テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
政治的意図はありません。
欠損・欠如あり
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ハッピーエンドじゃないよ。
私は青色に染まる空をテラスの冷たい椅子に腰掛けながら眺めた。
仕事終わりの疲れた私にとっては至福の時間である。
ペリウス座、こと座、こぐま座、知らない星の名前、そこから繋がる神話の話‥見て,知る、その壮大な全てを知ることが私の生きる意味であり、生きる糧となった。
「ふぅー、ここまでにするか」
肩をゆっくり伸ばしながら白い息を吐く。
冷めた椅子に温度が奪われ体の熱がなくなっていたので、私は足早にテラスから出て、自室へと戻った。
私は静かに音を立てるエアコンの暖房にあたり心地よい睡魔に襲われ、そのまま,私はベットに潜り込んだ。
「また、明日が始まるのか」
そんな短い独白は穏やか静寂を汚さない頼りない温風のさざ波に溶け込んだ。
少しずつ現実がはっきりと戻ってくる感覚がした。
重い眼を擦ると、せわしなく鳴るデジタル時計を流れるように止めた。
「頭が痛い。」
ゆっくりと腰をあげ、ヨレたスーツを身に纏う。
同じ筈の動作なのに、億劫に感じてしまう。
シャツのボタンを止める作業も、ネクタイを結ぶ作業も、この場が時空が歪んでいる気がした。
重いブリーフケースを持ち上げ、自室を出て行く。
玄関に向かう途中に、ダイニングテーブルに置かれたコンビニのパンに目をやる。
「‥いいか。」
すぐに視線を戻し、外に出た。
***
3駅電車を乗り継ぎ、時刻は午前6時50分。いつもと、1分1秒たりとも変わりない。
平凡な日常。振動で、体が横に揺れる。
後、2駅。短いようで長い、時間さて、どう過ごすべきだろうか。
どうでもいい事が頭の中を泳いでいるうちに、視界がぼやけ、眠りについていた。
『次は__』
アナウンスの聞き取りづらい無機質な音声で目が覚める。
危うく、乗り過ごすところだった。
腰掛けていた席から立ち上がると、出口に近い吊り革を持ち到着を待った。
「あ、ドイツさん奇遇ですね。」
俯いていた私に明るい声で話しかけてくれたのは同僚の日本さんだった。
「ああ、日本さん、おはようございます。お早いですね。」
抑揚もなく、ただなぞるだけの返答。日本さんはどう思うだろう。
「そうですか?ドイツさんもですよ。」
花が芽吹くような微笑みをかけた。
その気持ちは、私の趣味とする星の観察とはまた違う気持ちだった。
「そろそろ、着きますね。あの、ドイツさんがよければオフィスまで一緒にいきません?」
唐突な、お誘いに声が出ずに、小さく頷くしかなかった。
日本さんは『面白いですね』と一言優しく笑いかけてくれた。
オフィスに着くまでは特にするわけでもなく、ただ機械的に日本さんの歩幅に合わせて
歩く。その行為が私は心地よいものになっていた。
「ドイツさんは、お優しいですね。」
目線を合わさず、ただひたすら会社の廊下を歩く。
いつもの冷たい静かな廊下の筈なのに、今日は違った。
「日本さんもですけどね。」
一言そう、言うと日本さんの顔から笑顔が溢れた気がした。
顔は見えなかったが、日本さんの方が肩が少し上がった気がしたので思った。
「そろそろ、着いてしまいますね。何だか、名残惜しいです。」
「また、会えますよ。」「そう、ですよね」
励ますつもりで言った筈の言葉なのに、日本さんの顔は引き攣っていた。
「私は向こうなので、また会いましょうね。」
「はい、また」
小走りで、日本さんは駆けていった。
オフィスの中は、私一人だけだった。
オレンジ色の光が窓に差す。
光はまだ全体に差し切っていないので、入り口は寒く体が身震いをする。
この光と影はきっと、日本さんと私を表しているだろう。
日本さんは陽だまりのような温かい光だ。対照的に、私は冷たく冷めた影だ。
ーー光の日本さん、影の私。
そのような、事を考えても意味もないだろう。
私はオフィスの入り口の近くの席に着き、パソコンの電源をつけた。
時刻は8時。
元々、この会社は出勤時間が遅いこともあり、人数が少ないのは承知だ。
その時、何か落ちるような音が聞こえた。
ここのオフィスは、周りの部署より離れているので、廊下の音など聞こえることは、
滅多にないのだが、今日は計算外の事象がよく起きる。
私は、本能的にオフィスから外に出た。
少ない野次馬の中から、顔を出した。
目に前には、大量の書類や、機材を持った、日本さんがこけて下敷きになっていた。
気がつくと、私は、日本さんの上にのっていた、機材や書類をどかしていた。
「怪我はないですか?日本さん」
拳を握っていた手にはじんわり汗ばんでいた。
「ああ、ドイツさん。助けて下さってありがとうございます。ええ、怪我はないですよ。」
どんな時でも、やはり日本さんは優しい。
陽だまりの様な笑顔が向けられていた。
だけど、日本さんの目のふちには涙を溜めていた。
さぞ、辛かっただろう。
私は日本さんに「同情」という感情が胸に膨れあがった。
その時だった。
窓から差す光ひ反射して
日本さんの目に光が反射してきらりと光が瞬いた。
日本さんの赤黒く、見つめると漆黒の宇宙に吸い込まれる様だった。
欲しい
初めてだった。こんな感覚に陥ったのは。
それから、日本さんは救護室に行くことになった。
周りの野次馬は何もなかったように各々の部署へと戻って行った。
日本さんはその数時間後自分の部署へと戻って行った。
偶々、見ていたから知っていたのだ。偶々。
その日を境に私と日本さんと私は親密な関係になった。
同僚として、カバーし合い、お互いのわからないところは教え合う。
人と交流をすることはあまりなかった私だったが、幸せである。
黒く、電気が消されたオフィスに、パソコンが一台だけ光る。
「ぅう゛っ‥や゛」
何か潰れるような音と声にもならない声が響く。
誰にも、響く筈もないのに。
「誰かぁ、た゛すげてぇ‥」
顔を覆い,這いつくばって、廊下に向かって命乞いをする。
私の手はべっとりと濡れていた。
「ひっ、ごな゛いでぇ!」
泣きながら、逃げていく、もしかしたらまたあの星が見れるかもしれない。
私はダンスでも踊るように足を軽く日本さんに近づく。
やっぱり、所詮はただの星だけでしかないんだから。
私は彼女の目から見えた星を捕まえた。
期待するんじゃなかった。
輝きを失ったものは、興味が失せてしまう。
そうだろう、壊れた玩具は子供は興味を失せる、それと同じだ。
だが、私は愛している。だから、これは私の義務だ。
震え、輝きを失った「愛しい人」を支えながら家へと向かった。
彼女にまた輝きが取り戻せるように、と願って。
そして私はまた、本物の星と、物言わぬ日本さんを、ただ静かに観察し続けた。
コメント
2件
初コメ失礼します‼️ 質問なんだけどよ、、、文章の途中ででてきたnさんって誰だ?