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第二章 向こう側

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2024年03月14日

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雨が降っていた。私は今日も昔のことを思い出し、不思議な気持ちになる。

懐かしく、楽しく、悲しい。

そして今日はあの子の誕生日だ。私は手作りのケーキを一切れ持って、病院へ向かった。

私達はもとは3人家族だった。夫、ハヤテ、そして私。私は夫と二人で、ハヤテを育ていた。

私達夫婦は共働きで、ほとんど毎日仕事があり、忙しい日も多かった。しかしそれも、ハヤテの話や幼稚園での出来事、その笑顔を見るだけで疲れは吹っ飛んだ。

そんなある日、ハヤテの4歳の誕生日が明日に迫っていて、「ちょっと今年は忙しくて手作りできないかも」と私が言ったら、夫が誕生日ケーキを買ってくると言ってくれた。そうしたらハヤテが「僕がケーキ選ぶ!」と夫へついて行った。

それから数時間後、テレビニュースの速報で私達の住んでいる近くで車数台が巻き込まれる事故があったと報じられた。

―嫌な予感がした。

そしてその予感は的中し、私はその日に全てを失った。夫は死に、息子はもう一年間昏睡状態だ。

今日も息子に会いに行く。いつか息子が起きると信じて。夫の分まで私はハヤテを守るんだ。





「自分は……死んでいる…?」

私は混乱していた。

「何を言っているんだ?お前?」

そう聞くと、女は悟っているように答えた。

「お前は現実世界で死んでいる。ここには壁が二つあってな、一つの向こう側は黄泉、つまり天国だ。もう一つは現世。つまり生の世界だ。」

理解が追いつかない私をよそに、女は続けた。

「その二つの間にあるここは、現世に未練がある『残留人』が留まる場所。つまりアンタには、成仏できない理由があるんだろうな。」

「ちょっと確認させてくれ。俺は死んでいて、生前の世界に未練があるから、成仏できない幽霊ってことか?」

「まあ…簡単に言えばそう。」

確認しても意味が分からない。じゃあ私は何か思い残しがあるまま死んだのか。いやいやいや現実的にないだろ、そんな事。

「……じゃあハヤテは?」

「あの子かい? あの子は…多分生きてるね。死の気配がしなかった。」

「本当か?」

「ああ、そうだと思うよ。」

よかった。息子は生きている。少し安心した。

「でもアンタは完全に死んでるね。間違いない! もう死の気配がプンプン! もしかして、1年以上前だね?」

「なぜそれが分かる? お前は誰だ?」

私は女にたずねた。

「うーん…詳しくは言えないけど、『案内人』って感じ? ここで川の向こうにある黄泉に行く人を見てるんだよ。」

「じゃあ俺がなんでここに留まっているのか分かるか?」

「は!? なんでも知ってると思うなよ? そんなん自分で見つけろよ!」

「えーーーーー?……知らないのかよ!」と言いそうになった。

「でも、ここはそいつの生前の記憶が本人に反映されるから、何かヒントはあると思うよ。 頑張りな!」

『反映』…か…………いや待てハヤテだよ!考える前に動け!

「分かった。ありがとう。じゃあな!」

「じゃあなー 頑張れよパパー」

私は川岸に沿って走った。



ここはどこ?僕、なんでここにいるんだろう。お父さんは?

「お父さーーーーーん!!!!!!!」

力いっぱい叫んだ。近くで鳥が飛んだ。川がさらさらと流れていた。

……この感じ、なんか覚えがある。たしかどこかであった。

「……っ!……」  頭痛がした。痛い。何かが思い出せそうな気がした。何か。僕の記憶の片隅にある物。

…思い出した。

大きな音を立て、僕が乗っていた車が転がり、川辺に落ちた。その時、川が美しく流れていた。

鳥がはたはたと音を立て、逃げるように飛んでいく。

僕は眩暈がして、そのまま気を失い、気づいたら草原の山小屋で暮らしていた。

思い出した。僕はここから出なきゃいけない。そう気づいた。

この壁…いや、この世界の向こう側へ…

OVER 第二章 『向こう側』 完

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