side wki
車に乗り込むと、俺と元貴はどちらも後部座席に座った。
マネージャーが
「まずは大森さん宅へ向けて出発しますね」
と控えめに声をかける。
エンジンがかかり、車内に低い振動が伝わってきた。
元貴は窓の外を見つめたまま何も言わない。
さっきの涼ちゃんの言葉を考えているのかもしれない。
俺も何も言わず、窓の外を見た。
涼ちゃんと元貴の、あの場面が頭をよぎる。
(若井には元貴が必要だから。)
涼ちゃんは少し笑ってたけど、
その目は真剣だった。
(今はね。でも、それがずっと続くとは限らない)
その場の空気が一瞬で張り詰めたのを思い出す。
涼ちゃんは、きっと、俺のことを想って言ってくれたんだろう。
もしかしたら、元貴と険悪になるかもしれないのに。
ほんとに優しいな。涼ちゃん。
核心を聞けない俺のために、嫌な役をかって出てくれたんだ。
あの時、元貴は何も言わず、ただ涼ちゃんを静かに見つめていた。
俺はその間に挟まれて、息が詰まりそうだった。
(元貴がそう言うなら、今日は任せるよ。)
あの時の顔を覗き込まれた時の優しい目を思い出す。
涼ちゃん。最終的には、優しい声で、
(…若井を大切にしてねって事だよ。元貴。)
と、言ってくれた。
「涼ちゃん・・・・・。」
無意識に名前を呟いてしまう。
はっ。今、俺、自分の心の中だった?
声に出てた??
自分の声が聞こえたようでハッとし、我に返る。
やばい・・・。だとしたら・・・。
俺は、恐る恐る元貴を見た。
元貴は何も言わず、窓の外を見たままだ。
その沈黙にほっとする。
きっと、声には出てなかったんだな・・。
車内はいまだに静かだ。
エンジンの音とタイヤが道路を擦る音だけが響く。
その静けさを破るように、元貴が運転席を見ながら静かな声で、声を掛けた。
「マネージャーごめん。ちょっとコンビニ寄ってくれる?」
マネージャーは「わかりました」と応え、
車は静かに車線を変え、コンビニへ向かって走り出した。
元貴は窓の外へ視線を向けたまま。
、
暫くして、
コンビニに着くと、車が静かに停まり、
マネージャーが振り返って
「何か買ってきましょうか?」と声をかけた。
「あー。うん。僕、飲み物と、明日の朝ごはん、いつものテキトーにお願い。若井は?」
そう言いながら、元貴が俺の方をちらりと見る。
「僕んち、今飲み物とかお酒切れてるから、飲み物は買ってね。」
その言葉に俺は驚いた。
「えっ、元貴の家行ってもいいの?送っていくって…」
無意識にそう口走った俺に、元貴は少し目を細める。
「えっ、あの流れそうじゃなかった? 」
「若井、お酒とか飲むなら買わないと、うちにはないよ。
いつも家だと、少し飲んでるじゃん。」
有無を言わさず、元貴の家に一緒に帰る前提の会話。
俺は少し戸惑いながらも頷く。
「あ、うん、じゃあ。少しだけ。」
元貴は軽く微笑みながらマネージャーに向かって言った。
「あ、じゃあ、若井に缶のお酒のやつと、
軽食をお願い。
あと……お水も買ってきてもらえる?
ごめんね。寒いのに。よろしく。」
マネージャーは「了解です」と答えて車を降り、コンビニの中へと入っていく。
車内は再び静寂に包まれる。俺は軽く息を吐き、窓の外に視線を戻した。
…10秒ほどの沈黙。
けれど、次の瞬間、元貴がこちらに向き直った気配を感じた。
「若井さ。」
俺は、不意に名前を呼ばれて、驚いて元貴の方をみる。
元貴の瞳が真っ直ぐに俺を捉えた。
軽く髪はセットがしてあり、
レコーディングの日なのに
珍しくメガネをしていない元貴の
綺麗な瞳に射抜かれる。
「なに、涼ちゃんと、どういう関係……?」
その言葉が放たれた瞬間、車内の空気が凍りついた気がした。
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コメント
36件
続き楽しみすぎてやばい
車内の緊迫した空気がめちゃめちゃ伝わってきてこっちも心臓バクバクでした……。 涼ちゃんに頼る若井さんに嫉妬している大森さん……二人がこれから良い方向に向かえるよう願うしかないです……!
続きが気になりすぎて1時間で一気読みしてきました!いやー、嫉妬してるのかな??良すぎる話、、続き待ってます(*^^*)