テラーノベル
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#独占欲
パチッ。
会場のスクリーンが砂嵐に変わった。
ざわめきが波のように広がる。
司会の声が裏返った。
「た、ただいま機材トラブルが……」
(照明は生きてる。――ネットワークが落ちた?)
スタッフが駆け寄る。
「大変申し訳ございません。いったん披露宴会場へご案内いたします」
不安げにこちらを見る白石さんの手を一瞬だけ、強く握った。
目が合い、彼女が小さく頷いた。
スタッフからマイクを受け取る。
「皆様、ご安心ください。隣の披露宴会場にてお待ちいただく間、席次表裏のQRコードを読み込んでいただき、僕たちからのささやかなAR映像をお楽しみください」
(本当は最後のサプライズで流す予定だったけど……)
***
会場のあちこちでスマホが掲げられる。
「お、なんか出てきたぞ……蝶だ……でも動かない?」
佐藤が画面を覗き込む。
氷の上にとまった、透き通るような青い蝶。彼がスマホ越しにテーブルクロスをトントンと指で叩いた。その瞬間――画面内の氷に、細いヒビが走る。
「すげえ……!」
隣で王子谷が歓声を上げる。
だが、エンジニアである佐藤の背中には、じわりと冷たい汗が流れていた。
(……真っ白な布の上で、なんで座標が一ミリもブレないんだ?)
本来、ARは模様を目印にして位置を固定する。
何の模様もない白いテーブルクロスで位置を固定させるなんて、ほぼ不可能だ。濃霧の中を、センサーなしのドローンを爆走させるようなもの。
佐藤はもう一度、布に指を落とした。
触れた、その瞬間。氷が弾け、そこから鮮やかな花々が一気に咲き乱れる。
(反応が速すぎるだろ……?)
指が布に触れた瞬間をカメラで検知し、即座に演出へ反映させる。このズレのなさは、格安の型落ちボロスマホで最新ゲームをラグゼロで動かすような、常軌を逸した最適化だ。
(……春川。お前、いつの間にこんな化け物(天才)になったんだよ……)
画面の中では春が訪れている。
「わー、きれい……!」
他のゲストが見惚れる中、佐藤だけは理解していた。これはただの余興なんかじゃないと。この裏にある、気の遠くなるような膨大なコードを組み上げた時間と、そして――白石さんへの想いを。
やがて、映像はクライマックスへ。
テーブルに映る花をタップすると、光の粒子が舞い上がり、ゲストそれぞれに一行のメッセージが浮かび上がる。
【佐藤へ:食べすぎ注意!まあ今日はお祝い仕様で】
「……お前、この状況で俺の腹の心配かよ!」
【王子谷へ:頑張りを見てくれてる人はきっといる。いつも頼りにしてる】
「先輩……俺、一生先輩についていくっす!」
【大地さんへ:ひよりさんは僕が一生をかけて守ります】
「う……うおぉぉぉん! ゴボウ野郎のくせに!!」
***
その間、僕はバックヤードにいた。
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