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僕にとって幸せは最大の恐怖だった。
その後に来る荒波が許せなかった。
幼少期、家に父の居ない日があった。
窓を開けて 猛暑から耐えていた頃、隣の家だろうか。とても楽しそうな声が聞こえたんだ。
同時に、地面へと打ち付けられる水音を聞いた。そこから連想されるのは 今日のような日に楽しげに外で水遊びをする親子。
水に濡れるだけだろうが その気温だから成り立つもの。濡れても 冷える事は無いだろう。
とても 羨ましかった。
その様子を片耳にしながら、会えた事の無い父親の事を考えたんだ。
彼は僕に優しくしてくれるだろうか?彼は 水遊びに反対するだろうか、水に濡れるだけ無駄だ と、言ってくれるだろうか。
答えが出ないのが楽しかった。一人で考えて、一人で感じて 空想通り思うようにいったら きっとさぞ 楽しめるんだろうな と、淡く期待を胸にした。
腹が鳴った所で 致し方なく、眠ろう と替えのない薄汚れた毛布を手にくるまって眠りについて夢は終わった。
今になって思うのは、
少し怖かったと思えた遊びの事。
同級生と当たり障りの無い会話を繰り広げた。それは 僕が誰かと対等に居れた瞬間だった。
ほんの少しだけ 楽しいって思えたんだ、でも 時折客観的に自分を見てしまう。
昔の僕は これに憧れていたはずなのに…
できた仲間は心強かった。
僕は 夢見たギャングスターのようだった。
残るのは 思い出。
頭上に伸びる掌は 表面上だけの笑顔に見える。
僕よりも高く上がる手は その事の証明をしてくれる。
今更になって 過去の水遊びを羨ましく思う。今の仲間なら……と、度々脳裏を過ぎるのだが、顔につく水は気を良くしないので 彼らを好きでいる為に諦めた。