やはり、後ろから抱き込まれて眠るのは心地いい。吐き気もだいぶ治まり、食事の量も増えている。起きているのだろう、指に髪を巻き付け遊んでいる。片手は少し膨らんだ下腹にあてられ温めている。ハンクに父性は求めていないけど、癖になっているのかしら。髪に触れていた指が胸の頂を触れ始め、こねている。指先で挟み摘んでは引っ張り、押し込み遊ぶ。私の体が跳ねる。
「起きたか」
私は頷く。ハンクの機嫌はとてもいい。ハンクは私の夜着を捲り、お尻に硬くなった陰茎を擦り付け始めた。入れたいようで私の片足を上げ陰茎を秘所に添わせ腰を動かし誘っている。期待を始めた秘所は濡れ始め、掛け布の中で淫らな音を出し、下着が汚れる感触がする。ハンクは指で下着をずらし陰茎の先を秘所につける。私に言わせたくて、最近はこうして意地悪をする。
「いらないのか」
熱い陰茎を浅く入れては出し、時には外して尻の孔をつつく。
「あっ中へっいじわるっ」
狙いを定め陰茎を突き込む。私の口からは喘ぎ声が漏れ、体が震える。朝の光が差し込む寝室に私の声が響く。ハンクは腰を動かし、背中に吸い付き痕を残す。私には見えないから寂しい。奥まで欲しいのに、子がいるからと激しく突いてくれない。私は手を後ろに回し太い腰を掴み秘所へもっと入れろと誘う。後ろから耳を咥え舐められ、高い嬌声を上げてしまう。
「欲しいのか」
ハンクの声に弱いことを知られている。腰が震え、口からは、はしたなくお願いをしてしまう。
「閣下お願い」
陰茎が奥まで届き快感に浸る、太い指が頂を潰し、腰を回し刺激されると足が強ばり体が震え陰茎を締め付け弾けてしまう。
「どこに欲しい?」
長く中にいて欲しくて中に、と答えてしまう。駄目だと言われているのに。
「まだ待て」
腰は激しく動き、腕は私に巻き付き離さない。嬌声の中、陰茎を抜き秘所の入り口に子種を撒く。下着の中が子種にまみれ濡れている。後ろを向き口を開け合わせる。もう朝は過ぎた、ソーマが待ってるはず。
ライアン様の往診には必ずカイランが付き添うようになった。悪阻が終わり、下腹も膨らみ出した。
「悪阻は比較的軽い方ですね。食欲はありますか?」
私は頷き答える。
「はい、以前より食べてしまうんですの。いいのでしょうか」
ライアン様は笑顔で説明してくれる。
「食べられるなら食べてください。子にも栄養をあげてますからね、腹はすきます。まだ子の動きは感じませんがもう少しすると、子が動くのがわかるようになります。それは正常なことですから心配なさらず」
痛みがあれば早馬をと告げ、ライアン様は退室する。
よかった、安心だわ。子は元気に育ってる。
「キャスリン、腹に触れてもいい?」
膨れたらと約束してしまったのよね。私は微笑み、ええ、と答える。ダントルの位置は近い。
カイランは服の上から下腹を撫でる。前より少し膨れていることがわかるのか、よく撫でている。
「確かに膨れてる。この前は平たかったのに」
そうね、と笑って返す。なんだか、私の望む普通の夫婦なのよね。ありがたいのだけど不安も残る。
「もう少し膨れたら安定期ですって。マイラ王女から息抜きに茶会に誘われてるの。ずっと邸に籠っているでしょう?一月後ならと返事をしたわ」
ハンクにも許可を取った。祝いの品も頂いたし、未来の王妃の誘いを断るのはよくない。ハンクが日を調整すると言っていたから頼んでしまったけど、マイラ王女の予定を私に合わせるのかしら。それはハンクも無理よね。
「馬車で半時もかからないか…体調が良くなければ断るんだ」
まるで本当に自分の子のように心配するのね。大事なゾルダークの後継だものね。
「無理はしないわ」
カイランは頷いて触れていた手を離し、私の自室から退室していった。今日はこの後、ディーターの家族が全員でゾルダークへ私に会いに来る。互いの予定が合わず、今日まで延びてしまった。天気もいいので四阿で会う準備をメイド達がしてくれている。
腹が膨れ始め、普段着も締め付けのないものをハンクが全て揃えてしまった。実は少し選びたかったが、冊子を見てハンク自身が選んでいたとソーマから聞けば、その姿が目に浮かび微笑ましくなってしまう。この時期しか着ないものなのに沢山買ってしまって、靴まで高さのない物を揃えてくれた。その中から気に入りを着て、四阿へジュノとダントルを連れて向かう。花園へ続く扉を開けると、先ほど別れたカイランが待っていた。
「そろそろだろ?僕も共に会うよ。途中で抜けるから」
夫婦で迎えるのは当たり前だものね、腕を曲げたカイランに手を添え、花園の歩道を歩く。時々花は植え替えられ、違う色で私を楽しませる。手間がかかるはずだけどハンクの指示だと言うので嬉しい。
「庭師を増やしたそうだよ」
カイランが教えてくれる。そうよね、仕事が増えたのだから人は必要よね。外に出ない私のためにというより、ハンクは外に出さないつもりなのね。つい笑顔になってしまう。
「君は花が好きだね」
「綺麗だわ。庭師は私のために匂いの少ない花をわざわざ植えてくれたのよ」
カイランは微笑み私に告げる。
「父上の指示だよ。君が悪阻で苦しんでいたろう?アルノ医師を何度も呼んでた。君はきつい匂いを嫌がったからそれで庭師に命じたんだよ」
胸が温かくなるわね。本当に私のことを考えてくれてる。
「君のためなら何でもするだろう」
そうかもね、と答えておく。しそうな気がするもの。四阿に着くと茶器や菓子が並べられている。アンナリアとライナも侍っていた。
「ねえ様!」
元気な声に振り向くと、テレンスが曲がりくねった道を足早に進んで、一足先に私へたどり着いた。
「いらっしゃいテレンス。あんなに急いでは転ぶわよ」
「こんにちは小公爵様、本日はお招きありがとうございます」
カイランは頷きで答える。
「テレンス!走るなよ。少しは花を愛でろ」
お兄様とは王宮の夜会でちらりと会った時以来、久しぶりだわ。
「小公爵、妹に会いに来ましたよ。お元気でしたか」
「ええ、変わらずですよ」
カイランとお兄様は倶楽部で度々会っているはず、よく話すのかしら。
「キャス、調子はどうだ、悪阻が酷かったって?あまり痩せてないな。太ったか?」
女性に太っているは無神経だわ。
「それほど酷くはなかったわよ」
「いや、あの時は痩せたろ。細い体がさらに細くなってた」
カイランは私の頬を撫で、優しく肩を掴む。彼も心配していたらしい。
「キャスリン!久しぶりね。元気そうだわ」
お母様がお父様の腕に手を添え、私に近づいてくる。懐かしいわね、婚姻してから半年以上会っていないもの。
「お母様、お父様。お久しぶりですわ。お変わりなく?」
「ディーター侯爵、ようこそ。四阿へどうぞ、用意もしてありますから」
カイランに勧められ、皆が四阿に入り座る。
「この前はこの場所に四阿なんてなかったね。歩道まで作って素敵だよ」
ハンクが作ってくれたのよ、とは言えないから微笑むだけにしておく。
「キャスリン、大事にしてもらっているのね。こんなに早く身籠れるなんて、嬉しいことよ」
貴族女性が嫁いだ家で何年も子を孕めないと石女と言われ、生家に力がなければ無価値な存在に成り下がる。第二夫人が身籠れば更に肩身は狭くなり、心身を病むほど。お母様が心配するのはしょうがないのよね、安心したはずよ。私は下腹を撫でながら、そうねと呟く。カイランの克服など待ってはいられなかったわ。
ジュノが皆に果実水を配る。
「冷たい!氷が入ってる。美味しいな」
テレンスは喜んでいる。走っていたものね。
「ジュノ、久しぶりだな。元気にしてたか?」
お兄様が久しぶりに会うジュノに声をかける。ジュノは頭を下げ答えていた。やはり、ジュノをゾルダークへ連れてきてよかった。お兄様はまだジュノを想っている、厄介だこと。ダントルにも聞きなさいよ。そういうところで悟られるのよ。黙っていたお父様が話し出す。
「キャスリンおめでとう。よくゾルダークの子を儲けられたな。私達も安心した」
ハンクのおかげよ、なんて言ったら卒倒するわね。空色の瞳を潤ませてるわ。あら、涙が落ちそう。
「父上、恥ずかしいからやめてくれよ。キャス、父上はお前がいなくなって寂しがってた。子が生まれたらたまには顔を出せよ」
ええ、と頷く。会いたければゾルダークへ来たらいいのに、ハンクが怖いのかしら。お父様は花園に目を向け固まってしまった。振り向くとハンクが近づいてくる。婚姻式以来の顔合わせね。話すことなどないだろうにどうしたのかしら。
「ゾルダーク公爵。お久しぶりですな、お邪魔しておりますよ。お元気そうで何より。キャスリンを大事にしていただいて、有り難いですよ」
ハンクは頷きで答える。お父様、緊張しすぎよ。声が高くなっているわ。
「公爵様!この花園は美しいですね、四阿もいい。マルタンにも作りたいですよ」
天真爛漫なテレンスだから話しかけられる。物怖じしない子だわ。
ハンクは私の側に立ち、大きな手を私の頭に置く。
「これのためだ」
皆がなんて言っていいのか固まるのは仕方がない。嫁のために何かするような人物ではない。だけど私のためと言っている。
「妹はゾルダークで大切にしてもらっているのですね、よかったな」
お兄様がなんとか場を繋いだわ。お父様は呆けているし、役にたたないわね。
「ええ、大切にしてもらってます」
カイランはハンクの登場に黙ってしまった。ハンクはカイランへ目を向け、首を傾ける。ここから去れ、と促している。
「では、皆さん。ゆっくり過ごしてください」
ハンクが邸へ歩き出すとカイランもそれに続き四阿から去っていく。その後ろ姿を見て、
「びっくりしたね、公爵はカイラン様を呼びに来たのかな」
「さあな、あの人は理解できん、キャス、小公爵とは仲良くしてるんだな?」
ええ、と答えておく。本当のことなど言えないわ。
お兄様は果実水を呷り、ジュノにおかわりをお願いしている。お父様はまだ固まっている。そんなに怖いのかしら。貴族院を纏めるには恐ろしさも必要かも。固まるお父様は放って置いてお母様が話し出す。
「キャスリン、無理をしては駄目よ。仕事は果たしたわ、つらくなったらディーターに戻ってもいいのよ」
お母様はカイランの恋心を知っている。学園では気づく人もいただろう。令嬢の集まりで話が出れば、その母親にも伝わり、夫人の集まりで噂になってもおかしくない。貴族男性は愛人などいて当たり前。カイランのこともよくある話の一つとして聞いただろうけど、気にはなっていたようね。私は微笑み安心させる。
「私はゾルダークを離れないわ。ここが居場所なの」
下腹を撫でお母様に告げる。この子を立派なゾルダークにする。カイランのようにはしないわ。お兄様は解せない顔で私に問う。
「公爵は怖くないか?」
いきなり頭に手を置いたから驚いたのね。
「ええ、話せば普通よ?怖いことなど言われたこともないわ」
そこは真実よ。ハンクは怖がられるのね、顔のせいかしら。険しい顔が素敵なのに。それからお兄様は黙り込み、テレンスが話し始めて懐かしいディーターを思い出す。よくこうして集まってテレンスの止まらない話を聞いていた。