「ギリになってからじゃ、慌てるに決まっとるわ」
「忘れてた…完全に!」
真莉ちゃんに卒論を手伝ってもらってる私。
その時点でダメかも…。
いや、留年すればそれだけ借金が増える。
必死にパソコンを叩く私の後ろに近づいて、そっと画面を覗き込んだ真莉ちゃん。
その瞬間、上の方でビーッと警告音が鳴る。
「俺、そこまでしてここにいる意味ある?」
真莉ちゃんが慌てて私から距離を置いて、監視カメラに手を振った。
「だよね…ごめん!データの整理手伝ってもらったから、もう帰っていいよ!」
全部終わったら絶対お礼をする!と言って、真莉ちゃんには勝手に帰ってもらった。
真莉ちゃんが帰れば、監視カメラのスイッチは自然と切れることになってるらしい。
こんなモノが設置された理由は、私が真莉ちゃんを部屋に上げると言ったから。
もちろん響は般若みたいに怖い顔になって反対した。
「…どうしても、少し手伝ってもらわないと、卒論の締切に間に合わない…!」
泣きついて手を合わせてお願いしたら、交換条件と共に、承諾された。
その交換条件が…。
「いいかげん観念して、俺に抱かれること」
「交換条件を出されるほど、嫌がった記憶はないよ?」
ちょっと赤くなりながら、思わず唇を尖らせて抗議してみれば、鼻で笑われてしまった。
そして響によって部屋に監視カメラが設置されたのだ。
しかも、2人の距離が近づくと警告音が鳴る、というオプションまでついた念の入れよう。
もちろん響が嫌がるし、私だって今後、むやみに真莉ちゃんを部屋に入れるつもりはない。
だから今回だけなんだけどな…。
その後3日徹夜して、先生に出せるくらいまでに卒論は完成した。
ゆっくりお風呂に入って、まずは寝る…。
寝たり起きたり、何か食べたり…を繰り返しながら体力を回復させ、卒論を提出するために大学に行ったのは翌々日のこと。
大学ではサークルにも入ってないし、本当に勉強だけをしに通った。
同じ学部で話す子もいるけど、みんなとても華やかでついていけない感じ。
それでも何度か誘われて、合コン、というやつに引っ張り出された事もあった。
私はチョロいと思われるのか、なぜか男子に言い寄られることが多くて、そしたらそんな飲み会に誘われることもなくなった。
大学は、そんな感じで過ごした4年間。
バイトも忙しかったし、一般的な女子大生とは違って、思い出はあまり作れなかったな…。
大学に来るのも、もう多分…そんなにない。
そう思いながら門に向かって歩いていたら、意外な人に声をかけられた。
「こーとね!」
「…玲、なんでここに…」
……………
「羨ましいね〜大学の近くにこんなシャレたカフェがあるなんてさ」
クリーム色の陶器のマグカップを両手で持つ玲は、お洒落なこの空間にうまく馴染んでる気がする。
近くまで来たから、私の大学を覗いてみたという玲。辺りを見渡しながら言った。
「…ここ、緑川コーヒーが展開してるカフェなんだよね」
「そうなの?…それじゃ玲にとっては、ライバル会社ってこと?」
旅行帰りに玲が緑川コーヒーの令嬢と一緒にいるところを見かけて、響と優菜ちゃんが不思議そうにしていたことを思い出した。
「まぁ…今はね。でも、今後は協力関係になるかもしれないし、ならないかもしれないし…」
はぐらかされたみたい。
それじゃ…玲と話して、私の内定を取り消してきたって言ってた響との話、聞けば玲は話してくれるのかな…
「琴音、どうすんの?うちには来ないんだろ?」
マグカップをゆっくり傾けて、私を上目遣いで見つめながら…こちらから聞く前に話してくれた。
「うん…内定取り消しの知らせが来たから」
「あれ、響が言ったからそういうことになったんだからね?俺が悪いんじゃないよ?」
「わかってる…。あのさ、玲は大学卒業したら、FUWARIに就職するんでしょ?
…そしたら出世はきっと…」
早いんだろうね…と言おうとして、途中で玲に遮られた。
「…ん?響になんか聞いてんの?それとも偵察?」
出世が早ければ、あっという間に役員になって、言ってたように、私を自由にすることもできるのかな、と思ったから聞こうとも思った。
「そんなんじゃないよ。私の内定を取り消したけど…響は何も教えてくれない」
玲は目を見開いて、何故か拍手してきた。
「やっぱりケンカしたの?それとも別れの危機?…どっちにしても、思ったとおりだわ」
おかしそうに、顔を歪めて笑う玲。
なんとなく…玲は、今日たまたま来たわけではないんじゃないかって思った。
そしてその後、意外なことを話し始めた。
「うちさ…結構今、危ないんだよね」
「危ないって…FUWARIが?」
「見限ろうかなぁ…と思ってるんだ。だから緑川コーヒーの娘のそばにいるわけ」
「…え?それじゃ、FUWARIは…?」
後継者を失ってしまうの…?
もしかしたら、それを知って響は、私の内定を取り消した…?
「でも、本当は琴音には入社してきてほしかったんだよ?だって会社の中なら、さすがに響の目は届かないだろ?」
「なに言ってるの?私が入社するのは仕事をするためで、玲と仲良くなるためじゃないんだけど」
「そんなこと言ってられるのも、今だけだったんだけどなぁ…」
要するに会社に属してしまえば、次期後継者としての玲は、私にとって命令を聞かなければならない立場の人になる。
玲はそれを待っていたという。
「それまでは緑川コーヒーの娘で遊んでさ、琴音を待っていたかったの。でも俺の企み…響、気づいちゃったのかなぁ…」
ニコッと、悪気なく笑う顔が薄ら寒い…
「琴音は入社させない…!って、ハッキリ言われちゃった。でもそんなことしたら、琴音にマジギレされて、響がフラレるかも…って期待もしてたんだよね」
つまりは…私に降りかかる危険を回避しようとして、響は内定を取り消したってこと?
それに、FUWARIが危ないって…。
ちょっと気になるけど、私はハッキリ玲に言った。
「フラれないよ?響は。だって私は、響が大好きだもん」
立ち上がる私に、玲はまだ何か言おうとした。
それを聞かずに私から言う。
「玲と、入れ違いで引っ越しちゃったから幼なじみにはなれなかったけど。子供の頃一緒に遊んでたら、今…もうちょっと違う関係になれたなぁって思う…」
待って…と言われた気がするけど、振り返らずに1人でカフェを出た。
FUWARIが危ない、なんて…
なんだか無性に悲しくなった。
コメント
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やっぱり響は守ったんだね😭上手く言えばいいものを、まったくもう(。・ω・)ノ)))ペシペシペシペシ 琴音ちゃんもよく玲に大好きって言えたね(⑉>ᴗ<ノノ゙✩:+✧︎⋆パチパチ腹黒玲に惑わされちゃダメだよ!信じていいのは響だけっ!!!まぁ真莉ちゃんも…ね😂監視カメラ付きだけどꉂꉂ🤣𐤔𐤔あぁ〜お腹痛い🤣