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十字軍は…本当に謎めいた男だ。私が剣術をしている所を手助けしてくれるだの、あの時荒れ果てた地の中で私を見つけたりだの…この男は一体何がしたいのだろうか。
「どうしたの?まるで僕が君に何か企みをもって接してるような目つきして。」
「…」
「まあ色々言っても仕方ないし、かかって来て」
右手で軽く仰いで来いと煽ってきた。舐められてるな…自身の実力はどんなものなのかまだ知らなかったし、この男の実力さえも分からない。だが、恐れていても無駄だ。自分を奮い立たせ、持っていた木製の剣を大きく振った。十字軍は、私よりも速く体勢を低くして私の右側へ向かった。右の脇腹に強い衝撃を感じ、体勢がくずれる。
「うっ!…き、貴様…」
「ごめん、容赦しないっていうの言い忘れてたね」
軽率に笑いながら謝ってくる奴の顔は、腹ただしいものがあった。今すぐにでもその顔面《ツラ》をかち割ってやりたいとさえ思った。が、身体が思うように動かない。立ち上がろうにも脇腹が痛すぎて立てなかった。ああ…私の実力はこんなもんだったんだな…嘆き蹲(うずく)って涙が出そうになった。
「おや?これでもうおしまい?てっきりもっと反撃してくるかと思ったけど、まあ初手だし仕方ないか。ごめんね」
目には何も見えず、ただ分からない感情に囚われながら目を閉じた。見たって仕方のないものを見ても意味が無い。そう誰かが言っているのを感じ、目を閉じた。
身体が柔らかい何かに包まれている感触を感じて、ふと目を開けるとそこは見慣れないシャンデリアがあり、右を見ると大きな窓越しから太陽が差し掛かっていた。身体を起こし、辺りを見回すと、ベッドの前にある古びた机と椅子があり、その机に突っ伏して寝ていた十字軍を見た。暫くすると、起き出して私を見た。眠い目を擦りつつ眩しそうに目を細めつつ、身体を高く伸ばす。
「傷の方は大丈夫かい?」
「ああ…所でなぜこんな所に?」
「どうしてってそりゃ、怪我させたし手当しなきゃってので居るだけだよ」
当たり前の如く彼はそう言う。人が互いに助け合うのはあまり聞き馴染みがない。もしその助けた人間が敵であっても彼は助けるのだろうか…もし目の前にこの国を変えらんとする変革者がいてもその場で殺さないのだろうか…ますます心の中で何かが疼くような感覚を感じる。
「そうそう、君にある方について話すつもりだったんだ」
「ある…方?」
「神聖ローマ帝国様だよ。別に昔話するとかじゃないんだけどね…話すべき時が来たから話すだけさ」
そういうと、私が眠ってたベッドの右側に座り込んで手を軽く自分に仰ぐような仕草でこっちに来いと言わずに仕草だけをしてきた。渋々彼の隣に来ると、一息をつけて私に話してくれた。
「神聖ローマ帝国様は…もう長くないようなんだ。最近ずっと弱々しくなっていらっしゃってたからね…いずれかは他の国が乗っ取って僕らを消すかもしれないんだ」
ブランデンブルクもそのようなことを言ってたなと感傷に浸りながら彼の横顔を見る。仕えていた主の死期が近くなるのを嘆いているがそれを隠そうとしているのが見え見えだった。
「そこで、君に頼みがある。」
深呼吸をして、私の方をゆっくり見つめてきた。あいつと同じ灰色の瞳とは思えないぐらい、野心が強く鋭い目だった事は今でも覚えている。
「…あいつを倒してくれ。そいつは、近いうちに僕らに攻撃してくるやつだ。そいつの名は…」
ある宮殿にて…一人の少年が王の前にやってきた。幼いながらも姿勢正しくキリッとしたその姿は模範的な王子のようだ。
「お父様、今来ました」
「おお、来たか…実はお前に私の代を継いでもらおうと思っているんだ」
「それはそれは…光栄です、お父様」
輝く玉座の前にある少年は頭を下げて感謝を伝える。
「お前は本当に立派な息子だ…」
「フランス帝国」
ゆっくり頭を上げたかと思えば、少年に宿る赤い野心が瞳から映し出されているのを王様は知らなかった。少年が夢見ていたのは、王の権利では無いこともまた…誰も知らなかった…。
続く…