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篠原愛紀
#独占欲
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雨宮主任の異動に伴う送別会。会場の居酒屋は、彼女を慕う社員たちで溢れかえっていた。
「主任が隣のチームに行っちゃうなんて、私、明日からどうすればいいんですかぁ……」
春川先輩との結婚を控え、幸せの絶頂にいるはずの白石さんだが、酔いが回ったのか、いつになく情緒不安定になって主任に抱きついている。
仕事には厳しいが、誰よりも部下を信じ、育ててくれた主任。彼女は、チームのメンバーにとって文字通り心の支えだったのだ。
「あなたたちは、私が育てたんだから大丈夫。もっと自分に自信を持ちなさい。それに、会社を辞めるわけじゃないんだから」
主任は、泣きじゃくる女子社員たちを、まるでお母さんのように優しく慰めていた。 そんな中、白石さんは案の定すぐに酔いつぶれていた。
俺が春川先輩へ連絡を入れると、わずか10分もしないうちに、彼は息を切らせて現れた。どうやら何かあった時のために、最初から近くで待機していたらしい。
(白石さんの春川先輩への愛もやべえけど……あの人も、相当だな。彼女のために、そこまで尽くせるなんて)
幸せそうに回収されていく白石さんを横目に、俺は、自称「王子ファンクラブ」を名乗る酔っ払い女子社員たちの格好のターゲットとなっていた。
人に囲まれる、華やかな「王子」としての自分。けれど、俺の視線の先にいるのは、いつだってテーブルの端で静かにグラスを傾ける主任だけだった。
主任が店を出る。 俺は二次会の誘いを力ずくで振り切り、駅へ向かう彼女の背中をダッシュで追いかけた。
駅へと続く、薄暗い路地裏。 冬の冷たい夜風が、激しく上下する俺の肩をなでていった。
「雨宮主任……!!」
呼び止められた主任は、足を止め、振り返った。
「王子谷? どうしたの?」
「……主任。どうしても、伝えたいことが……」