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公園での失態から、私は生きた心地がしなかった。
月曜日、火曜日……。
会社で真壁とすれ違うたびに心臓が跳ね上がる。
けれど、彼は意外にもいつも通り
生意気な笑みを浮かべて「お疲れ様です、マネージャー」と言うだけだった。
(……言いふらしてはいないみたいだけど、何か企んでそうなのよね…)
疑心暗鬼のまま迎えた金曜日の夜
部署のプロジェクト打ち上げという、断りづらい飲み会が開かれた。
私はいつもの「氷の女王」の仮面を被り、淡々と酒を口に運ぶ。
「神代さん、今日もお綺麗ですね。……あ、お酒空いてますよ」
隣に座り込んできたのは、他部署の課長。
既婚者のくせに女癖が悪いと評判の男だ。
露骨に肩を抱き寄せようとする彼の手を、私は冷たくあしらう。
「結構です。自分で注ぎますから」
「冷たいなあ。いいじゃないですか、少しぐらい羽目を外しても。……本当は、もっと情熱的なんでしょう?」
下卑た笑いとともに、彼は執拗に私のグラスに強い酒を注いでくる。
精神的な疲れもあってか、アルコールがいつも以上に回るのが早かった。
視界がぐにゃりと歪み、思考が霧に包まれていく。
「……っ、ちょっ、と…お手洗いに……」
「おっと、ふらついてる。危ないな、送りますよ」
課長が待ってましたと言わんばかりに私の腰を引き寄せ、店を出ようとする。
抵抗しようにも力が入らない。
意識が遠のく中、無理やりタクシーに押し込まれそうになった、その時───
「そこまでにしてもらえませんか。うちのマネージャー、かなり酔ってるんで」
低く、有無を言わさぬ声。
私の腕を掴んでいた課長の手が、強引に引き剥がされる。
ぼやけた視界に映ったのは、真壁の鋭い眼差しだった。
「なんだ君は。今は私が送るところ……」
「『俺の連れ』なんですよ。……ね? 怜さん」
真壁が私の耳元で、聞いたこともないほど甘い声で名前を呼んだ。
その熱に、酔った脳がさらに溶かされる。
真壁は呆然とする課長を置き去りにし、私を抱きかかえるようにして自分の車へと運んだ。
「……んん…っ、まか……べ……?」
「……全く。隙だらけですよ、あのままホテルに連れ込まれたらどうするつもりだったんですか」
車内に放り込まれた私に、真壁は呆れたような、でもどこか怒っているような溜息をつく。
密室になった車内
真壁の体温と、微かな香水の匂い。
極限の緊張と、助けられた安心感。
そして——数日前の、あの秘密を共有した高揚感。
「……真壁…くん……」
「なんです」
ハンドルを握ろうとした真壁の腕を、私は無意識に掴んでいた。
「氷の女王」のプライドなんて、もうどこにもない。
寂しくて、怖くて、誰かに触れてほしかった。
何より、この意地悪な後輩に、自分だけを見てほしかった。
「……行かないで…」
私は、自分でも驚くほど熱い吐息とともに、彼の首筋に手を回した。
月明かりに照らされた彼の瞳が、一瞬で捕食者のそれに変わる。
「……っ、男のこと煽りすぎです」
彼が私の唇を塞いだのは、それから一秒も経たないうちだった。
#コスプレ
#ドS