テラーノベル
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どうもお久しぶりですさーもんです😊🐟
実はこの期間で、ずっと使ってたスマホが壊れまして…しかも落としたりも何もしていないのに急につかなくなって…おかげで2週間以上デジタルデトックスしてました。なんでだよ。でも直らなかったので買い換えて、Newスマホで今お送りしております。
今回は、私にしては珍しい?平和なお話です。とにかく両片思いまろにきが描きたかった。それだけです。クリスマスにあげようと思ってたけど全然間に合わなかった。R18入れようと思ってたんですけど、長くなりすぎちゃうので2話にわけようと思ってます。弱いヒーローも17000文字だったのに、それをも超える20000文字…長いですが是非読んでください…
いつか番外編の二人も書きたいな
【⚠️ATTENTION PLEASE⚠️】
irxs
黒青
桃さん水さん出てきます
水さん彼女いる
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純粋さん・地雷さんは閲覧を控えることをお勧めします
誤字脱字は脳内変換してください
【猫宮いふ】
12月。冬になり、ちらちらと雪の舞う季節。1年の終わりを知らせる寒さも、街の雰囲気で暖かさに変わる。
俺は今年の春、大学生になった。ずっと行きたかった大学に入るために、死ぬほど勉強して、無事合格できた時の喜びに勝るものはないだろう。そして、大学近くのアパートに一人暮らしをすることになった。家から大学まで歩いて二十分前後かかるが、運動不足解消のためだと思えばなんてことない。
大学は思った以上に楽しくて、友達も何人か出来た。入学当初はサークル勧誘とか、履修の組み方もよく分からなくて混乱していたのだが、今となっては大学での生活が今までで1番楽しいと思えるようになった。だけど、何かが物足りないのだ。友達も周りの環境も身に余る程だというのに、何故だろう。
考えたって仕方の無いことだ。今日も今日とて、また変わり映えのない一日が始まる。いつも通り席につくと、視界の端に水色の髪の毛がぴょこぴょこ跳ねる。
「おはよー」
「んー、はよ」
こいつは稲荷ほとけ。俺の1番最初の友達だ。何となくいつも一緒にいるようになって、同じ講座の時は大抵いつもこうして隣に座る。
「朝寒すぎて萎えるんだけど」
「でもちゃんと学校来てるやん」
「えらすぎー」
「はいはい」
「…そろそろクリスマスだね」
「ん、そういえば」
すっかり忘れていた。冬の一大イベント、クリスマス。街はイルミネーションで飾られ、クリスマスソングに包まれ…カップル達で溢れかえる。俺は人生でクリスマスを家族や友達以外と過ごしたことがない。つまり、人生で恋人が出来たことがない。
「いふくんは予定あんの?」
「ねえよ、独り身のやつにそれ聞くな」
「悲しいね〜、僕は彼女とクリスマスマーケット行ってくる」
「…今すぐ死んで欲しい」
こいつは何故か…何故か彼女とやらがいるらしい。2年くらい付き合ってるって言ってたっけ。ムカつくからちゃんと話聞いてなかったけど。
「いふくんは恋人とか作らないの?」
「何やねん、憐れみか」
「いやそういう事じゃなくて、こんな顔整ってんのになんで彼女作んないのかなって」
告白されたことあるでしょ?とにやけながら問われる。と、それはYesと答えるしかない。正直、今まで数えられないくらいの女子に告白されてきた。だが、その殆どが数回話した程度の人ばかりで、好きも何も特別な感情すら抱いていないのに、了承できる訳がなかった。彼女がいないのはそのせいだと思っているが、そもそも人を好きになったことがないのだ。運命だとかも、信じたことはない。
「顔だけで俺に告白してくる人の気持ちがわからへん」
「えー、顔かっこよかったらなんでもよくない?」
「…そんなん、本当にその人のこと好きじゃないやん」
「そうだけど〜…せっかくクリスマスなんだし、誰でもいいから彼女とか欲しくならないの?」
「……んー…」
彼女…という響きに憧れはある。クリスマスに彼女と過ごすなんて、尚更。でも、もう今更出来ないだろうし、作る気だってない。それに、好きでもない人と無理やり付き合いたくない。
「…お前が彼女いて、なんで俺にはおらんのやろうな」
「はぁ?!なにそれ僕のことなめてる!?」
「うん」
「あん?」
「おん?」
_________________
「近寄らないでくださーい」
「…マジか…」
授業が終わり、家に帰ろうと歩いていると、人だかりが出来ていた。何やら交通事故があったらしい。警察が近寄るな、と声を張っている。近寄るなと言われても、家に帰りたいだけなんですけど。いつもの道がこうなっては、違う道から帰る他ない。まあ、たまには気分転換になっていいか。
普段は通らない道を歩く。ここはあそこより人通りが少ないし、道も細い。今は明るいからいいかもしれないが、夜中ここを通るのは辞めておこう。何かに襲われそう気がする。そんなことを考えていると、何だかいい香りが漂ってくる。お茶?のような、でも甘い香り。香りの先を探していると、ある店に辿り着いた。
『Cafe よりみち』
…なんだここ。初めて見る店だ。外見はいかにもカフェ、といった木造で、少し古そうに見える。カフェ…ここ最近行かなくなった。お金もあるし、ここで休んでいこうかな。
ゆっくりとドアを開けると、中には数人のお客さんがいた。もしかして、知る人ぞ知る、みたいな感じなのだろうか。
どうやらカウンターで注文をして、注文品を受け取ったら席に着く形式らしい。カウンターに向かい、注文を決めようとカウンターの上のメニューを見ていると、目の前から声がかかった。
「ご注文、お決まりですか」
思わず顔を上げる。と、バッチリ目が合った。
息を呑む。綺麗な金と茶色の髪に、切れ長な目。この世のものとは思えないぐらいに、繊細で、うつくしい。
「…あの、注文」
「っあ、えっと…」
やばい、見つめすぎた。変な人だと思われたよな。何だっけ、何頼もうとしたんだっけ。もう。駄目だ。
「…ぁ、す、…すいません、やっぱ、帰ります」
「えっ…」
そう言い残して、俺はその店を去った。
全速力で家に帰り、ベットに飛び込んだ。まだ、頭がふわふわしている。俺はあの時間、一体何をしていたのだろう。ただ商品を注文しようとしただけなのに、目の前の店員さんから目を離すことが出来なかった。
要するにこれが、一目惚れってやつか。
また会えるなら会いたい。だけど、会ったら今日みたいに、また逃げ出してしまうかもしれない。
恋って、こういうことなのか。
「ほとけ、俺、好きな人できた」
「……え」
プテラノドンのような奇声が教室中に響き渡る。
「うるさい」
「えっ、えっ、ど、えっ!?」
「何をそんなに驚いてるんだよ」
「いやだって…あのいふくんが…?」
「どのいふくんだ」
「しかも昨日あんな話したあとなのに」
それはそうだ。昨日までの俺は、恋愛雑魚男だったから。なのにあのカフェに行って、全てが変わった。あの人の名前すら知らないのに、一度出会っただけで好きになってしまった。分からないけど、目が離せなかった。だってとても、うつくしかったから。
「どんな人?かわいい?」
「んー、綺麗系」
「えぇそっち系だ」
「今日も会いに行く」
「え、そんなすぐ会えるの?」
「分からんけど」
今日も行ったら、またいるかな。いて、ほしいな。
「…めっちゃニヤけてる」
「んなことないわ」
「きもちわるう」
「はぁ?!」
__________________
来た。今日も。カフェよりみちに。またあの人がいることを願いながら、そろりとドアを開ける。昨日よりも人は少ないが、カウンターを見ると注文している人がいる。
(あぁ…今日はいないのか)
カウンターにいたのは昨日の人ではない、ピンク髪の男の店員さんだった。そりゃ、毎日毎日働いてる訳ないか。でもせっかくなら何か頼みたい。自分の番になってカウンターに行くと、先ほどの店員さんが俺を見つめる。
「…あ、少々お待ちください」
俺の顔をじっと見たかと思うと、何故かその場を離れてしまった。忙しいのか、と思いつつ眉を顰めていると、奥から違う店員さんが出てきた。
「あ、ホットコーヒーひと…」
そこまで言いかけて、その店員さんと目が合う。
その瞬間、時が止まった。
「…あ、昨日の」
宝石のような黄金の瞳が、柔らかく細まる。いた。昨日の女神様だ。なんでさっきはいなかったんだ。いやでも今会えたし、てか昨日会ったこと覚えてくれてた?いやそれより注文しないと。
「っ、ぇ、…ほ、ホットコーヒー…」
「ひとつで?」
「あ、はいっ」
「店内ですか?」
「ぁ…はい、店内で」
「かしこまりました、そちらでお待ちください」
「…はい」
…俺、ちゃんと話せてた?顔にやけてなかった?こういう時ほとけがいてくれればいいのに、と心の中で呟く。
待っている間、女神様はまた奥の方に行ってしまった。と思ったのも束の間、俺が頼んだホットコーヒーを持ってきてくれたのだ。嗚呼神様、俺の味方になってくれて有難う御座います。
「お待たせ致しました、ホットコーヒーです」
「ありがとうございます」
最後の最後まで、女神様は俺に微笑んでくれた。これがただの接客なのは分かっている。分かっていても、俺は彼が俺を見つめてくれるだけで幸せなのだ。胸の暖かみを感じながら席につく。
(あー、マジで狂ってきてんな)
昨日会っただけの人を好きになることなんて、今まで一度もなかった。元々俺は恋愛に向いていない体なのかと思っていたのに、たった一日で何もかもが変わった。彼の顔も声も、全てが好きだ。でもまだ知らないのは、名前。名前なんて、どうやって聞き出せばいいんだ。胸を見てもネームプレートはつけて無さそうだし、どうやって知るのが正解だ。いきなり「お名前教えてください」なんて言ったら即逮捕だろう。逮捕まではいかなくても、相手に嫌われる。
…というか、このコーヒー、あの人が持ってきてくれたよな。もしかして、彼が淹れてくれたのかな。
「…おいし、」
ぼそりと呟いた声は、コーヒーの湯気に溶かされた。
結局、あの日から2週間以上、店に行くことが出来なかった。もちろん、行きたい気持ちはずっとある。だがそのせいで、もうすぐレポート提出日なことをすっかり忘れていたのだ。遅い時間まで図書館にいると、いつの間にか外は暗くなっている日が続いて、あのカフェに行くことができなかった。あのカフェに行くまでの道を暗い時間帯に歩くのはかなり抵抗があるし、そもそもカフェ自体もやっていないだろうと思って足を運べなかったのだ。
…そろそろ女神様ロスになってきた。会えなくなる度に愛が大きくなっていく。まだ二回しか会っていないのに、今はあの人のこと以外考えられない。
レポートも無事提出できたし、今日は絶対に行ける。あの人がいなかったとしても、あの空間に行けるだけでいい。とにかく、今の俺にはあのカフェが足りていないのだ。
「猫宮!!!」
「ふぇっ?」
「何ぼーっとしてんだ、今の話聞いてたか」
「…あぁ、すみません」
普段真面目に受けている授業でさえも耳に入っていなかったのか。まずいぞ、本格的に頭がおかしくなってきている。
横を見ると、喧しい表情でにやけながら俺を見る水色頭がいた。後でしばく。
__________________
やっと来れた。2週間ぶりのカフェ。ほとけの誘いを断ってまで一人で歩いてきた。嬉しすぎて店の前で飛び跳ねたかったが、一応やめておいた。今更だが、このお店には窓がない。窓がないと中が見れないから、女神様がいるかどうかも分からないのだ。今日は、いてくれますように。お願いします、と祈りながらドアを開ける。
「いらっしゃいませ」
心地よい音が耳に響く。ああ、今日もいる。いてくれた。輝く笑顔が眩しい。しかも、今日はカウンターに彼しかしかいない。お客さんも少ない。
…もしかして、今日が名前を聞くチャンスなのか?でも、どうやって。何か世間話でもして、名前を聞けるチャンスを作る?いや、今日は何も準備せず来たのに、そんな上手いこと話ができる訳ない。ひとまず、注文しなければ。彼の前に行き、いつものようにメニューを見る。
「ご注文お決まりですか」
「は、いっ、えっと…カフェラテ?」
「店内ですか?」
「あ、持ち帰りで」
「かしこまりました」
「……」
「以上でよろしいですか」
やばい。話すことが何もない。何かもう一つくらい商品頼むか、でも、名前も聞きたい。…
でも聞き出す方法がわからない。 汗が顔から吹き出してくる。
「…以上で」
あー、また。こんな日がずっと続くようなら、名前を聞き出すのなんて100年かかる。今まで恋愛をしたことがないツケが、今ここで回ってきたんだろうな。久しぶりに来たのに、テンションはまるでだだ下がりだった。財布を取り出そうとした時、思わずその手が止まった。
「久しぶりですね」
突然、女神の囁きが降ってくる。今のは、幻聴か?幻聴だよな。だって、女神様が俺に話しかけるはずないもんな。気にせず財布を取り出しお金を置くと、また声が聞こえてくる。
「なんでしばらく来なかったんですか?」
…幻聴じゃ、ない。今見た。あの人の、口が動いてた。なんで。どういうこと。あの女神様だよな。そんな、俺なんかに、え?
「な、お、覚えててくれたんですか」
「はい、ここ最近来ないから、気になってました」
「…」
マジか。俺、今日死ぬのかな。
「大学の、レポートがあって…それやってたら、行く暇がなくて…」
「そうなんですね」
そう言うと、彼はいつものように微笑んで奥に入っていった。彼の笑顔は、この世で一番うつくしい。だけど、思ってしまう。この笑顔は、俺だけにではない。他のお客さんにも、誰にでも向ける笑顔。そんなこと当たり前なのに、頭がついていかない。ただのお客さんとしてじゃなくて、俺を見てほしいのに。叶うはずのない恋とは、なんて残酷なのだろう。
「お待たせしました」
「ありがとうございます」
持ってきてもらったカフェラテを受け取る。今日は持ち帰りにしたのでこのまま帰ろうとすると、水がポツポツと落ちる音が聞こえてくる。まさか、雨。まあ、これくらい小降りなら走ればいいか、と思った瞬間に、いきなり激しく降り始めた。この量は走ったとしても家に帰る頃には全身びちゃびちゃだろう。もちろん傘など持っていない。明日も学校だし、出来れば風邪をひきたくない。ここで止むのを待つのもいいが、いつ止むかもわからない。下手したら夜まで降り続けるかもしれない。どうしようと頭を搔いていると、カウンターから足音がした。
「…なぁ、帰れへんの?」
「えっ」
そこにいたのは、先程までのエプロン姿ではない、私服の女神様だった。めちゃくちゃかっこいい。いやそれより何故、何故カウンターから出てきたんだ。今仕事中じゃないのか?てかめっちゃ関西弁だし、情報量が多すぎて脳が追いついてない。
「やから、雨で帰れへんのって」
「…はぁ、ま、まあ、」
「そうか、なら俺が送ってってやろうか?」
「はぁっっ!?!?!?」
かなりの声量で叫んでしまった。すると女神様はははっ、と笑い、俺に近づいてくる。
「もうお客さんおらんし、店閉めるし」
「え、ぁ、っ、あの…」
「ん?嫌か」
「いやっ、ではないんですけど…」
嫌なわけがない、ないが…
「客と、店員さん、ですよ…?」
「…ふ、もう店員やないし、客でもない」
おいで、明日も学校なんやろ。そう言って出口に向かう彼に、俺はついて行くしかなかった。
_________________
これは、夢か。どんだけ幸せな夢を見ているんだ俺は。こんなの、目覚めたら虚しくなるだけやのに、早く目を覚ませいふ。早く。
「なぁ、そんなほっぺた引っ張ったら赤くなんで」
なんで夢じゃないんだよ!!!!
今までずっと、手の届かない存在だと思ってた。ずっとカウンター越しに見ているだけだったのに、何故今、この人の車に乗っている?そして何故、助手席に乗らされている? 運転している女神様が隣にいる、もう頭がキャパオーバーだ。死ぬ、今日で死んでしまう。
「…なあ、名前なんていうん」
「あ、猫宮、です…」
「下は」
「いふです」
意識を外の景色に向けようとしていた時、聞こえてきた声に引き戻される。名前、か。そういえば、俺の目標は女神様の名前を知ることだったよな。俺が名前を聞かれる側になるとは思いもしていなかった。
「俺は獅子尾ゆうすけ」
「…獅子尾さん」
獅子尾、って言うんだ。いい名前。俺の目標は、今日でいとも簡単に達成出来てしまった。
「あにきって呼んで」
「へぇ!?無理ですよ」
「なんで」
「なんでって…、と、年上ですよね」
「うん、いふくんよりはね」
「そりゃ年上の方をそんな風に呼べないし…どうせこれから先呼ぶ機会ないですよ」
「えぇーそんなこと言わんといてよ」
…さっきから、この人はやけに距離が近い。ちゃんと話したのは今日が初めてだというのに。でも、俺はそう簡単には騙されない。性格のいいイケメンは、誰に対しても同じ接し方をするのだ。恋愛には疎くても、男側の気持ちは分かる。つまり、獅子尾さんは、どんな人にも距離が近いということだ。女子だろうが男子だろうが、年下だろうが年上だろうが関係なく。
期待をしない方がいいんだ。
「ここら辺でいい?」
「あっ、はい、本当にありがとうございました」
「ええよ、明日は来る?」
「わ、わかんないです…」
「そう、じゃ、また連絡して、またな」
「…はい」
また、その笑顔だ。
余韻を残して、彼の車は去ってしまった。まだ、夢のような気がする。だって、俺なんかがあんな…。信じられないくらい、女神様は眩しかった。
玄関を開け、上着を脱ごうとすると、片手にずっとカフェラテを持っていたことに気づいた。中身もそこまで減っていないし、車の中でカフェラテを飲む余裕なんてないくらいには緊張していたのだなと苦笑する。冷めきったカフェラテを飲もうとすると、カップホルダーに目がいく。何か書いてあるみたいだ。
『〇〇〇-△△△△-◇◇◇◇ ←いつでもかけてきて 』
これは、まさか。そういえばさっき、
『そう、じゃ、また連絡して、またな』
「あー……ずるい……」
すぐにスマホを出して、連絡先に登録する。
どうせ、連絡なんて出来ないくせに。
あと2日でクリスマス。もちろん、恋人はいない。一緒に過ごす人もいない。別に、一人なのが嫌な訳では無い。一人の奴に居場所がないあの空間が嫌なのだ。どうせ、獅子尾さんにも彼女がいる。わかってはいたけれど、やっぱり諦めきれずにいる。
この前の連絡先には、未だ連絡は出来てない。というより、するタイミングがないのだ。これからカフェ行きます、と連絡するのも違うだろうし。あれ以降何度か店には行ったものの、獅子尾さんとは会えなかった。悲しいし、また会いたいけど、今会っても前よりまともに話せない気がする。けど、会いたい。放課後、顔を机に伏せていると、隣の椅子が引かれる。
「いふくん、なにしてんの」
「は、ほとけか」
「泣きそうな顔してる」
「んなわけないやろ、」
「どうせ好きな人と会えないとかそんなんでしょ」
「なっ…んでわかった…」
こいつは、馬鹿なクセにこういう時だけ妙に察しがいい。
「恋愛マスターほとけに任せといてよ」
「信用ならん」
「まぁまぁ、どんくらい会ってないの」
「一週間以上、かな」
「ほーんなるほどね、連絡先は?」
「知っとるけど…無理やねん」
「なにが?」
「…いや、そのー、…」
「ちょっとーもごもごしないでくんない?」
「だ、だからっ、…恥ずいねん…電話すんのが…」
「…なにそれ、小学生じゃん!!!」
ぎゃははとほとけが笑う。くっそ、こいつに相談したのが間違いだった。席を立って家に帰ろうとすると、待って待ってと引き止められる。
「会えないならさ、無理矢理にでも会いに行けばいいじゃん」
「…」
「嫌われることなんて気にしなくていいって」
会いたい、それだけで電話するのなんてあまりにも迷惑だと思っていた。彼女持ちの人になんて尚更そんなことできない。だけど、会えないのは辛いから。
あなたに会うことだけが、幸せだから。
「…帰る」
「うん、僕は勉強する」
「あっそ、またな」
「はい、またね」
いいことを、教えてもらった気がする。
________________
ほとけと別れて、大学近くの公園のベンチに座る。周りに人もいないし、静かなこの場所で休むのが日課だった。あのカフェに行くようになってからは、中々来れていなかったが。はぁー、と白い息を吐く。ほとけにああ言われたら、悩むものも悩めなくなった。そうだよな、会いたいなら、会いに行けばいいんだもんな。凍った地面を見つめていると、珍しく人影が通った。
「…いふくん?」
「えっ」
急に名前を呼ばれてそちらの方を見る。そこには、なにやら見たことある人がいた。
「ごめんね、急に話しかけちゃって」
あの人だ。あのカフェの、ピンク髪の店員さん。獅子尾さんと一緒によく働いているところを見る。何故俺の名前を知っているのだろう。ぽかんとしていると、頭をわしゃわしゃと撫でられる。
「そんな可愛い顔で見つめないでよ笑」
「か、かわっ…?」
「こりゃあにきの気持ちもわかるかもしんないな」
「えっ…あの、…」
「隣失礼するね」
この人も、獅子尾さんと同じで距離が近い。しかもイケメンだ。カフェよりみち、恐るべし。
「俺の事わかる?笑」
「もちろん、よく見ますよ」
「そっか、最近沢山来てくれるよね、いふくん」
「な、なんで僕のこと知ってるんですか 」
「え、そりゃ…あに、…ゆうすけが前教えてくれたから」
「へぇ…」
この人は、獅子尾さんのことをあにきって呼んでいるんだ。それだけ仲がいいんだな。俺の名前なんて教える必要があるのか分からないけど。
「俺乾ないこ。なんでここにいるの?」
「んー…カフェ行こうと思ってたんですけど…最近…あのー…… 」
「……ゆうすけは、今風邪ひいて休んでんだよね」
「…えっ、」
「あれ、知らなかった?」
「そりゃ、知らないですけど…」
「そう…いふくんが看病しに行ったら、きっと喜ぶよ」
「いやいや…笑 もうしてくれる人おるでしょ」
「?なんで」
「え、獅子尾さんって彼女いますよね」
「えっ!いないよ」
「………は」
まじかよ。
今の今まで、それだけがずっと邪魔していた。俺の好きな気持ちは、どうせ叶わないものなのだと思い込んでいた。だって、あんなに距離が近くても、それは俺にだけじゃないと分かっていたから。彼女がいるなら、この気持ちを知られずに、ただの店員と客として接する他ないと思っていた。
彼女がいないなら、 すこしくらい、ほんのちょっぴりでも、期待、して、いいのだろうか。
「俺そろそろ行くね、バイバイ」
俺が女だったら確実に惚れる笑顔で手を振られたので、ぎこちなく手を振り返す。
「どうすればいいんや…」
寒い空が体を包み込む。宇宙からしたら、俺の悩みなんてちっぽけなのかもしれない。だけど俺にとっては、宇宙一大事な悩みなのだ。
今しか、電話をかけるチャンスはない。ここで逃したら、多分一生かけられない。でも、 風邪なのにかけたら、迷惑だよな。いきなりかけても、出るわけないよな。
『いつでもかけてきて』
いつでも、って言ったのは、獅子尾さんだからね。
随分前に登録した電話番号に触れる。すると、携帯を耳に当てた瞬間相手の声が聞こえる。
『、もしもし…ごほっ、』
「えっ、もしもし!すいません急に」
『んいや、電話なんていつでもかけてきていいから』
「…あの、体調悪いって聞いて… 」
『誰から?』
「乾?さん」
『あーないこね、多分明日には治る』
「そうですか…」
『…なに、看病しにきてくれんの?』
「えぇ、あー、…」
電話をした理由は、獅子尾さんの声を聞きたかったから。それもあるが、心の中でずっと、獅子尾さんのために看病してあげたいと思っていた。でもそんなこと言える訳ないし、と諦めていたのに、こんなこと言われてしまったら。
「い、きたいです!」
振り絞って出した声。すると、電話越しに獅子尾さんの笑い声が聞こえる。
『ほんまか、冗談のつもりやったのに』
「えっ!?」
『ふはっ、でも来て欲しいのはほんと』
「いや…ちょ」
『住所送るから一回切るな』
「えっいや、」
無理しなくても良いですよ、と言おうとしたところで電話が切れた。するとすぐ、メッセージに住所が送られてきた。ここが、獅子尾さんの家なのか。今になって緊張してきた。無意識に貧乏ゆすりをする足を止めて、マップアプリを開く。
「…ふぅー…」
自然と上がった口角は、下がることを知らないらしい。
ピンポーン。
「…待ってたで」
開いたドアの先には、普段とは似ても似つかないような人物が立っていた。マスクをつけて、冷えピタを貼って、無造作な髪にグレーのスウェット。あの女神様からは想像できない姿に、思わず笑みがこぼれる。
「ごほっ…、っなんで笑ってんの」
「いや、なんか、獅子尾さんも人間なんだなって…」
「ふっ、そりゃ人間よ、てかなんか買ってきてくれたん?」
「あ、一応…コンビニで、食べやすそうなもの」
「ありがとな」
入って、と促され、玄関に足を踏み入れる。中は暖かくて、散らかっている様子もなかった。
「ここがリビング」
「広いですね」
「んーそう?」
全てが獅子尾さんの匂いで、居心地がいいのか悪いのか分からない。
「…あの、急に来ちゃったから、全然寝ててもらって大丈夫ですよ」
「んー…わかった、俺寝室行くからいふくんも来て」
「えっ…はい」
寝室に入ると、布団が乱れたベットがあった。恐らく俺が来る前はここで寝てたのだろう。そんなことを考えていると、急に獅子尾さんがベットに潜り込む。そして、ベットの横のスペースを顎でしゃくった。訳が分からず棒立ちのままでいると、獅子尾さんが笑みを浮かべた。
「ほら、ここきて、」
「…はい?」
「なんか買ってきてくれたんでしょ?それ食べさせてよ、俺に」
……はい?
食べさせる?俺が?獅子尾さんに?食べさせる?そんな状況あっていいのか。獅子尾さんはこういうことを他の人にもやらせてるのか。何で、俺にまで。俺にそんな事しなくても、もう十分距離は縮まったと思っているのに。
「何買ってきてくれたの」
「えと、プリンとか…スポドリとか…」
「あー俺今すっごいプリン食べたい気分」
「…は」
「でも風邪だから1人で食べれないな〜…誰か食べさせてくれないかな〜…」
ずるい。こんなこと言われたら、食べさせてあげるしかないじゃないか。
「、一口だけ、ですよ」
「うん」
そう言ってベットの横のスペースにしゃがみこむ。すると獅子尾さんがマスクを外して、俺を見つめてくる。
すぐに視線を逸らして袋の中のプリンを取り出し、蓋を開ける。スプーンで掬ったプリンを獅子尾さんの口の前に持っていくと、獅子尾さんの口がゆっくりと開く。何だかいけないことをしているみたいでいたたまれなくなる。そのせいで手が震えてしまい、上手く口まで運べずにいると、スプーンを持った手に獅子尾さんの手が重なる。
「緊張しすぎ」
獅子尾さんはそう言って、スプーンの上のプリンをぱくりと食べた。
顔が一気に赤くなる。ただ食べさせただけなのに、こんなに鼓動が早くなって、こんなに体が熱くなるのはどうしてなのだ。
「ありがとう、おいしい」
「…ぅ、はい…」
…この人は、こんなに顔が綺麗で、こんなに優しくて、こんなにかっこいいのに、どうして。
「…何で、俺にこんなことするんですか」
「……え?」
「俺、は…獅子尾さんの、何ですか」
べっこう飴のような綺麗な瞳が、俺を見据える。
「獅子尾さんが、いろんな人にこういう接し方してるのはわかってます。俺だけじゃないことなんて分かってる。」
「…は?」
「分かってるのに、俺、出会った時から獅子尾さんが…ずっと頭から離れなくて、獅子尾さんのことしか考えられなくて、…今日だって、乾さんに獅子尾さんは彼女いないって教えてもらった時、ほんのちょっとだけ…う、嬉しくて…、ずっと、いると思ってたから…だから、こうやって期待させるようなことばっかすると、俺、もう後戻り出来なくなっちゃうから…」
どんどん言葉が零れてしまって、焦って自分の口を抑える。絶対、引かれた。絶望していると、獅子尾さんの手が頭に伸びてくる。優しく撫でられ、手の温もりに思わず目に涙が溜まる。
「あー最悪や……なんで今風邪なんてひくねん…」
そう言いながら、頭にあった手を俺の頬に滑らせる。
「いふくんのこと、今めっちゃ抱き締めたい」
綺麗な指が俺の涙を拭き取る。俺は、それを受け入れるしかなかった。だって、体が魔法みたいに動かなくて。
「ここやとあれやから、リビング行って話そう」
「…はい」
獅子尾さんがベットから降りて、俺の腕を掴みながらリビングへと連れていく。
小さめなソファに二人並んで座る。距離がさっきより近くなったせいか、手汗が止まらない。
「なぁ、さっきの話…」
「あの、あれはもう…なしにしてください」
「は?なんでやねん」
「気持ち悪いでしょ、あんなこと言われたら」
「いや、あのあと俺、嫌なんて一言も言ってないやろ」
むしろ俺、嬉しかった。
「だから、そういうのですよ!!!」
思ったより大きい声が出てしまった。部屋がしんと静まり返る。
「どうせ誰にでもやってるくせに、俺にもそういうこと言うから…期待しちゃうじゃないですか…、」
また涙が溢れ出そうになる。ああ、こんな自分が情けない。下を向いていると、横から落ち着いた声で話しかけられる。
「それさっきも言うてたけど、なんなん」
「えっ…?」
「俺、いふくん以外にこんなことせえへんけど」
「……は?」
獅子尾さんの表情を見ても、嘘を言っているようには見えなかった。でも、信じられない。
「だって、獅子尾さんってモテるだろうし、女子とかにもチヤホヤされてるだろうし、そういう人の扱い慣れてるのかなって…」
「そんな理由だけで俺のこと信じてなかったん?」
「…まぁ」
「……まじか」
「…ごめんなさい、」
確かに、自分勝手ではある。ただそうでもしないと、恋心がぽろっと漏れてしまいそうだったのだ。
…じゃあ何故、獅子尾さんは俺にだけ、
「ふは、謝らんでええよ」
「…でも、すいません…」
「…んーでも確かにそやなー…看病してもらった身やけど、流石にちょっと傷ついたな」
「…うぅ、」
「やから、1個俺のお願い聞いてくれへん?」
「はいっ、なんでも聞きます」
言ったな?と意地悪な笑みを浮かべる。少しどきりとしてしまった。
そして、膝の上の両手が獅子尾さんの手で包み込まれる。
「いふくん、俺と付き合ってほしい」
世界の色が、変わって見えた。
「は、ぇ…な、…なん…えっ…」
「聞こえんかった?もう一回はなしやで」
俺と、付き合って欲しい。一言一句脳内でリフレインするが、どうも思考が追いつかない。
「好き、いふくんが。俺も出会った時からずっと、いふくんのこと以外考えられなかった」
すき、なのか。獅子尾さんは、俺のことが、好き、なのか。何故、どうして、何が好きなのか、聞きたいことは山ほどあるのに、今はただ嬉しかった。コーヒーを飲んだあとよりもずっと、胸が暖かい。
「俺、も…ずっと、好きで、す…うっ、ひぐっ…」
「ふ、泣かんでよ」
「だって…、そ、んなこと、ないとおもってた…獅子尾さんが、俺のことすきになるなんて、…ありえないって…」
「えー俺結構アピールしてたつもりやけどな」
するとまた、獅子尾さんに頭を撫でられる。
「クリスマスまでには絶対治す」
それまで、ちょっとだけ待ってて。
「…はやく、してくださいね」
触れられない時間も、貴方といれるならなんでも良かった。
【獅子尾ゆうすけ】
「ないこ、俺、犯罪者になるかもしれん。」
「……はい?」
俺の名前は獅子尾ゆうすけ。ごくごく普通のカフェ店員だ。目の前にいるホストのような彼は、乾ないこ。俺が働く『Cafe よりみち』は、ないこが個人経営している店で、ないこと俺ともう何人かの従業員だけで店を動かしている。ないこと俺は学生の頃からの知り合いで、従業員を雇うとなって一番に俺を誘ってきた。今ではこの仕事が誇りになるくらい、すごく楽しめている。
そしてそんな俺は今、逮捕の危機にある。
「は、犯罪者…?」
「そう、犯罪者」
「えっ、どういうこと…?」
「俺…未成年に手出してしまうかもしれへん…」
「はぁっ!?!?なんで!?」
昨日来たお客さんの話やねんけど…
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俺はいつものように、接客をしていた。しばらく経ってお客さんが落ち着いたな、と思ったところで、カフェの扉が開いた。その時俺は、どうしても手が離せない作業をしていたせいでちゃんとお客さんの姿を見れなかった。その人がカウンターの前に来たのが分かったところで作業を終えて、俺もカウンターに立つ。
「ご注文、お決まりですか」
お客さんが顔を上げる。と、バッチリ目が合った。
息を呑む。深海のように美しい髪色に、澄んだ青い瞳。長い睫毛と通った鼻筋。俺を見つめる純粋無垢な表情。
あ、好きだ。
俺は目の前の天使に狼狽えた。どうしても、彼が愛おしくて仕方がなかった。すると、目の前の彼も、何故か俺から目を離さない。あー可愛い。え、可愛い。なんで?なんで目逸らさんの?かわいい。まじ可愛い。え、ん?可愛いな。
と、今の数秒で我に返る。
「…あの、注文」
「っあ、えっと…」
向こうも何か別のことを考えていたのか、思い出したかのように話し出す。
「…ぁ、す、…すいません、やっぱ、帰ります」
「えっ…」
そう言って、すぐさまカフェから出ていってしまった。
「…かっ」
…わいすぎるだろっ………!!!!!!!
何とか、店内で叫ばずに済んだ。
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「あぁ、その子がかわいかったのね」
「そう…やねんけど、」
「?」
「絶対その子…学生やねん」
「えー、でも大学生かもしれないじゃん」
「いや、だって、めっちゃ童顔やったし絶対高校生やと思うねん…」
何なら、中学生にも見えるくらいだった。これでもし未成年だったら、俺は逮捕される。
「そんなの、あにきが我慢すればいい話じゃん」
「我慢!?あんな天使目の前にして我慢なんてもんが出来ると思うか!!!」
「…マジでやらかしそうで怖いんだけど」
俺だって怖い、いつ理性が壊れるか。でも、もしかしたら、これからあの子が来ることはないかもしれない。むしろ、来ない方が幸せなのかもしれない。俺にとっても、あの子にとっても。
「くっそー……でも会いたい……」
「はっ、そうですか…」
「なぁ、もし俺が裏で作業してたとしても、その子が来たら教えてくれんか?そしたら、俺がその子の頼んだやつ淹れる」
「あぁまぁ、いいけど…」
「青髪の、まじで可愛い、天使みたいな子が来たら絶対教えてな?」
「むずいって、」
「いや、来たら絶対にわかる!!!」
「なるほどね〜、了解」
もし明日にでも会えたなら、もうこれは運命だと思うしかない。
次の日は、裏で準備をしていた。その時もずっと、あの天使のことが頭から離れなかった。あの顔に見つめられたら、比喩ではなく鼻血が出てしまいそうで困る。あんな天使、世界中どこを探してもいないだろう。可愛すぎるもん。流石に。どうやったらあんな…
「あにきっ…!!」
カウンターから小声で俺の名前を呼ぶないこが出てきた。まさか。まさか。そんな。
はやく、と口だけ動かして言われ、すぐにカウンターの方へ向かう。
天使。本当に、来た。
「あ、ホットコーヒーひと…」
俺の姿を見ると、彼が固まった。
「…あ、昨日の」
よくもこんな台詞を言えたものだ。自分で言ったことなのに何故かイライラが募る。
「っ、ぇ、…ほ、ホットコーヒー…」
「ひとつで?」
「あ、はいっ」
「店内ですか?」
「ぁ…はい、店内で」
「かしこまりました、そちらでお待ちください」
「…はい」
我ながら上手く平常心を保てたと思う。小さくガッツポーズをしてから、また裏の作業場に戻る。
…あの子のホットコーヒーを、俺が淹れる。手が激しく震えてしまう。やばい、緊張する。そもそも、どうして今日も来てくれたのか。俺の願いが叶ったのか。それとも、あの子も俺の事。
(………だとしたら、俺もう死んでいいかも)
よく考えれば、昨日の天使は、すぐに去ってしまった。恐らく去った理由は、俺を見たから。しかも今日も、俺と目が合うと顔を真っ赤にして目を逸らした。話し方からも緊張していることが伝わってきた。
まさかのまさか。
これが自惚れならそれはそれで危ない。だけど、もしあの子も俺のこと好きなら、それは犯罪になるのか?両思いなら、犯罪ではないのか?よく分からないが、今はコーヒーを淹れることに集中しなければ。
いつもより少し丁寧に淹れ、あの子のもとへ持っていく。
「お待たせ致しました、ホットコーヒーです」
「ありがとうございます」
愛おしい笑顔で俺に応えてくれる。可愛い。今すぐ抱き締めたい。もう、犯罪などどうでも良くなっていた。
明日も来てくれるかな、と浮かれながら裏に戻る。
ガッシャーン!!
「あぁごめんなさいっ…」
裏で聞こえる騒音に、浮かれてるなーと心の中で呟くないこであった。
「………来ない」
「…今度は何」
「あの子が、来ない……」
「あーたしかに、最近見ないかも」
「……なんで……やっぱ俺嫌われたのかな」
「そんな嫌われるようなことしてないでしょ、忙しいんじゃないの?学生なら」
「……あの子が来るまで俺カウンターにずっといるから」
「だから最近シフトめっちゃ入ってんの?」
「そう」
「はー…マジで恋してんじゃん」
「そろそろ天使不足で死にそう」
「…何言ってんのこの人」
あれから2週間以上、あの子の姿が見えない。二日連続で来てくれたのに、それ以降一度も来ていない。もしかしたら、もう来ないのかもしれない。だって、今まで1度も来ていなかったから、ここに旅行に来たついでに寄ったとか、元々近くに住んでいないかもしれない。…もう、二度と会えない…?それは、俺に死んでくれということか。天使のように俺のもとに現れて、天使のように消えていった。…いや消えるなよ。ずっと俺の所にいてくれよ。
「今日で最後にする」
「何を」
「今日来なかったら、もう諦める。」
「えっ…ほんと?」
「最近毎日出勤してるし、来ないってわかってるのに出勤するのが虚しい。」
「…あの子に会う為だけに仕事してる訳じゃないからね?」
「やから今日で、諦める。」
頬杖をついていたないこが、俺の方を見てにやける。
「どーせ今日来るでしょ」
「…そうやといいけど」
重い足取りで、俺はカウンターに向かった。
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結局、今日も来なかった。もうすぐ閉店で、お客さんもそろそろ帰る頃だろう。…もう、俺は諦めるしかないのか。小さくため息をつくと、扉がゆっくりと開く。
そこにいたのは、俺がずっと待ち望んでいたものだった。思わず、はっと息を飲む。ああ、また会えた。それが世界一嬉しくて、自然と口角が上がってしまう。
「いらっしゃいませ」
普段と変わらない口調でそういうと、少し俯きながら天使がこちらにやってくる。何だか見えないはずの羽まで生えているように思える。
「ご注文お決まりですか」
「は、いっ、えっと…カフェラテ?」
「店内ですか?」
「あ、持ち帰りで」
「かしこまりました」
「……」
「以上でよろしいですか」
「…以上で」
このやり取りでさえも、俺は嬉しかった。でも、もうこれで終わるなんて嫌だ。何か、何か話しかけないと、すぐ帰ってしまうかもしれない。さっきまでいたお客さんも、もう帰られたみたいだ。ということは、俺は天使と、ふたりきり。それにテンションが上がってしまい、ついに話しかけた。
「久しぶりですね」
彼はびくりと肩を震わせただけで、俺の方を向いてはくれなかった。無視?やっぱり嫌われたのか、俺。だけど、嫌われてもいいから、こっちを向いて欲しかった。
「なんでしばらく来なかったんですか?」
もう一度話しかけると、ようやく彼がこちらを向く。そして耳まで真っ赤にしてまた顔を逸らす。やっぱり、かわいいがすぎる。
「な、お、覚えててくれたんですか」
覚えてるも何も、君のことしか考えていなかったけどね。
「はい、ここ最近来ないから、気になってました」
そう言うと、さらに顔を紅潮させる天使。
「大学の、レポートがあって…それやってたら、行く暇がなくて…」
大学。なんと、大学。ということは、未成年ではない。俺は、心の底から安心した。もう犯罪者になってもいいや、というレベルのメンタルは出来上がっていたのだが、未成年ではないのならそれが一番だ。逮捕はされない。嬉しい気持ちを抑えて、そうなんですね、と返す。
「お待たせしました」
「ありがとうございます」
俺が作ったカフェラテを渡すと、微笑みながらカップを見つめる天使に心を奪われる。もう帰ってしまうのが、とても淋しい。
俺は、もう運命だと思う。今日来なかったら諦めるつもりだったのに、今日来てくれた。これはもう、神様が俺に諦めるなと命じてくれているのだろう。
ふと外を見ると、ぽつぽつ雨が降り始めている。だが、ものの数秒でかなりの大雨に変わった。帰ろうとしていた天使は、外を見て眉を顰めている。
やはり、神様は俺の味方のようだ。
俺だって、好きな子にはアタックするタイプではある。だが今までは慎重になりすぎていた。いろいろと、危ないことが多かったから。
でも、もういいよな。
「…なぁ、帰れへんの?」
「えっ」
優しく話しかけたつもりなのに、天使の体は強ばっていた。怖がらせないように、自然な笑みを作る。
「やから、雨で帰れへんのって」
「…はぁ、ま、まあ、」
やっぱり、傘を持っていないのか。
「そうか、なら俺が送ってってやろうか?」
「はぁっっ!?!?!?」
今までの声の倍以上の声量に、思わず笑ってしまう。そんなところも好き。
「もうお客さんおらんし、店閉めるし」
今日はないこも用事で抜けたし、と心の中で付け加える。
「え、ぁ、っ、あの…」
「ん?嫌か」
「いやっ、ではないんですけど…」
もし断られたらどうしようか、何も考えていなかった。どうすれば。どうすればいい?かっこ悪いところは見せたくないのに。すると、少し震えた声で天使が問う。
「客と、店員さん、ですよ…?」
そこか。あっちからしたら、そこが気になるよな。むしろそれがなかったら、送っていくこと自体は気にしないのか。あっちも俺を好いてくれていると分かった途端、俺の心がじんわりと満たされていく。
「…ふ、もう店員やないし、客でもない」
おいで、明日も学校なんやろ。そう言って出口に向かう俺についてくる天使の姿は、愛おしい
以外の言葉が見つからなかった。
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天使を家まで送り、自分の家に帰る。さっきまで車の中にあの子がいたと思うと、信じられない。いふくん、っていうんや。いふ。
「…いふくん、か」
名前を口に出すだけですごく胸が高鳴るのは何故なのだろう。これが世間で言う、恋ってやつなのか。恋は盲目、という言葉の意味が今ではわかる気がする。
いふくんの家は、案外俺の家から離れていないようだった。車で十分ぐらいだ。まあ、それを知ったところで部屋の番号までは分からないし遊びには行けないのだが。 でも、いふくんが俺の家に来てくれるなら、すぐにでも住所を教える。
「……そういえば、カップホルダー見たかな 」
もしも電話がかかってこなかったら、気づかず捨てられたということにしよう。番号には気づいてたけど電話はかけたくない、なんて、そんなこといふくんはしないもんな。きっと。
まあ結果としては、電話がかかってきたのは数日後な訳だが。
風邪をひいたのでベットで寝ていると、急に知らない番号から電話がかかってきたのだ。俺はすぐに気づいた。いふくんだ。
恐らく1コールもしないうちに、俺は緑の通話ボタンを押した。
「、もしもし…ごほっ、」
こんなに情けない一言目が今まであっただろうか。
『えっ、もしもし!すいません急に』
そんなことはどうでもいいくらいに、電話越しでのいふくんの声が新鮮で幸せだった。まるで耳元で喋られてるみたいで、足をジタバタさせる。
その後しばらく話して、冗談交じりでこう言う。
「…なに、看病しにきてくれんの?」
この一言が、まさか俺らを繋げる一言になるなんて、この頃の俺は知る由もなかった。
家に来て、涙を流しながら話すいふくんを、俺はすぐにでも抱きしめて、キスをしたかった。でも、出来なくてよかったかもしれない。多分俺の理性は、遥か彼方へ飛んでいってしまうから。
愛しい愛しい、俺のいふくん。
「…はやく、してくださいね」
早く、君に触れたい。
【乾ないこ】
「今日クリスマスなのに、シフト入れてよかったの?」
「おん、大丈夫」
「ふーん、風邪も治って元気そうだね」
「…元気、物凄く」
意味深ににやけて、俺にそう言うあにき。長いこと一緒にいるから、彼が何を考えているか何となくわかる。多分これは、そういうことだろうな。あにきの背中を叩いてから、二人で仕事に戻る。
しばらく二人で接客していると、あにきの嬉しそうな声が横から聞こえた。何かと思えば、綺麗な青髪と可愛らしい笑顔のお客さんが目に入る。
「いふくん、きてくれたんやぁ」
「獅子尾さんが来てって言ったんやろ」
「ふ、そうやった」
「風邪、治ったんですか?」
「もう元気ハツラツよ」
「よかったです」
傍から見ても、これは恋人同士にしか見えない。二人を見つめていると、あにきが俺の方を向く。その表情で俺は察し、グッドサインを出す。あにきは目を輝かせた後、ちょっとあっちで待っといてな、といふくんに言って裏に入っていった。
「…いふくん、あにきをよろしくね。あいつ、ああ見えて結構重たいから。」
ドタバタなあにきに置いていかれたいふくんに話しかける。と、一度目を見開いたあと、天使のような微笑みでこう言った。
「多分、俺の方がずっと好きです」
あにきが惚れた理由が、前よりもっとわかる気がする。
大好きな二人が結ばれたなら、俺はそれだけで本望だ。
【稲荷ほとけ】
クリスマスの日、僕は彼女とクリスマスマーケットに来ていた。ずっと前から約束していたから、今日を楽しみにしていた。
思ったより人が多くて、食べ物なんて簡単に買えないぐらい屋台に人が並んでいた。
「人多いね」
「うーん、でも食べ物なんか食べたいよね」
「そうだね」
「ここ並ぶ?」
「いいよ」
「私トイレ行ってくるから先並んでて」
「おっけー」
あまり並んでいなそうな屋台に並ぶことにした。寒さで手が悴む。ポケットに手を突っ込むと、その瞬間スマホが震える。スマホを取りだし、電源を付けると、何やら通知が来ていた。
『いふから写真が送信されました。』
「…?」
珍しいなと思い、通知の中身を開く。すると、クリスマスツリーの前で撮ったいふくんの自撮りが送られてきた。そこに写っているのはいふくんだけではなく、後ろで背の高い長髪イケメンがいふくんのほっぺをつついている。何だ、このバカップルのような写真は。そしてこのイケメンは誰だ。その後、メッセージが送られてきた。
『ありがとう』
この五文字に、全てが詰まっているような気がした。
『おめでと』
あんだけ相談乗ったんだから、なんか奢ってくれてもいいんだよ。写真のいふくんの笑顔を見ると、そんな文章冗談でも送れなかった。
イルミネーションで飾られたクリスマスツリーが、街を明るく照らしている。その下では、女神と天使が戯れていた。
「クリスマスツリー見るだけやけど、ごめんな」
「いや、いいんです、俺も今日学校だったし」
「…何でさ、俺のこと好きになったん?」
「…初めて、獅子尾さんを見た時、息が止まったんです。こんなに綺麗な人は見たことがないって思って。あの日から、ずっと俺は獅子尾さんにしか興味がなくて、カフェに行けなかった日もずっと…獅子尾さんのことばっか考えてて。知れば知るほど好きになっていって…」
「…俺もな、一番初めいふくんを見た時、こんな可愛い子見たことないって思った。最初高校生か中学生と思ってたからあんまりグイグイいけんかったけどな。でも大学生やってわかったら、もう手加減せえへんぞって思って。」
「俺そんな子供っぽいんか…」
「童顔って意味」
拗ねた天使の頬を、女神が両手で包み込む。すると天使はくしゃりと笑った。その顔を見て、女神も優しく微笑んだ。
「だいすき」
「ふ、俺もや」
愛してる。
二人は、鼻が触れる位の距離で見つめあって、口付けをした。誰からも見られないように。
二人だけのクリスマス、静かな夜に、二人の思いが溶けていった。
コメント
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ずっと更新を密かに待っていたのですが遂に更新来た!とめちゃ舞い上がってましたwほんっとにお話の書き方がめちゃ上手で、なんかプロの人が書いた一個の短編小説を読んでる気分になりました😇黒ってそういう人にぐいぐいいきそうなイメージが見た目からあるからこそ青が片思い拗らせてーみたいな雰囲気だったのがめちゃ良かったです.....普段黒青そんなにみないんですがこれはもう神です...続きも楽しみにしてます!

いつもこっそり読んでいたのですが大好きな気持ちが止まらないのでコメントさせていただきます…😌💗黒青の作品が少ない中さーもんさんのお話で摂取出来てとても嬉しいです🥲そして青さん視点だけじゃなく、他メンさんの視点もあったことでよりお話を楽しめました。水さん視点のところとか2人の友情が見えてとても良きでした。。😭🤛🏻⬇️
コメント失礼致します🙇🏼 いつも物語を拝見しており、 何度も読み返すほど大好きです! 今回の物語は今までで 一番好きだと思いました🤦🏻 語彙力がすごくて、 とても想像しやすくて、 ずっと続いてほしい物語です߹ ߹ 黒青と甘々の両方を 摂取できて幸せでした😖💙 サムネのイラストも 雰囲気が合っていて大好きです;; 素敵な物語を ありがとうございます😭😭 続きも楽しみにしています◝✩ 長文失礼致しました🙇🏼