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空が気持ちよく晴れ渡る日曜日。家を出ていく日がやってきた。
いらないものと必要な物に分けたら、いらない物の方が多くて、まとまった荷物は小さな段ボール五箱と手さげ袋一つ分にしかならなかった。
こんなもんかと笑ってしまうほど少ない荷物。
今までこの家でずっと暮らしていたし、もっとたくさんあると思ってたけどな。
それにしても、どうやって運ぼう。
本当は荷物が少ないからお父さんが車で運んでくれる約束だったけれど、急な仕事が入ったらしく家を出てしまった。タクシーを呼ぶようにと言われたけれど、段ボール五箱もタクシーにのせてしまっていいのだろうか……。
新しい家はここから歩いて30分くらいだ。
『引越し今日だよな? 順調?』
歩くんからメッセージが届いたので、お父さんが仕事になってしまって夕方まで運べないことなどを返信する。
『引越し業者とか呼ばねーの?』
『家具とかは全部新しく購入して新居に届いてるから、家の荷物は段ボール五箱分くらいしかないんだ』
そんな説明をしていると、新着のメッセージが届く。相手はお父さんだった。
夕方には戻るから、それでよければ運んでくれるらしい。
それなら夕方まで待っていよう。
一息ついて、部屋を見回す。
「もう、ここの部屋には帰らないんだ……」
本当にこの家を出ていくんだな。これからは自分で家事をやっていかなくちゃいけない。ただいまと言う相手もいなくなる。
午前中はそんな干渉に浸って、ぼんやりと過ごしていた。
せめて出ていく時はお母さんに挨拶をしていこう。今までご飯作ってくれて洗濯もしてくれていた。決して仲良くはなくても、感謝するべき存在には変わりない。
リビングのドアを開け、食器を洗っているお母さんに歩み寄る。
「夕方には出てくね」
「そう」
短い返事だった。次の言葉に詰まる。こんな風に話すことはもう当分ないかもしれないのに。
「これで私もようやく解放されるわ」
そう言ったお母さんは清々しい表情をしていた。私が出て行くのが嬉しいんだと見て取れる程。
心にずしりと重たい塊が落ちてきたみたいだった。
少しも寂しがってもらえない。むしろ喜ばれている。私の存在は本当に邪魔だったんだ。
「この家の鍵、置いていってちょうだいね」
「え……」
「当たり前でしょう? だって私がいない時に勝手に入られたら怖いじゃない」
一人暮らしを始めても、ここが実家なのに。私は家族だと思われてない。今更かもしれないけれど、この人と過ごしてきた日々はなんだったんだろう。
「……わかった」
涙を堪えて、殺風景になった自分の部屋に戻った。手さげの中から今まで使ってきたこの家の鍵を取り出し、窓辺に置く。
帰ってくるなと言われたのと同じだった。
「……っ」
ダメ。お願いだから零れ落ちないで。今は泣きたくない。泣き顔は見られたくない。
ぐっと涙を堪えた時のことだった。
チャイムが鳴り響いた。お母さんが慌ただしくパタパタとスリッパを鳴らす足音が聞こえてくる。
何か荷物でも届いたのかもしれない。いなくなったら荷物を下に運んでタクシーを呼ぼう。
「ちょっと、なんなの!」
怒ったような困惑したようなお母さんの声。
……なんだろう。
「ましろん!」
聞こえてきた思わぬ人物の声に驚愕した。
……武蔵先輩? どうしてここにきてるの!?
急いで部屋を飛び出す。階段から顔を覗かせて玄関にいる人物を食い入るように見た。
それは開いた口が塞がらないような光景だった。
「突然すみません。僕たち娘さんの友人です」
潤が丁寧な口調で言った。
その横には和葉と歩くん、実里くん。一番後ろにいる武蔵先輩は家中をきょろきょろと見渡している。
全員大集合している。
どうしてここが……ああ、そうだ。潤とデートをした日に送ってもらったからだ。でも、今日みんながここに来た理由がわからない。
「お、いたぞ。ましろん!」
武蔵先輩に見つかり、急いで階段を下る。お母さんの訝しげな視線が怖い。
そりゃそうだよね。突然訪ねてきたのが全員男の子で、しかも今日は家を出る日。一体どういうことなの?とでも言いたげな顔をしている。
「みんなどうして……」
「迎えにきた」
歩くんが真っすぐに私を見つめて言った。
彼に言われたことによって、その意味をわかってしまった。私の事情を知っている歩くんが心配して、こうしてみんなに声をかけてくれたみたいだ。
海の紅月くらげさん