テラーノベル
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このお話は・・・【本編後想定】
⚠本編のネタバレを含みます。
こんなに晴れた青空の下。それによく似合う、 あまりに突然で、最悪の出来事だった───。
「───夜野……魁利くんか?」
「……マジかよ……」
───人違いのフリさえできたらよかったのに。どうやらこのおまわりさんには、相変わらず、オレの小手先の術はぜんぜん効かないらしい。
「───久しぶりだなぁ。最近どうだ、お兄さんとは仲良くしてるか?」
「……まー、そこそこじゃねッスか……」
「そうか……あ、魁利くんはどうして街に?お店の買い出しか?」
「いや。オレ、もうジュレで働いてねーし……ただの散歩。」
───久しぶりに直視する圭ちゃんは、やっぱりまぶしくて、大人で……相変わらず、何を言ってもオレの方がジリジリと照らされてしまうようだった。
「……まさかこんな所で会っちゃうなんてね。あーあ、オレ圭ちゃんのこと忘れて平穏に生きてたのになー?」
「はは……まあ、魁利くんが幸せなのが一番だ。元気そうな姿が見られて嬉しいよ。」
「…………なんだそれ……」
ああ、もう。まるで効いていない。どんな棘も嫌味も、なにもかもが。
……そういう所のせいで、オレはまるで潰れそうなくらいに光を浴びて、焼き尽くされそうなくらいの熱さに打たれて。
自分のどす黒い影が、より色濃く、より深く、浮き彫りになっていくような感覚に陥る。
前からずうっと───圭ちゃんの隣にいると、自分のことが余計に嫌になってくる───。
「あー……じゃあ圭ちゃん、オレ忙しいんで今日は───」
帰るわ、と言う直前に、オレの台詞に被って存在を示す正午が鳴り響いてしまった。
「もうそんな時間か。そうだ、折角会えたことだし、良ければこれからご飯でもどうだ?」
───ああ。台詞があと数秒早く出てくれば、もし今既に帰路についていれば、回避できたはずの提案だったのに───。
「……タイミング、悪すぎかよ……」
───そうして二人で向かった先は、ただの駅近のファミリーレストランだった。
「ふーん、いいとこ連れてってくれるワケじゃないんだ。」
「え。ああ……すまない。違うところの方がよかったか?」
「べつに……なんでもいーよ。さっさと入れば」
受付を済ませて、案内された席に座る。
「オレ、通路側に座るから。圭ちゃんソファー行って」
「わかった。荷物こっちに置くか?」
「いーよ、そこまで大きいもんないし。自分で持つ」
───そのまま向かい合ってしまえば、もう彼の手前、逃げ場なんてない気がして……ああ、なんで誘いに乗って、着いてきちゃったんだか。
そう後悔しながらも、オレはその場にあったメニューを取ってめくり始める。
「……コレ、圭ちゃんの奢りね。突然連れてこられたもんだから、オレ今カネ持ってねーの」
圭ちゃんのカオを見ないように、俺はメニューに視線を落としながら言う。
また同時に、そこに返ってくるであろう言葉を聞き流したかったのだけど……そう、上手くはいかないもので。
「ああ、いいぞ。むしろ、突然誘ったのに乗ってくれてありがとう。魁利くん」
……表情は見えない。しかし、怒るような、苛ついているような空気は微塵も感じられなかった。
(……いつも通り笑ってんだろ、どうせ。)
そう思うと、どうもまた、胸の内が静かに燻る。
思わず、トン、とメニューを目の前に立てて、背を丸めた。
───今度は自分の姿を隠すように。
「……おまわりさんには、いろいろと“借り”があるもんで。」
「───そうだ、魁利くん。また連絡してもいいか?」
「……は…?」
店から出て、しばらくした頃…… その言葉に、思わず足が止まった。
「よければ、またこうして……一緒にご飯でもどうだろう、と思ったんだが。」
「……いや……まずさ。オレと圭ちゃん、特にそーいうの交換したことないでしょ?連絡もなにもないんじゃねーの?」
「あれっ、そうだったか……じゃあ、少しだけ待ってくれ。俺の電話番号だけ渡しておこう。」
「……なんでだよ、別にいいって……ちょっと……」
オレの制止の声が聞こえないとでも言うのか、圭ちゃんは鞄から出したメモ帳にスラスラと数字の羅列を書いていく。そのまま ページを破って、几帳面な字の書かれた紙きれをこちらに差し出してきた。
「嫌なら無視して構わない。でも……もし都合が合う時があれば、ここに連絡をしてくれると嬉しい。」
「…………気が向いたらね。」
───オレはそれを手に取って、そのままポケットに押し込んだ。
目の前には交差点。
信号待ちの大衆のすぐそばまで差し掛かった時、赤信号がちょうどオレの味方をした。
「───オレ、こっちだから。じゃあね」
くる、と方向転換をして、人混みに紛れながら横断歩道を渡る。
(……ホントは道、違うけど……いいや。適当に歩いて帰るか。)
そんなことを考えながら少し進んだ頃に、随分後ろから声がしたような気がした。
「───またな!」
(…………二度と乗ってやるもんか。)
───進んだ先に入った路地裏で、ふと足を止め、ポケットの中身を取り出した。
(───持っとくだけだからな。)
掴んだ紙きれを再びぐしゃっと奥に突っ込んで、改めて帰路につく。
(……アデュー。おまわりさん)
───Merci pour cet après-midi horriblement merveilleux.
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