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グリルタ
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4年生のクラス替えで晶子とカンナはまた同じクラスになった。5月に遠足があり、東京都の西の端の山へ学年全員で行くという行事があった。
その日の授業が終わり、クラスの皆が教室を出て行こうとする時、担任の女教師がカンナを呼び止めた。教室のドアを出かかっていた晶子は気になって二人のやり取りに聞き耳を立てた。
担任の教師は特に誰かに聞かれる事を気にも留めていないようで、普段通りの声でカンナに言った。
「山室さん、どうしても遠足行かないの?」
カンナは両腕を頭の後ろで組んで面倒くさそうに応える。
「だから金がないんだってば。参加費」
「たった3千円が出せないという事はないと思うけど。申し込みは明日までだから、もう一回ご両親とちゃんと相談なさい」
「はあい、分かったよ」
担任教師が出て行ったのを見計らって、晶子はカンナの横に駆け寄った。
「山室さん、遠足行かないの?」
カンナはランドセルに机の上の文房具を入れながら言う。
「ああ、母ちゃんに迷惑かけるからな」
「参加費出してもらえないの?」
「いや、ほんとは参加費はあんだよ。問題は弁当でさ」
「お弁当?」
「3年の時も遠足あっただろ? コンビニで買ったおにぎりと唐揚げセットを弁当に持って行ったんだよ。そしたら先生たちが騒いでさ」
「お弁当をお家で作ってもらえなかったの?」
「うちの母ちゃん、昼夜スーパーのレジとかパート掛け持ちしてっから、朝早く起きて弁当作るなんて無理なんだよ。別にコンビニの弁当持って行ったっていいじゃねえか。それなのに、3年の時の担任の先生が家庭訪問までして母ちゃんに文句言いやがってさ」
「ああ、そうだったよね。お母さんの手作りのお弁当持たせて下さいってプリント、家に持って帰らされたよね」
「世の中、そんな余裕のある親ばかりじゃねえんだよ。貧乏人の家の事にももっと気をつかえよな。学校の先生たちって、そういうとこ全然分かってねえんだよな」
晶子の母親も共働きの会社員だが、そういう時は有給休暇を取って会社を休んで、朝早くからいろいろと面倒を見てくれていた。晶子は少し考えて、カンナに提案した。
「ねえ、お弁当だけが問題なら、あたしのお母さんに二人分作ってもらうのはどう? 出発の集合場所で渡すから」
「ええ? いや、そんな悪いよ」
「大丈夫だよ。多分うちのお母さん、一人分作るのも二人分作るのも一緒だよって言うと思う」
「ううん、でもうちの母ちゃんがなんて言うかな?」
「じゃあ、これから山室さんのお家へ行こうよ。あたしも話してあげる」
「ほんとにいいのか?」
晶子は本心から微笑んでうなずいた。生まれて初めて他人の役に立てているような気がして、本当にうれしかったのだ。
「うん、あたしは全然平気だよ。今日は塾に行く日じゃないから時間あるし」
「篠崎がそう言うんなら、頼んでみるか。じゃあ、オレんちへ行こうぜ」
ランドセルを背負ったカンナが椅子から飛び上がる。晶子はカンナと肩を並べて、少しうきうきした気分で教室を出た。
コメント
1件
晶子の「生まれて初めて他人の役に立てている気がして」という一節がとても印象的でした。友達の困りごとに気づいて、思いつきではなく「家に行ってお母さんに話す」まで踏み込むところが、本当の優しさだなと。「母ちゃんに迷惑かけるから」と言うカンナの負い目も丁寧に描かれていて、2人の関係がいいなと思います。続きが楽しみです。