「ねぇ……もっと力抜いて。僕に、全部任せて」
耳元に落ちる低い声が、熱を帯びた空気を震わせる。
触れられた場所からじわじわと痺れが広がって、呼吸がうまくできない。
ショルダーバッグが肩から滑り落ち、彼の指先に拾われてベッドの下へ押しやられる。
その仕草の自然さが、どこか恐ろしくて――それでも、逃げるという選択肢はもう浮かばなかった。
「かわいい……お姉さん」
顎を掬い上げられ、唇が触れた瞬間、世界がひっくり返る。
浅く吸い込んだ息がそのまま奪われ、思考がとろけていく。
ブラウスのボタンが一つ、また一つと外されていく音が、やけに大きく響いた。
布が離れた肌に冷たい空気が触れ、震えが走る。
それなのに、内側はひどく熱くて――知らない自分の体が、勝手に反応していく。
「大丈夫だから」
囁きとともにキャミソール越しの指先が輪郭をなぞる。
たったそれだけで、喉の奥が勝手に鳴った。
「……あ、っ……」
小さな声が零れるたび、彼の目が深くなる。
耳たぶを甘く噛まれて、力が抜ける。
こめかみに触れる吐息が熱くて、思考が薄れていく。
「その声、もっと聞かせて?」
耳のふちを舌先でなぞられ、体が小さく跳ねる。
指先は迷いなく背中をたどり、境界線の向こうへと導こうとしていた。
「……や、だ……」
口からこぼれたのは拒絶でも、止める意志ではなかった。
首を振れない。逃げられない。
心も体も、彼の言葉と体温に縫い止められていく。
「やだって……僕のこと、好きでしょ?」
耳元で落とされた囁きが、最後の理性をゆっくりと溶かしていく。
腰へと指が滑っていくたび、背筋がびくんと跳ねる。
生地の上から、熱を帯びた指先がゆっくりと触れた。
「……やだって言って、もうこんなに濡れてるじゃん。かわいい」
耳元で笑われて、顔が熱くなる。
触れられた場所から、知らない熱が奥へ奥へと広がっていく。
抗いたいのに、体は正直で――彼の指の動きひとつで呼吸が浅くなる。
「ふふ……お姉さん、顔真っ赤だよ?」
重たい前髪の隙間から覗く瞳は、優しげな声音とは裏腹に、まるで獲物を見据えるような鋭さを帯びていた。
その目が、ひとたびこちらを捕らえると離さない。逃げ道なんて、もうどこにもない。
「……脱いじゃおっか」
囁きと同時に、彼の指先がゆっくりと襟元へ滑り込む。
すでにボタンは外されているのに、まだ肩にかかっていたブラウスが、なぞられる指の動き一つでずるりと滑り落ちていく。
腕が布を抜けるたび、空気が肌に触れ、ぞくりと背筋が震えた。
続けてキャミソールの裾がつままれ、ためらいのない手つきで頭の上へと引き抜かれる。
薄い布が肌から離れていく感触が、ひどく生々しくて――そのたび、胸の奥がじんじんと熱を持っていく。
次はスカート。
腰骨に沿って指先が滑り、するりと裾が膝を通り抜けて床へと落ちた。
視線が脚を這うたび、血が熱くなっていくのがわかる。
「……っ」
小さな声が漏れた時には、もう遅かった。
――気づけば、下着だけ。
肌のほとんどが空気にさらされて、触れられてもいないのに体がじんじんと火照っている。
彼の視線が肌の上をゆっくりと這い、心臓がひときわ大きく跳ねた。
「かわいい……お姉さん」
囁きとともに、背中へ回された指が器用に留め具を外す。
ほんのわずかな“解放”の音が、やけに大きく響いて、胸の奥がざわめいた。
薄布がふわりとずれて、ひやりとした空気が肌に触れる。
そこへ重なるように落ちてきたのは、熱を帯びた吐息と、じっとりと吸いつく柔らかな感触。
「……っ、あ、……んっ……」
唇が触れるたび、意識が一点に吸い寄せられていく。
触れられた場所から、じんわりと熱が滲み出して、内側の奥深くにまで広がっていく。
息が浅く乱れ、体温が勝手に上がっていくのを止められなかった。
腰を這う指が、下着の上からやわく触れる。
「ん……っ!」
堪えきれず洩れた声を塞ぐように、深いキスが重ねられる。
そのまま布を摘まれると、抵抗する暇もなくショーツは脚を伝って落ちていった。
「ふふっ……ぐちゃぐちゃだね?」
低く甘い声。からかうようでいて、確信に満ちている。
背筋がぞくりと震え、指先がシーツを探す。
自分の意思ではないのに、腰が小さく浮いてしまう。
その一つひとつの反応さえも、まるで彼の掌の上で転がされているようで――
「……っ、あ、んっ……」
囁きとともに、彼の指先がゆっくりと奥へと侵入していく。
痛いのか、気持ちいいのか、境界が曖昧で、どこまでが自分の感覚なのかさえわからない。
けれど、もう後戻りはできないと、体の奥が静かに告げていた。
――これは、彼にとってただのひとときなのかもしれない。
“好き”なんて一言も聞いていない。
“ファンだから、僕のこと好きでしょ?”と、都合よく言葉を重ねられただけ。
それなのに、初めてを奪われていくこの状況が、甘くて、少しだけ苦しい。
「大丈夫、力抜いて」
耳元に落ちる声が、体の芯を縫い止めていく。
怖いはずなのに――指が奥へと進むたび、腰が勝手に揺れてしまう。
拒む理由を思い出そうとしても、熱がそれを溶かしてしまって、もう掴めない。
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