テラーノベル
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#独占欲
「……それでは、誓いのキスを」
神父様の穏やかな声が、静まり返ったチャペルに響く。 その瞬間、僕の脳内には『警告:全ゲストによる視覚的監視(モニタリング)が実行中』という特大のアラートが点滅した。
(……まずい。これほど高密度の視線の集中を浴びるのは、人生で初めてだ……)
バージンロードの左右には、ニヤニヤと「失敗しろ」と言わんばかりの佐藤や王子谷。
腕組みをしながら殺気を隠そうともしないお義父さん、そしてなぜかスケッチブックを膝に乗せてペンを走らせる準備万端のお義母さん。妹の美咲がはスマホを横向きに構えていた。
僕の「社会的ファイアウォール」は、すでに炎上し始めていた。
白石さんのベールに指をかける。 ゆっくりとそれを持ち上げると、そこには――4K解像度の女神がいた。
「……っ」
ベールというフィルターが取り払われた彼女は、潤んだ瞳がゆっくりと僕を見上げる。
(……か、解像度が……高すぎて網膜が焼ける……! この至近距離での視覚データは、今の僕の処理能力では保持しきれない。もはや存在そのものがシステムエラーだ……!)
見惚れている場合ではない。キスだ。 今、この場で、全人類(主に会社関係者及び家族)の前で実行しなければいけない「必須コマンド」だ。
(……いや、無理だ。恥ずかしすぎる。明日からどんな顔すればいいんだ? ……よし、妥協案を適用だ。頬。頬なら、なんとか完遂できるはず……!)
僕は覚悟を決め、彼女の唇から数センチ逸れた「頬」へと顔を寄せようとした。 しかし、その瞬間。
白石さんの瞳が、スッと鋭く僕を捉えた。その瞳にあったのは、「妥協など一切認めない」という、冷徹で圧倒的な意志。
覚悟を決め、唇に顔を寄せた、その時だった。
照明が一瞬、瞬いた。次の瞬間、スクリーンが暗転し、感動的なBGMが沈黙する。
「……え?」
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