テラーノベル
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電話が鳴った。無視した。
間髪入れずまた電話。 ――無視。
再び沈黙の後、すぐさま電話。
烏丸さかえはうんざりと息をつき、何度目かの着信にデスクをたたいて立ち上がった。ベッドに放り出してあったスマホがクッションの上で震えている。うざ、と唇だけでうめいてスマホをとり上げ、そのうえで再びベッドに放り出し、クッションをその上にたたきつけようとした――が、着信元が珍しい名前だったために、手が止まった。
着信が止まり、再び電話が鳴り始める。それがこれまでの着信履歴の主であることを確認して、さかえは静かに通話ボタンをタップした。
「はいはー……」
「このクソバカさかえ返事しなさいよ――ッ!」
男の絶叫に思わず耳を覆いたくなるのを必死でこらえ、それからうんざりした顔でため息をつく。
「うざー、よっこさん最近カルシウム足りてないんじゃねー?」
「やっかましいわこのアホンダラ、あんたねえ、なんてもん預けてくんのよ、うちの巫湖ちゃんが泣いちゃったじゃないのさ!」
「いや、事情話してたっしょ」
「そうだけど! 文句ぐらい言わせなさいよね!」
絶叫する遠縁の神職に、思わず耳からスピーカーを離して会話を続ける。鷹山も巫湖も、さかえとは異なりそれなりの対応ができる人間だ。
――「見えるだけ」のさかえでは義弟を守り切るに限界があったが、鷹山であれば巫湖を守るに十分だったはず。それでもこうして電話をかけてきたのだから、よほどの何かがあったのだろう。
「で、何の用?」
「……ったく。まあいいわ、本題に移る」
いらいらとした声色で、鷹山は続ける。
「あのジオラマ、うちの封印倉庫――こういう呪具っていうのかしら、そういうものを封印保管するための倉庫に収めて、おかえりいただくのを待ってたんだけどね。それより先に、消えたわ」
「……消えた?」
そう、忽然と。そう鷹山はうめいて、深々とため息をついた。
「巫湖ちゃんが、はるちゃんと同じ夢を見た日の翌朝だったのよ。たぶん次の標的をあの子に定めたんだと思ったんだけど」
「行先は? わかってんの?」
「わかってないわ。だからはるちゃんに伝えて頂戴。海の臭いがしたら、必ずあたしか巫湖ちゃんに連絡を入れてって。すぐ駆けつけるからって」
「――わかった。伝えとくよ。で?」
で、というさかえの言葉に、沈黙が落ちる。ややあって、居心地悪そうに鷹山が口を開いた。
「なによ、あたしの要件はそれだけだけど」
「……ほんとーに、それだけ?」
問いかけるさかえの声は、いつもより低い。再びの沈黙ののち、鷹山が開き直ったかのように返した。
「……わかったわよ、言えばいいんでしょ。巫湖ちゃんを夢でおびえさせたから、ちょっと脅かしてやったのよ」
「何を」
「ジオラマの中に招かれた奴を」
「それって神様だって言ってたよね? まあいいや、なんて?」
「――って」
「聞こえないんですけどー」
イラついた声のさかえに言われ、さらに開き直った声の鷹山の、どすの利いた声がスピーカーから漏れ出した。
「『てめぇ、うちの神さんに溺愛されてる巫女に手ぇだして、ただで済むと思ってねぇだろうな、アァ?』――って脅かしたのよ!」
しばしの沈黙ののち、額を抑えたさかえは絞り出すように言った。
「……それ、100パーよっこさんの恫喝のせいじゃん、ジオラマごと神様が逃げちゃったの……!」
コメント
1件
あーこれめっちゃ好きなやつだわ(笑)よっこさんの「てめぇうちの神さんに~」からの流れで全部持ってかれた。さかえの冷静なツッコミが光るし、「100パーよっこさんの恫喝のせいじゃん」の落とし方、最高でした。ジオラマの中の神様が逃げちゃったって……この作品の“見える人”たちの温度差と距離感が絶妙すぎる。続きが気になる!