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私の名前ですか? ああ……そうですね……。
えっと……あぁ……あれです。
私の名前は……アレですよ。
ほら、なんといいましたかね? ああ、思い出しましたよ! 確か、アイリスとかいう名前だったはずです。
はい、間違いありません。
この辺りの国の言葉だとそういう発音になるんですよね。
だから、きっとそうなんです。
しかし、それが本名なのかと言われると、自信はないのですが……。
そんなことよりも、貴方のお名前は? へぇー。素敵なお名前じゃないですか。
私の国ではあまり聞かない響きですが、とても素敵だと思います。
え? もうひとつ名前があります? それはどのような意味なのでしょう? ふむ。よくわかりました。しかしわたしはあなたの言葉を借りると「まだ人間になりたて」ですので、理解できない部分もあるかもしれませんね。
そうですか……お役に立てなくて申し訳ございません。
ただ、わたしはあなたのためにできるかぎりのことをしたいと思っていますよ。どうかこれからよろしくお願いいたします。
えーっと、ちょっと待ってくれないか? いまメモをとってるところだからさ。えーっと、名前は『クドリャフツェフ』さんね……って、そんな人はいないよ! まったくもう。じゃあこのへんにしとくかな。おつかれさまでした~。またのお越しをお待ちしておりませぬ。
地下迷宮の闇のなかに、いくつもの灯火が見える。それはゆらめきながら燃えている。しかし、その輝きは地上のどんな火よりも暗く冷たいものだった。
――ここは地獄の入り口。死者たちが永遠にさまよい続ける場所なのだ。
暗闇の奥からかすかに聞こえるうなり声を聞きながら、そう思った。
「あの……」
背後から聞こえてきた小さな声で我に返った。振り向くと、小柄な少年がいた。
「大丈夫ですか?」
心配そうな顔でこちらを見上げていた。黒い髪が揺れている。
この娘が誰なのか知っている気がしたが、思い出せなかった。
ただ……ひどく懐かしかった。
記憶喪失になって初めて出会った人間だからだろうか? だがそれだけではないような気もした。
彼女はいつも自分のそばにいたのだ。
ずっと昔から知っていた。そんな気がした。
そして今ようやく理解できた。自分が彼女を好きになった理由を。
「さぁ、行きましょう?」
彼女が笑顔で言う。