テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
『忘れた記憶、隠した涙』
tg視点
チャイムが鳴ったあとの階段を、
俺はまっすぐに教室じゃなく、屋上へと戻っていた。
誰もいないその場所には、まだ少しだけ、
先輩のぬくもりが残ってる気がした。
tg 好き、って……
目を閉じたら、さっきの声が何度も胸に響いてくる。
『なぁ、これって──好きなんかな、俺』
ずるい。
そんなの、ずるいよ。
もっと早く言ってくれたらよかったのに。
もっと前にその気持ちに気づいてくれたら、
俺は──全部、抱きしめたのに。
今さら言われたって、
俺の中の“あなた”は、ずっと前からそこにいたのに。
tg …でも、今の先輩は……
記憶をなくした、今のあなたは、
俺のことを“知らない”。
どれだけ一緒に笑ったか
どれだけ一緒に泣いたか
どれだけ一緒に、キスをしたか。
全部、忘れてしまってる。
だから俺は、今日もまた、
あの言葉に「嬉しい」と返せなかった。
──ふと、ポケットの中に手を入れると、
何かが指に触れた。
tg ……ん?
取り出したのは、小さなチェキ。
先輩と撮った、ふたりきりの写真だった。
ここで笑いながら、肩を寄せて、
「これ、俺の宝物やわ」って、先輩が言ってくれた日。
……この屋上で。
写真の裏に、小さく文字が書いてある。
『ちぐとなら、何回でも恋できる気がする。』
──そんなこと、言ったのに。
そんなこと、書いたのに。
今の先輩は、俺に惹かれながら、
その想いの“最初”を、知らないままなんだ。
tg …うそつき。
唇が震えた。
握りしめたチェキに、ポツリと涙が落ちる。
tg なんで、全部忘れたのに…また俺のこと好きになるの…
言わなきゃよかった。
知ってしまった“好き”が、
こんなに痛いなら。
──でも、やっぱり。
また惹かれてくれることが、
嬉しいんだよ、ずっと。
こぼれ落ちる涙を、制服の袖でそっと拭う。
それでも止まらなくて、視界がぼやける。
このまま誰にも見られずに泣いていたかったのに――
pr …ちぐ?
背後から聞こえた声に、心臓が跳ね上がる。
うそ。
なんで。
tg 先輩…っ
慌てて振り向いた俺の手には、まだチェキが握られていた。
裏に、あの言葉が書かれたままのまま。
『ちぐとなら、何回でも恋できる気がする。』
先輩の目が、それを見た。
一瞬、動きを止めたまま、目を細める。
pr それ…
時間が、止まる。
pr ──俺、これ……知ってる気がする
え?
pr なんでか知らんけど……
pr この言葉、俺が書いたような気がして……
pr 胸が、すっごい苦しい
嘘でしょ。
まさか、今――
pr …なぁ、ちぐ。これって……
そのとき、
校内放送のチャイムが鳴った。
『1年D組、帰りのホームルームは教室で行います──』
音にかき消された続きを、俺は聞き逃した。
先輩の唇が動いていたのに。
なにを言ったのか、聞き取れなかった。
でも、ひとつだけ確かだったのは、
──先輩が、俺のことを見ていた。
まるで、“全部思い出しかけてる”ような目で。
♡▷▶︎▷▶︎1500
コメント
6件
これからどうなるんだ…(;゜0゜)
おぉぉ〜!ついに!ついにかな!? 楽しみすぎますっ!
おぉ!?!? 遂に思い出すッ!?!? かちちゃん切るところが上手い‼️ 続き楽しみに待ってるねん!😽︎💞