあるのかと思ってたんだけど。
「……で? 何だよ」
「あのさ……いつき君のキスって、どんなん?」
「はぁ?! 何だよお前、まだいつき君のこと好きなのかよ?!」
真顔で放たれたあまりに予想外な質問に、思わず声が裏返った。
「……もしかして。×××した後に×××××、×××てした後に、×××してこうへん?」
「……はぁっ?!?!」
なんで、お前がいつき君のキスの癖を知ってんだよ。言葉にされるとどぎつすぎて思わずピー音いれたわ!!
見られてたのか? それとも、まだストーカー継続中なのか?
「うるせぇ! 全然違ぇわ! ……けど、絶対教えてやんない。金玉太郎には一生教えないからな」
「誰が金玉太郎や! 省略すんなや!」
「いっちゃんおまたせー。あれぇ? しゅうちゃん、オコなの?」
濡れた両手をブラブラさせながら、トイレに行っていたりゅうせいが教室に戻ってきた。
ナイスタイミングだ、救世主りゅうせい。
「こいつ、俺が贈った誕生日プレゼントのあだ名が気に入らないらしいわ」
「あ、あれ? 金玉おにぎり野郎の襲名だっけ?」
「ちゃうわ! 握り潰し太郎や!」
「なんだ、結局気に入ってんじゃん」
「アホか! なんやねんこの会話!」
呆れ顔を見せつつも、しゅうとの口角が微かに上がったのを俺は見逃さなかった。
……なんだ、こいつも俺に対して随分丸くなったな。少しだけ安心した。
けれど、問題は「いつき君のキス」のことだ。
「……おにぎり太郎も来る? 今からりゅうせいとスニーカー買いに行くんだけど」
「いや、ええわ。これから……」
「あー、デートか。あんまちゅうしすぎんなよ?唇腫れるぞ」
「はぁっ?!?!」
図星だったのか、しゅうとは顔を真っ赤にして逃げるように去っていった。
ざまあみろ。これからも金玉の復讐は少しずつ返させてもらうからな。
「しゅうちゃん、案外『おにぎり太郎』のこと受け入れてたね」
「だろ? あいつ、自分がいじられんの意外と好きなんだよ。からかうとリアクションも可愛いんだよな」
「ねー、よかった。いっちゃんとも仲良くなれてさ」
にこぉ、と目尻をシワくちゃにして笑うりゅうせい。
……こいつ、絶対母性本能に目覚めてるだろ。
♢♢♢
「なー、いつき君」
「ん? どうしたの、いっちゃん」
翌日の昼休み。校舎の裏、生徒の足が途絶える『いつもの秘密の場所』へ向かう道すがら。
上機嫌に隣を歩くいつき君を呼び止めると、彼は不思議そうに足を止めた。
「あのさ。しゅうとがどっかで見てるかもしれない」
「え? さっきゆうたにサッカー誘われてたよ?」
「そうじゃなくて……あいつ、まだいつき君のこと狙ってる気がするんだよ」
「……ふふ、それはないでしょ」
いつき君は可笑しそうに目を細めると、至近距離まで顔を寄せてきた。
……ああ、やっぱりこの人、顔がいいわ。
蕩けるような甘い空気で、自然に唇を奪いにくるこの絶妙な距離感。俺はいつも、この空気感だけでやられる。
「いや! だから、ダメだって!!」
「……っ!?」
理性が弾ける寸前で、その肩を突き放した。
目を丸くして固まってるけど、ここ、まだ秘密の場所についてないからな? ちらほら他人の目があるからな!?
「……いっちゃん、何かあったの?」
しゅん、と効果音がつきそうなほど露骨に肩を落とし、縋るような視線を向けてくる。
……クソッ、可愛いな。俺が我慢できなくなるわ。
#NL
ゆう
501
桃紫 さく🌸
39
#さんど
「……もう、学校でイチャイチャしない。キスも禁止」
「えっ!? なんで!? 学校でできないと、俺一週間もお預けだよ? バイト中もいっちゃんのことばっかり考えて、仕事にならなくなっちゃうよ!」
いや、付き合う前は普通にこなしてただろ。
ていうか、俺に依存しすぎてて逆に不安になるわ。
そもそも、昨日のしゅうとのあの質問は何だったんだ。
いつき君のキスの癖をあんなに詳細に……まるで『経験した』かのように語っていた理由。
「……いつき君さ。この学校で、俺以外とキスしたことある?」
「は!? ないよ! いっちゃんだけ! ……いっちゃん、だけ……だよ?」
「あ。今、一瞬考えただろ。……嘘ついたな?」
問い詰めると、いつき君は泳がせていた視線を気まずそうに逸らした。
「だって……いっちゃんと付き合えるなんて思ってなかったんだもん。でも、もういないよ? みんな卒業した先輩だし、連絡先も消してるから」
ちょっと待て。「みんな」って何なんだ。
しかも年上限定とか、どんだけな経験積んできたんだよ、こいつ。
「……はぁ。聞かなきゃよかった。なんなの? 年上のが色気あって好きなの?」
「……色気っていうか。同級生と付き合ったら、いっちゃんにバレるでしょ? だから、できるだけバレないように年上と……」
「……あっそ。徹底してんな」
結局、それすら俺が理由だったのか。
俺を諦めるために他の誰かで埋めていたんだとしたら、責めきれるはずもない。
「……怒ってる?」
「いや。過去のことはどうでもいい。今は俺のことだけ好きなんだろ?」
「今は、じゃないよ。ずっと、いっちゃんだけが大好き」
にこぉ、と花が綻ぶように笑う。
ずるい。こういう顔に、俺はいつも絆されてしまう。
それが本気だとわかってしまうから、余計に。
「……俺も好きだよ。……めちゃくちゃ、いつきくんの事好き」
「ふふ。じゃあ、キスしていい?」
「……だから、ダメだって」
「えー、いじわる……」
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