「あ!いろはちゃん!」
「あ、沙花叉…!?ご、ごめんね、風真用事あるから!」
「…沙花叉なんかしちゃったかなぁ……」
わかりやすい嘘を置いていって走り去っていく若菜色の後ろ姿をみつめる
最近、いろはちゃんにずっと避けられている。任務も合同は少なくなったし、アジトでは会わないようにされてるみたいだし、会っても今みたいに逃げられてしまう。
「あれ?クロたん帰ってたんだ!おかえり〜!怪我してない?…ってまた避けられたの?」
「ただいま、こんこよ。そうなんだよねぇ…」
「ふーん…って腕怪我してるじゃん!治療するから研究室いくよ!」
「あぁ、これ切られちゃったんだよね〜。あ、でもその前に着替えてから行くね!今のままだと血がこんこよにもついちゃいそうだし」
「わかった、じゃあ準備しとくね!」
「はーいありがと!」
自室に戻って服を着替える。今日はずいぶん血を浴びちゃったみたいで服が真っ赤だ。その服を洗濯機に入れて、小腹が空いたのでキッチンにあったお菓子を適当に口に放り込んだ後、こんこよの研究室へ向かった
扉に手をかけようとした時、中からいろはちゃんが出てきた。いろはちゃんも沙花叉に気づかなかったみたいで、いろはちゃんの胸にぶつかる。
「あ、ぶっ」
「あ、沙花叉!?ご、ごめんでござる!」
「いろはちゃん?なんでこんこよのとこに?」
「少しこよちゃんに用事があって…じゃ、じゃあ風真はこれで!!」
「あ、ちょっとまっ」
瞬きをする間に視界からいなくなっているいろはちゃんにズキリと心が痛む。反射的に伸ばしていた手は空を切って、行き場を無くしていた。
「あ、クロたん。中入っていいよ」
こんこよの声にハッとして何も知らないと言いたげな顔で沙花叉を迎えるこんこよ。本当は今すぐにでも何を話していたのか聞きたいけど、怖くて聞けなかった。
「よし、治療はこれで大丈夫かな!でもあんまり動かさないようにしてね!」
「うん、ありがと、」
「……いろはちゃんに会った?」
「!?、なんでわかって…」
「クロたんが立ってたタイミング的にもバッタリ会っちゃったかなって思って」
「何を話してたかこよからは言えないけど、クロたんはいろはちゃんのこと嫌いじゃないよね?」
「うん。好き。大好き。だから苦しいし怖い。沙花叉、いろはちゃんに何かしちゃったのかなって。もう前みたいに話せないのかなって…」
「そっか。ねぇ、それは…」「こよちゃん。」
「いろはちゃん。…クロたんの治療ならもう終わったよ」
「ありがとうこよちゃん。」
「沙花叉。ちょっと時間、貰える?話したい事があるでござる」
沙花叉はそれにわかったと同意して、いろはちゃんの後ろをついていく。こんこよの研究室を出る時にこんこよがいろはちゃんに向かって頑張れって言ってた気がするけど、大事な話とはなんだろう。こんこよが応援するって事は暗い話ではないのかな。突き放されるかもしれない恐怖はあるけれど、こんこよの態度をみればそんな事ないかもって思う。
「クロちゃん」
「へ?…あうん?」
屋上。太陽が沈んでいく時間。沙花叉の目に映るいろはちゃんはオレンジ色に染まっていて、顔が赤くみえた。
「好きです。風真と、付き合ってくれませんか?」
差し出される手。いろはちゃんの綺麗な金色の髪の毛が揺れる。え?溢れた驚き。上がる体温。紅くなる顔。落ちる汗。脈打つ心臓。
全てが一気に沙花叉を襲って、頭が真っ白になる。頬には涙が伝って、地面へ流れていく
「いろはちゃん、沙花叉のこと嫌いになったんじゃ…っ」
「最近、避けてばっかりでごめん。沙花叉をみると意識しちゃって話せなくて…」
夕陽のせいじゃない。確かに紅く染まったいろはちゃんは沙花叉にいつもの笑顔を向けながら言う。その笑顔にひどく安心して、身体の力が抜けていく。その場に座り込むといろはちゃんが心配したように目線を合わせてきてくれる
「だ、大丈夫でござるか!?」
「うぅいろはちゃぁぁん…!!!よかったぁぁ!沙花叉もすきだよぉ!」
そういろはちゃんに抱きつくと、もう離れたり、視界からいなくなったりしないで沙花叉を包み込んでくれた。久しぶりに感じるいろはちゃんの体温と匂い。耳に降ってくる優しい声に沙花叉は眠くなって、もういなくならない大好きな人の腕の中で一度、眠ることにした。
コメント
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いい話だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ 泣けてきた