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「うぅーん……。エスコート相手って、どうしたらいいのかしら?」
ずっと悩んでいるが、妙案が浮かばない。
カリーヌのエスコート相手は、当然ながら婚約者のステファンだ。最近……更に仲睦まじく、見ていてニヤニヤとしてしまう。幸せそうな二人を見ると、嬉しくてしょうがない。
イネスのエスコート相手は、まさかのセオドアだった。
どうやら、沙織が元の世界に帰宅していた一か月の間に……意気投合した二人は、急接近したらしい。
沙織がいかに女騎士に向いているかを、セオドアが話し出して、イネスも激しく同意して盛り上がったのだ、と。
騎士志望ではない事実を知っているカリーヌが、困り顔で教えてくれた。
(確か……)
イネスには、好きな人がいるような雰囲気だった。多分、それが……セオドアだったのだろう。
「………。サオリ様は、それをご相談にいらしたのですか?」
「あっ! 違うのよ、お義父様に呼ばれたの。それと、いつものお仕事よっ」
奥の魔道具を指差して、ニッコリ笑って誤魔化す。
この研究室の主であるシュヴァリエに、すっかり用件を伝えるのを忘れていた。
元々はステファンの部屋だったが、今は引き継いだシュヴァリエが使っている。向こうの世界へ帰る魔法陣も、そのままの状態にしてくれてあり、シュヴァリエもステファンも沙織が好きな時に来ても良いと言ってくれた。
そして、最近している沙織の仕事――ステファンが作った魔道具に、光の魔力を溜めるのだ。
なんでも、南西にある帝国の動きに不自然さを感じたらしく、ステファンとシュヴァリエで、広範囲結界を共同開発している最中だ。
少ない魔力で出来れば良いのだが、中々難しいらしい。
取り敢えず、底無しの魔力があるっぽい……沙織の魔力を魔道具に溜め、それを使って試しているのだ。
「……成る程。アーレンハイム公爵は、とてもお忙しそうですから」
ガブリエルは、宮廷での仕事に追われ公爵邸に帰れない日々が続いている。その為、沙織が研究室に呼ばれたのだ。
「ステラが言うには、何でも急用らしいのよ……」
だから、学園から寮に戻って、制服のまま急いでやって来た。
それに、ガブリエルからの急用となれば、その類いの話は国に関わる重要な事が多い。
――トントンッ。
ガブリエルがやって来た。
「サオリ、急に呼び出してすまないね。シュヴァリエにも聞いてほしい」
「いえ、大丈夫です。何か……あったのですか?」
暫くぶりに会ったガブリエルは、かなり疲れた顔をしていた。早速、癒しをかけて回復してもらう。
「あぁ、助かったよ。此処の所、ろくに休む時間が無いのだよ」
ふぅ……と溜息を吐くと、ガブリエルは話し出す。
「では、本題に入ろう。サオリ達が開発中の結界を……この宮廷全体に、ステファン殿下が張ったのは知っているね?」
「はい、知っています」
今回、沙織が考え出したのは、防犯機能付き結界。
正しくは、この国のプレート登録がされていない侵入者を感知し、連携させている魔石が光る仕様にしてみた。
ただ、敵の侵入を防ぐのとは用途が違うのだ。
宮殿には、プレートを持たない平民は勝手にやって来る事はできない。先ず、門で止められる。
国外の者であれば、中に入るには必ず手続きが必要で、その情報は登録されるのだ。
「それに、引っ掛かった者がいる」
「え、それはっ! つまり……」
「そうだ、不法入国者だ」
固唾を呑み、ガブリエルの次の言葉を待つ。
「ただの、不法入国者とは思えないのだよ。この結界が無ければ、誰も気付けなかった。多分だが、サオリにしか見つけられないだろう。すまない……シュヴァリエ、サオリ、その者を捕らえてほしい」
(きっと、お義父様は……)
本当なら、娘の沙織に危ない事を頼みたくないのだ。
けれど、もしも帝国の者だとしたら――逃す訳にはいかない。背に腹は変えられないのだろう。
(べつに、私は大丈夫なのに)
「承知しました」
「はい、絶対に捕まえます!」
ふんすっ!と鼻息を荒くして、やる気を見せる。
(ちょっとだけでも……)
毎日大変な、ガブリエルの手伝いが出来るなら嬉しいのだ。
「取り敢えず、ステファン殿下の所へ行ってくれ。そこで、魔道具の変化を殿下が見ている」
すぐに二人でステファンのもとへ向かった。
◇◇◇
「ステファン殿下、失礼いたします」
そう言って、室内へ入って行く。
ステファンは、テーブルの上の……魔石が埋まった、ドーム状の魔道具を凝視していた。
(凄いっ! ステファンは、この結界を模した魔道具を作ったのね)
ステファンは、顔を上げて沙織とシュヴァリエを見た。
「サオリ様、シュヴァリエ、申し訳ない。また力を貸してください」
「「もちろんです」」
「ステファン殿下、そちらに侵入者が?」とシュヴァリエが魔道具を覗き込む。
「ああ、そのようだ」
ドーム状の魔道具の中に、赤く光っている場所があった。
その赤い部分を指差したステファンは――「これを捕らえたい」と言った。
「うーん……捕らえるのなら、結界から弾き出しては駄目ですよね? その赤い者だけに、重力をかけるとか?」
「「可能なのですか!?」」
とステファンとシュヴァリエが、目を見開き同時に言った。
「たぶん出来ると思います」
ドームに埋め込まれた魔石に触れて、瞑想するように意識を結界そのものに繋げる。瞼がピクっと動く。
(……居た!)
「見つけました! 謁見の間の、すぐ近くです!」
沙織の一言で、シュヴァリエは部屋から消える。
「重力……行きますっ!」
その人物に向かって、重力魔法をかけた。