アリスは終始北斗に着いて回り、瞳を輝かせた
「まるでジェンガね 」
「なんでも珍しそうだな」
いちいち北斗のすることに興味深々のアリスを見て、北斗が微笑む。なんでも無邪気に喜び楽しそうにしている彼女を見ると、こっちまで楽しくなる
北斗がポケットからマッチを取り出すと、バケツの淵でシュッと擦って枯葉の中に放りこんだ
杉の葉はあっと言う間に燃え出し、パチパチと音を立てた
炎は葉から枝に・・・そして大きくなりながら薪に移っていた
ゴウゴウと薪が大きく燃え出すと、北斗がかまどの上に二つ、先ほどの鍋を火にかけた
「食料品庫へ行って、砂糖の袋を四つ持ってきてくれ」
「はぁ~い」
「はぁ~い」
アリスと明が、キャイキャイ二人で走っていく、アリスが胸に三つと明が一つ砂糖袋を抱えて帰って来た
「ありがとう 」
ニッコリ微笑む北斗に褒められて、なんだかアリスは嬉しかった
北斗はポケットからペディナイフを取り出し、砂糖袋の底をスパンッと切った
すると野イチゴの鍋に、ドサーーッとサラサラの砂糖がみるみる焼べくべられた
「そんなにお砂糖を入れると身体によくないんじゃないの?それにこのお砂糖白くないわ?」
アリスは不安になって北斗に尋ねた、小さいころから母親に甘い物の摂り過ぎは、百害あって一利なしと教えられていた
「ジャムなんて一度に沢山食べないから大丈夫だよ、それにこの砂糖は天然物でうんと甘い方が長く保存できるんだ、白い砂糖は販売しやすいように色んなものが入ってるけどこれが本来の砂糖だよ」
北斗はこともなげにそう言うと、大きな木じゃくしを渡した。アリスは嬉しそうに野イチゴを混ぜた
明はモンシロチョウを追いかけまわしている
次に北斗が納屋から木箱を持ってきた、木箱に入っていたガラス瓶を取り出し、煮立ってきたお湯の中にポトンポトンと次々落した
そうやって暫く瓶を煮た後、トングで順番にすくいあげ、プラスチック製で出来たクリーム色のフードコンテナーに並べて乾かした
アリスが熱々のガラス瓶をじっと見つめていると
冷えていくと同時に、気持ち良いほどあっという間に乾いてガラス瓶は美しく透き通った
アリスはその工程に見惚れた
陽に照らされてキラキラと光るガラス瓶が沢山出来上がった頃、野イチゴの方はだんだん白くあくが湧いてきて、アリスと明は順番にあくを丁寧に掬って捨てた
北斗はジャムを焦がさないように、かまどの風通し窓を狭めて火加減を調節した
明が根気よく丁寧にあくを掬っては捨て、掬っては捨て
アリスが木じゃくしでうんうん混ぜる、二人は真面目に手作業を行った
やがて野イチゴジャムはとろりととろみが付き、糸を引き始めた
辺りは甘いジャムの匂いが漂い、蜂や蝶々が集まってきていた
「よし!火からおろして、粗熱を取ったら瓶に移す作業をしよう」
明がテーブルに順番にガラス瓶を並べる、北斗がジャムを150ミリのレードルで掬ってガラス瓶に詰める
アリスがまだ熱いうちにきっちり蓋を締めていく、そうするとジャムの酸化が防がれるそうだ
「120個できたな、まずまずじゃないか?」
北斗が出来立てのジャム瓶いっぱい入った、木箱を重ねた
「あのジャムにラベルを貼りたいわ!」
「ラベル?日曜市に出すのに?」
「例えば日付をかいたり、成宮牧場のロゴを考えてとってもおしゃれにするの!」
そう言うとスマホをアリスは北斗に見せる。そこには百貨店で売られている、贈呈用の高級ジャムが仰々しい包装で映っていた
「一個3千円?すごいな! 」
北斗が感心したように言った
「包装一つでとても変わるのよ、例えば・・・」
アリスが紙を八角形にして色鉛筆を何本も使って、縁に装飾をした模様を描いたラベルを作った。北斗がそれをマジマジと見る
「アリスはセンスがあるな、これなんか本当にきれいだ、組み合わされている色の配色がとても綺麗だ。よく計算されている 」
そう言ってアリスの頭をやさしく撫でた
「感性の豊かな俺の自慢の奥さん」
と北斗が独り言のようにつぶやいてどこかへ行ったので、アリスは真っ赤になって照れてしまった
まるで植物に水をやるように彼の愛がアリスの自尊心に染み渡る
そしてアリスは120個の全部のジャム瓶に、このラベルを貼ろうと決意した
「さぁ!腹が減ったからメシにしよう」
そう言うと北斗がお椀に余っている残りのジャムをこんもりよそった
三人が作った野イチゴジャムは、黒に近い深い赤で透き通ってキラキラしていた
そして北斗が食料品庫から長いバケットを二本、持ってきて二人の前で薄く切り出した
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