テラーノベル
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──部下数人を連れて、昼食に出た。
「部長の奥さん、めちゃめちゃ綺麗ですね」
奥さん?その言い方……。と思いながら咎めなかった。別に疚しいことをしているわけでもなく。
「それ……ああ、まぁ、いいや。そうだな。っていつ見たんだ? 」
「あのホテルから出てくるの、見ちゃったんですよね~。 その前のカフェに居たんですよ、私」
案外、見られてるもんだな。
「ああ、君このへんだっけ? 家」
「へぇ、そんな美人なんだ」
一人が食いついた。
「あ、前に口説いてた人ですよね。めっちゃくちゃ綺麗な人で……」
「いや、それ違うわ」
……口説いていたといえば、牽制で言っただけの麗佳の方だ。
そうだと、言っても良かったが、後々面倒になってもと否定した。
「うわ、見てはいけない方でした? 」
「馬鹿、ただの接待だよ」
麗佳と食事に行ったのは、ある意味接待みたいなもんだ。けしかけるために行っただけで。まぁ、気持ちが無かったわけではない。
「そんな風には見えなかった~」
「はいはい、なんとでも」
「悪いな~、結婚前に遊んだんだー」
「なんとでも言え」
不毛なやりとりで、こいつらも冗談で言ってるだけだ。それからすぐに、会話が逸れたのでそのままに、ただ食事をして、支払いを済まして、先に店を出た。これ以上、喋ってるのが面倒くさい。俺がいたらみんな気も遣うだろうしな。
「やっ!」
店を出たそこに湊がいた。ふざけて、俺に手を上げる。
「ああ、どうした? 」
「私も、ここで食べてたの」
「おお、そうか」
時計を確認する。まだ大丈夫か。
「コーヒーでも行くか? 」
「うん! 」
湊はにっこり笑った。
「見られたら、困るね」
ボソッと言う彼女に……悟る。
「さっきの、聞こえた? 」
「……うん」
「参ったな、声デカイんだよ。全く」
「……だね」
「……接待、だけど。あと半分以上あいつらのおふざけ」
「うん」
湊はまた、にっこり笑った。
……あれ。
「どうしたんだ? それ」
湊の膝に大きな絆創膏がある。それに少し足を庇っている。
「転けた」
「え……大丈夫なのか? 」
#うりさん
ろのみ🩵🫧
43
19
#年上彼氏
おうか

252
「もー、オフィス街で派手に転けたの。そっとしといて」
恥ずかしいのか、拗ねるようにそう言った。
「なんだよ、綺麗な足なのに」
「はは、セクハラです、部長! 」
「……お前ねー。……心配、してる」
「はい。うん、ありがとう」
「嫁入り前ですからね」
そう言った俺に
「キズモノです」
珍しく、トゲのある声が返って来る。
「……湊? 」
「生クリーム乗ったやつ! センスでお願い致します!」
言われるまま、レジに向かった。部長とか言いながら、顎で使う。
ふっ、何だよ。
……さっきの話……気にしてるのか。
それもまた、可愛いな。呑気にそう思っていた。彼女の気も知らないで。
まぁ、いい気はしないか。
俺も、あの眼鏡イケメンといるのを見て、いい気はしなかった。
「土曜日……どこか行きたいとこ、決まったか? 」
「んー……日向」
「なんだ、それ。山とか? 」
「アウトドア、似合わないねー」
「悪かったな。行きたいなら、そうしようか? 」
「……はぁ、おいし」
俺の問いに答えずに、ドリンクに口をつけてそう言った。
いつも、そうだ。
YESともNOとも……言わない。
俺の選んだドリンクは気に入ったみたいだが。
分からない。何時からだろう。湊が……分からなくなってきた。何を思い、何を考えているのか。
一向に近づかせようとしない、そんな横顔。
本音が見えない……そんな、会話。
「湊……? 」
「何? 」
少し、責めるような、悲しい目が、何を思っているのか。
再びにっこり笑う彼女に何を言えばいいのかも、分からなかった。代わりに、そっと手に触れる。
俺よりも体温の低い、細く頼りげのない彼女の手を……そっと掴む。
そして、その手を彼女が握り返してくることは、なかった。
確かに、十分に時間を取れていなかった。
向き合って、話す時間が。ようやく、週末その時間を確保した。
話そう。それに、出掛けよう。夜しか会った事がなかった。
大丈夫だろう。これから、いくらでも。そう思ったのか、そう思いたかったのか
仕事と同じ様に考えてはいけなかった。彼女は俺の部下でも、同僚でもない。
恋人だ。
彼女を見て、汲み取れる情報だけでは限界があった。聞くべきだった。もっと。その時、その時に。だけど、信じてた。自信があった。
彼女を見て俺を好きだと。それだけは間違いなかった。それに、甘えていた。そこに気付いた時には、何も残っていなかった。
……何も。
コメント
1件
おお……第6話-2、読んだよ。なんか、湊さんの様子がちょっと変というか、いつもみたいにニコニコしてるけど、心の奥に何か隠してる感じがするな。特に「キズモノです」ってトゲのある返しと、手を握り返さなかったとこ、すごく気になる。社内での噂話やイケメン相手の話が、知らぬ間に彼女を傷つけてるのかな……この二人、ちゃんと向き合う時間、必要なのに!