テラーノベル
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初日、家の皆様に家事のイロハをたくさん教えて貰い、夜は『料理指南本〜地味ある毎日のお惣菜〜』と『良妻賢母のススメ』『新・裁縫乙女の道具箱』などなど、女学院でも推奨図書になっているものを、女中の方達から貸して頂いた。今まで医療関係、論文、薬学史などしか読んで来なかったので、皆様から借りた本や雑誌は目から鱗が落ちるような驚きと新鮮さがあった。
夢中で読み続け、気になったところは、たくさん紙に覚え書きをした。
沢山読み耽り、気がつけば窓から差し込む光は白んでいた。
二日目はクリス様からのマナー講座。
西洋料理を食べるときは、日本の食事作法と違うことは西洋論文を読んでいたときに知っていたので、これは問題なかった。
ダンスは初級とはいえ初めは戸惑ったが、頭ではなく体で覚えるのがコツだと理解した。
夕方になる頃には基礎の基礎はなんとか覚えた。
クリス様からもおまけと言われたが、及第点を頂いた。
それよりも嬉しかったのが、なんと!
蒼波様から私宛に速達のお手紙が届いたのだ。
明日の夜には帝都に戻る。リストランテで一緒に食事をしようと、書かれていた。
そして私の喉に負担さえなければ、私と蒼波様が出会ったときのこと、今後のこともしっかりと話したいと几帳面な字で綴られていた。
初めてこのような手紙を貰い、胸がときめいた。
しかもほんのりと手紙から白檀の香りが鼻腔を擽り、蒼波様の体温を思い出した。
早くも明日の夜にならないかと思ってしまうのだった。
三日目の夕方──
私は立派な西洋ドレスを身に纏っていた。
色は|黄色宝貝《キイロタカラガイ》のようにつやっと光沢を放つ、鮮やかな黄色のドレス。まるで波のような繊細なレェスは天女の羽衣のようだ。
クリス様が言うには、このドレスは社交界でも流行りの最先端。
コルセットでウエストを細く絞り|腰当て《バッスル》を入れてお尻の後ろ側を大きく膨らませたシルエットが特徴的と仰っていた。
髪も私の長髪が焼きコテによって、流行りの|短髪《ショートヘアー》に見えるように結い上げて貰っていた。その髪には真珠がついた髪飾りと一緒に、いつもの髪紐も結えている。
化粧もばっちりだ。ふわりと手を動かせば、国産香水の『白藤』の甘く透明感ある香りが優しく香る。
女中の方達に和やかに身支度を整えて貰い、一人残った洋室で鏡を覗き込めば私の知らない私が緊張の面持ちで、私を見つめ返していた。
「お化粧って凄いんですね……私は死化粧ぐらいしか知りませんでした」
「おいおい。マナ。滅多なことを言うな」
「!」
いきなり後ろから声を掛けられて、びっくりしてしまう。ばっと振り向くと、そこには、いつもの軍服ではない、ジャケットを羽織ったクリス様がいた。
今日も金髪と夕日色の赤い瞳がなんとも優雅だった。それにしてもいつの間に後ろにいたんだと、思っているうちにクリス様がツカツカと寄ってきた。
「ふぅん。まぁ、見た目は悪くない」
「あ、ありがとうございます」
一応ぺこりと頭を下げると、しゃらりと髪飾りが優しい音を奏でた。
「せっかく見た目は蒼波家の妻として、相応しい身なりになっているんだ。言葉も慎むように。この三日間で上辺だけでも、それなりになったんだから、チヒロをがっかりさせないように」
「は、はいっ」
手鏡を机の上に置いてしゃんと背筋を伸ばすと、クリス様が赤い瞳をきゅっと細めた。
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コメント
1件
みぅ🤍🥀です。第20話、読みましたよ〜。 マナが必死に“良妻賢母”の勉強をしてるところ、健気でめちゃくちゃ胸に来ました……。特に蒼波様からの手紙が届いたシーン、白檀の香りに体温を思い出すっていう描写、好きすぎます。手紙だけでこんなにトキめけるの、尊い。 そしてラストの黄色いドレス🎀 コルセットにバッスルに最新のドレス、髪もお化粧もバッチリで「私の知らない私」がいるって感覚、すごくわかる気がします。緊張してる姿に、クリス様の「チヒロをがっかりさせるな」の一言も刺さったなあ。 明日の夜、絶対うまくいってほしい…!読んでてこっちまでドキドキしました💛