私は百科事典ほどもある分厚いページを捲り一曲を探す。出来れば歌いやすいものがいい。
「ご主人様。あたしと、デュエット。デュエット」
安浦がもう一つのマイクに飛び掛かる。私はデュエットというのが解らず。
「これにする」
適当……。
「やったー! あたしの好きな歌! しかも、ご主人様とデュエット!」
二人の歌声が個室に溢れる。
安浦のコロコロした歌と、私の・・・取り合えず声が流れて、個室を満たす。初めてカラオケという所で歌った歌は悪くなかった。何と言うか・・・みんなの前で歌うので、気恥しい。けれど、みんな聞いてくれるので清々しくなり、渡部の気持ちが少し解るような気がした。
カラオケはまずまずだったな。これなら、また来ようかなとも思う。こんな楽しい時を少しでも過ごせたことに気持ちが安らいだ。今までの悪夢や混乱ばかりですっかり参っていた自分に少し栄養を与えられたかも……呉林たちも呼んだら楽しいかも。
私と安浦を乗せて中村の自動車が、みんなの高揚した精神よろしくハイスピードで土浦駅に着く。上村を除いて……。
「ありがとうございましたー」
「中村さん。上村さん。ありがとうございます」
安浦もとてもいい気分転換が出来て、快活な感じになっていた。
「仕事に根詰めるのもいいが、気分転換に根詰めるのもたまにはいいだろう」
中村は出っ張った腹から声を出した。歌い過ぎで喉が痛いのだろう。
私は大抵はパチンコや競馬で湯水のように金を使って、一人で遊ぶたちだったが、この時、いや、少し前からこんな感じの清々しい気分を感じられるようになった。
「また今度もお願いします」
私は心からそう言った。
「うん。また一緒に行こうよ」
こっちはいかにも普通な声の上村。
「また、仕事を頑張りましょう。ご主人様」
私は一曲しか歌っていないが初めてだからか喉が渇いていた。安浦も行きたがり土浦駅の近くのコンビニで、また飲み物を買うことにした。私たちは弾むように歩き出し、南米に行くための活力を得たことに二人で嬉しがった……。
飲み物を漁って上機嫌でコンビニのレジに並んでいると、
「お兄ちゃん。またお願いね」
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