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多分この人二メートルあるよ、いるんだねーこんな人本当に。そりゃ角付きコスプレも似合う訳ですよ。—— なんて一人でうんうんと納得していると、上からクスッと笑う音が聞こえた。
「どう見たって現実逃避した事考えてる顔してる子を放して、逃す程バカじゃないからね。諦めて?」
現実逃避って、当然だろう。夢の延長かドッキリか。もう二択でしょと、息を吐く。
「懐かしいなぁ、前もそんな顔してたもん」
「…… 前?」
(何の事だろう?)
不思議に思い、カイルの方へ顔を向け、下から彼を覗き見る。目が合った瞬間、カイルは嬉しそうに笑って「可愛い!」を連呼し始めた。髪に頬擦りし、温かな掌が私の頰を撫でる。
「あぁ!ずっと夢見てた姿が見られて本当に嬉しいよ!何度頼んでも拒否されたからね、結局見られなかったからね。——あ、もしかしてこうなるってわかっていてあの時は焦らしてた?うわぁ、だとしたら焦らし上手だな、ホント。そんな事しなくても、僕には君だけなのに!」
早口で捲し立て、彼は頬まで染めている。
(だから、何の事だ一体!)
本当に全然訳がわからない。碌な説明もしてくれないし、埒のあかないカイルの発言に段々疲れてきた。
甘い声をあげて喜ばれても少ししか嬉しくない。意味がわかるならきっと嬉しいであろう『可愛い』の言葉も、価値が薄れる。
ひたすらに、ただひたすらにあちこちを温かい手で撫でられる。腕、肩、背中と撫でる手が正直心地いいのはきっと、いやらしさが微塵の混じっていないからだ。プロの方にマッサージされている感じに近い。
これはきっと抵抗しても無駄だと思い、黙って身を任せる事にする。
きっといつか飽きるだろう。
でもこれ…… いったい、いつまで続くんだろう?
「…… どこから話そうかなぁ」
散々長時間私を撫でて満足したのか、カイルは少し遠くに視線を向け、私の身体をあやすようにゆっくりと揺らし始めた。子供を宥める時の様な動きが不思議と心地いい。『もしかすると、こうやって彼の腕の中に居るのは当たり前の事なのかも』と勘違いしかねない程、しっくりくる。
「“イレイラ”。君の名前は僕がつけたんだ。ここに始めて来た時にね」
(名付けた?何を言う、私の名付けは両親だ。始めて来たって、今がそうだ。ホント意味がわからない)
そう突っ込もうとして止めた。やっと状況を説明してくれ始めたっぽいのに、話が逸れてはたまったもんじゃない。私にとって現状を理解する方が先決なのだから。
「その時の君はまだ小さな子猫でね、捨てられていたのか酷く痩せていて、今にも死にそうだった」
(『子猫』?…… 比喩表現、だろうか?)
それにしたって、そもそも私は捨て子では無いので、まず前提からオカシイのだが。
「僕は僕で、長生きする事に飽きてきていた。色々やりたい事はあったはずなのにやり尽くした感があって、毎日が退屈だったんだ。母は普通の人間だったから早々に他界して『輪廻の輪』のせいで次の人生を歩き出してしまったし、父はそもそも僕達『神子』とすら時間の概念が違うから、子供の事もたまにしか構ってくれないしね」
初期設定などといった色々な説明をすっ飛ばして話す内容にツッコミを入れたいのを何度も我慢して、話をきちんと聞いている事を伝える為に無言で頷く。
「…… 『癒し』が、欲しかった。いつでも僕の側に居て、触れられる相手が」
そう言って私の頭を撫でる手が、慈しみに溢れているのがわかる。
「この世界でその相手を探しても良かったんだけど、『それじゃつまらないな』って思ってね。書庫に眠る古代魔法の本に、『異世界からの召喚魔法』が載っていたのを思い出して試してみる事にしたんだ。面白いかどうかでそんな魔法を試す辺り、『あぁ、僕は父の子なんだな』って改めて思ったよ」
そう言って語り出す言葉は、どれも意味が分からず、私にはどうしたって受け入れ難いものばかりだった。