テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
セレスティア魔法学園の朝は、清々しい空気に満ちていた。
キリサキ町での週末を終え、
レクトとヴェルは寮に戻ってきた。
列車の中で交わした笑顔と軽口が、二人に新たな活力を与えていた。
レクトは、
エリザとの戦いや過去の重荷に押しつぶされそうだった心が、
ヴェルとの時間で少しだけ軽くなったと感じていた。
ヴェルもまた、家族との冷たい再会を乗り越え、レクトの笑顔を守れたことに小さな誇りを感じていた。
寮の自室に戻ったレクトは、
机の上に置かれた魔法の教科書を手に取った。「よし、今日からまた頑張るか。」
彼は呟き、窓の外に広がる学園の緑を見つめた。エリザとの和解、過去の隠蔽、そして魔法の制御。
課題は山積みだが、ヴェルやアルフォンス校長の支えがある今、進むしかない。
一方、ヴェルは自分の部屋でストレッチをしながら、キリサキの秘密基地を思い出していた。
(レクト、めっちゃ楽しそうだったな。
あの笑顔、もっともっと見たいよ。)
彼女はニヤリと笑い、
魔法にまつわる教科書を手に持って、教室に向かっていった。
一般の生徒は教室の授業だがレクトだけは、
校長との対面授業なのである。
昼下がり、
レクトはアルフォンス校長の指導のもと、
魔法練習場に立っていた。
広々とした室内で、
校長はいつもの厳格な表情で、腕を組んでレクトを見ていた。
「レクト、準備はいいかね?
今日の課題は、フルーツ魔法の『制御』だ。
威力の安定は二の次。
今は意図した果物を、意図した場所に出せるかどうかが重要だ。」
校長の声は、
まるで鉄のように重かった。
「はい、分かりました!」
レクトは気合を入れ、杖を前にかざした。
「ああ、レクト」
しかし校長は止める
「今は杖無しでやってみよう、まだ君は魔法自体を操れていないからな」
「……分かりました!」
彼のフルーツ魔法は、エリザとの戦いで暴走した経験から、少しずつ変化していた。
あの戦いでの
マジカル共鳴——魔法のバグ——を
思い出すたび、胸がざわつくが、
同時に、魔法を自分のものにしたいという強い意志が湧いてきた。
「リンゴ、出現!」
レクトは集中し、魔法を放った。手のひらから光が弾け、床に真っ赤なリンゴがポンと現れた。
続けて、「オレンジ!」と叫ぶと、今度は鮮やかなオレンジが転がった。
威力は不安定で、リンゴは少し小さく、オレンジは逆に大きすぎたが、
狙った果物を正確に出せたことに、レクトは小さくガッツポーズをした。
「ふむ、悪くない。」
校長は頷き、厳しい目でレクトを見た。
「以前は君の魔法は、ただの感情の爆発だった。だが、今は明確な意志が感じられる。マジカル共鳴の経験が、君の魔法に深みを与えたようだ。」
「ほんとですか!?」
レクトの顔がパッと明るくなった。
「なんでか、キリサキ町でヴェルと過ごしてから、頭がスッキリしたっていうか……
魔法をもっと良くしなきゃって思えて……!」
「ほう、ヴェルか。」
校長は小さく笑い、目を細めた。
「友情は、魔法の触媒としても強力だ。だが、油断するな。魔法の制御は、感情の制御でもある。家族との関係が進展すれば、また新たな試練が待っていると思うぞ。」
「はい、肝に銘じます!」
レクトは力強く頷いた。校長の言葉は重いが、その裏にある信頼が、彼を奮い立たせた。
魔法学園の屋外練習場は、
初夏の陽射しに照らされ、緑の芝生が鮮やかに映えていた。
生徒たちはそれぞれの魔法を磨くため、グループに分かれて練習に励んでいた。
風がそよぐ中、果物の香りや光のきらめき、時折響く爆発音が練習場の活気を物語っていた。
ヴェルは練習場の隅に立ち、両手を腰に当てて深呼吸していた。
彼女の目の前には、リンゴとブドウが並んだ小さな木製の台。
このフルーツは、レクトが今の特訓で出した物の再利用だ。
今日のフロウナ先生の授業の課題は、
「自分の魔法を安定させ、意図した効果を正確に発動する」こと。
ヴェルの魔法——「震度2の魔法」——
は、微妙な揺れを起こすもの。
攻撃や防御にはほとんど役立たないが、他の魔法のサポートとしても独特の可能性を秘めていた。
「よーし、集中、集中!」
ヴェルは自分を鼓舞し、杖をリンゴにかざした。
彼女の指先から、淡い緑色の光が放たれ、リンゴを包み込む。光が揺らぐと、リンゴがわずかに震え始めた。まるで小さな地震に揺られるように、台の上でリンゴがコトコトと動く。
ヴェルは目を輝かせ、「よし、いい感じ!」と呟いた。
彼女の魔法は、
物体や人に微妙な振動を与え、
緊張をほぐしたり、
心を落ち着かせたりする効果も持つ。
霧咲町の秘密基地で、レクトを癒したあの感覚を、もっと強く、もっと正確に再現したかった。
「この魔法で絶対役に立つんだから!」
ヴェルは心の中で誓い、次にブドウに魔法をかけた。
ブドウの粒が震え始め、まるで生きているようにプルプルと動いた。
ヴェルは笑顔で手を叩いた。
「うわ、めっちゃ可愛い! 」
彼女はブドウを手に取り、振動によってほんのり香るブドウの香りを嗅いだ。
「おお、最高! めちゃくちゃいい匂いじゃん?!」
だが、その瞬間、後ろから声が飛んできた。
「おい、ヴェル
アイツの魔法食べたら死ぬんじゃねーの?」
「……!」
声の主はカイザだった。隣にはビータが立ち、クスクス笑いをこらえている。
ヴェルは振り返り、カイザのほうを見つめた。
「別に食べようとはしてないよ……。
それに、そもそも、
………私たちはゼンくんを殺したりしてない。
ただ転校しただけ……!」
カイザは腕を組んでニヤリと笑った。
「…………。
それより震度2って、地震で言ったら『あ、揺れた?』くらいのレベルだろ? そんなんで、戦いで何の役に立つんだよ。」
彼の声には、からかうような軽さがあったが、
どこか探るような響きも混じっていた。
エリザとの戦いでレクトの魔法を見た後、カイザは彼やその親友であるヴェルに対する疑念を少しずつ手放しつつあった。
それでも、完全に打ち解けるには、まだ一歩足りなかった。
ビータはカイザの肩を軽く叩き、笑いながら口を挟んだ。
「まあまあ、カイザ、キツいこと言うなよ。からかう為に来たわけじゃないだろ」
カイザは一瞬黙り、ヴェルを見つめた。
「レクト…。
あのエリザさんとの戦い、
確かにすごかった、圧倒されたんだ。」
彼の声には、疑念と好奇心が混じっていた。
「……それで何?」
ヴェルは少し不審な顔を向けた。
「あれからビータと話し合った。
あんなに真面目に親と向き合っているレクトが、本当に人を殺したのか……って。」
「俺のタイムリープの異能力は、まだ未熟だったのかもしれない……って。」
「……!」
ヴェルの目にわずかな光がやどる。
「そ……そうだよ!!!!本当に私たちは何もしてないの!!!!!」
「いや断言はできない、だからこそアイツと親睦を深めたいんだ。」
「……は?」
そしてビータが口を開いた。
「つまり、レクトのことを知りたいから、
寮のみんなでレクリエーションをしないかと思ってさ。」
そんな誘いを受けたヴェル
そしてカイザも口を開いた。
「お前からレクトに、伝言してくれないか?
別にただの、レクリエーションだから。」
2人はなんの企みもないような眼差しを確かなしていた。
ヴェルは少し動揺しながらも、2人がレクトの殺人の件に蓋をしようとしていることに安心して、
明るく返事をした。
「……うん、分かった。伝えておくね!」
星光寮の広間に生徒たちが集まり、
輪になって座った。
カイザがルールを説明する。
「フルーツバスケット、知ってるよな? 鬼がフルーツの名前を呼んだら、そのフルーツの人が席を移動。『フルーツバスケット!』って言われたら全員移動な。簡単だろ?」
生徒たちは笑いながら、
自分のフルーツを決めた。
レクトは「バナナ」、ヴェルは「ブドウ」、カイザは「オレンジ」、ビータは「メロン」。他の生徒たちも、マンゴーやキウイなど、思い思いのフルーツを選んだ。
ゲームが始まると、
広間は笑い声と足音で溢れた。
「バナナ!」「ブドウ!」と呼ばれたレクトとヴェルは慌てて席を移動し、
ヴェルにぶつかって二人で転びそうになった。「うわ、ヴェル、ごめん!」「バカ、ちゃんと走れよ!」と笑い合う二人に、クラスメイトたちもクスクス笑った。
「フルーツバスケット!」カイザが大声で叫ぶと、全員が一斉に立ち上がり、席を奪い合った。
レクトはビータに席を取られ、鬼になってしまった。
「よし、じゃあ……ブドウ!」彼がヴェルを指差すと、
彼女は「うわ、狙われた!」と笑いながら逃げた。
ゲームが進むにつれ、レクトに対する生徒たちの視線が柔らかくなっていくのが分かった。
最初こそはよそよそしかった寮のチームメイトたちが、
ゲームを通じて彼に話しかけたり、
笑い合ったりし始めた。カイザも、レクトが鬼で失敗するたびに
「ほら、もっと早く動けよ!」とからかいながら、どこか楽しそうだった。
「レクト、めっちゃ楽しそうじゃん!」ヴェルが隣で囁き、ニヤリと笑った。
「ほら、みんな、だいぶ打ち解けてきてるよ……!」
「うん……!」
レクトは小さく笑い、胸の奥が温かくなるのを感じた。
キリサキ町でのヴェルと過ごした時間が、彼に自信を与えていたのかもしれない。
ゲームの最後、ビータが提案した。
「せっかくだから、レクトのフルーツ魔法、見せてくれよ
フルーツバスケットのフィナーレにさ!」
「え、俺の魔法!?」
レクトは驚いたが、周囲の生徒たちが
「見たい!」「やれよ!」と盛り上がるのを見て、覚悟を決めた。
「よし、じゃあ、やってみる!」
彼は広間の中央に立ち、両手を広げた。
(今こそ校長先生との授業の成果を、見せるべき……ー!)
魔法の光が弾け、
床には次々といちごが現れた。
威力はまだ不安定だが、
果物の大きさは全て安定していた。
「……やったぁ……、、、、!!!!」
生徒たちは「すげえ!」「めっちゃいちご!」と歓声を上げた。
「ほら、みんなで食おうぜ!」
男子生徒がいちごを手に取り、かじろうとした。
その時、
後ろで見守っていたフロウナ先生が前に出た。
「皆さん、まだ品質の安全は保証できないので食べるのは避けましょう。」
その指摘によって、眺めて楽しむ形で、レクリエーションは終わった。
クラスレクの夜が終わると、寮の雰囲気は少し変わった。
レクトに対する偏見は完全には消えないが、
カイザやビータを始めとする生徒たちの態度は
明らかに柔らかくなった。
次話 6月21日更新!
コメント
6件